第39話 朽ち果てていくフェンリル教会を救え

 私たちが見つけた孤児院は、子供の数は多いのに今にも朽ち果てそうな孤児院だった。何故そこを選んだのかと言うと、フェンリル信仰らしい。

 それならば、何故貴族のフェンリルが綺麗にしないのかと言うと、貴族のフェンリル達は他の綺麗な孤児院を支援していて、誰も寄り付かないのだという。


 それならば!

 それならば我ら兄妹がするしかあるめぇ!


 ――となったのである。

 ボロボロだけど温かい笑い声が響く孤児院のドアをノックすると、一人のお年を召した馬獣人のシスターが現れた。



「はい? どちら様でしょう?」

「俺達はフェンリル兄妹のカルシフォンと妹のカオルです。ここはフェンリル信仰なのに、ここに住むフェンリルが全く何もしていないと聞き、とても恥ずかしく思い、それでも進行して下さるこの孤児院の為にと訪れたのです」

「フェンリル様……っ!」

「建物も随分と傷んでいますし、もし良ければ、我ら兄妹に支援させて頂けないでしょうか?」

「ああああっ」

「シスターマーガレットどうしました?」

「シスター?」



 そう言うと若いシスター2人が駆け寄ってきて、シスターマーガレットと呼ばれた彼女を支えた。



「この方々はフェンリルです。フェンリルの兄妹……。嗚呼、フェンリル様はお見捨てになっていなかった……」



 泣き崩れるシスターマーガレットに私たちが困惑していると、中に案内された。

 子供たちもどこか不安そうだったが、獣人化を解いてフェンリルの姿になるとワッと歓声があがり、兄もまたフェンリルの姿に戻って案内された部屋へと入った。


 何でも、貴族のフェンリル達は別の教会を整えたり整備したりしているらしいが、フェンリルを崇拝するこの教会には目もくれないのだという。

 伯爵の祖父母の時代は大事にしていたらしいのだが……。



「では、俺達がこの教会を守り、元の栄えるフェンリル教会にして見せよう」

「私たちは神格持ちの兄妹なので、きっと祝福がありますよ」

「「「まぁ……」」」



 まさか神格持ちが来るとは思わなかったのだろう。3人は目を見開き固まっていた。すると光りと同時に母が現れ、その姿は神々しいフェンリルの姿。



「ああ、こうも寂れてしまうとは……嘆かわしい事ですね」

「フェ、フェンリル様、申し訳ありません!」

「何卒お許しをっ!」

「構いません。お金の事でしたら全く心配はありません。そうですよね?」

「はい母上」

「うん、タップリあるよ」

「それより、何故ここの貴族がフェンリルでありながら教会を放置したのか、そちらの方が気になります。神々でさえも分からぬ事があるのですよ」

「恐れながら……」



 そう言うと1人のシスターが語り掛けてきた。

 何でも現代とその前の伯爵様は金儲けにご執心で、子供が多く金のかかるこの教会を見て見ぬふりをして放置をしているそうだ。

 月々決まった金額はくれど、それは銀貨5枚ばかり。

 気持ちと言うには余りにも酷すぎる状態だった。

 そこで、若いシスターやある程度年齢のいった子供達は、危険だと解りながらお肉になる獣の世話をしたりしてお金を貰い、何とか生活を切り詰めてやってきたそうだ。


 しかし、それも限界が来始めている。

 それは、施設の老朽化だ。



「確かに施設の老朽化は急務の様ですね。これでは建て替えようにも買い換えた方が早そうです」

「それは解っているのですが……何せお金が無く」

「お金の心配はもういりませんよ。カルシフォン、この場所の近くに屋敷を買ってきなさい」

「分かりました。この近辺でいいんですね」

「ええ、そしてこのフェンリル教会も買いなさい。シスター、権利書を」

「この教会を買うのですか?」

「ええ、一度買って、ある交渉を致します。その際にお返しするでしょう」

「大した交渉ではありません。部屋を1つ貸して貰う代わりに権利書を返すという交渉をするだけです」



 そう兄が伝えるとボロボロと泣き始めたシスターマーガレットは、泣きながらも立ち上がり権利書を手渡してくれた。



「この権利書を貴方がたは売ったことにします。そう、神である私に売った事で、加護がこの孤児院には注がれます」

「な、加護を……ですか?」

「ここにいる子供たちは、空腹で泣く事は無くなるでしょう。愛情溢れる家庭を築くことが出来るでしょう。就職にも困らず生活もできるでしょう。その3つの加護を与えます」



 これにはシスターたちも呆然とし、母は笑顔でシスターたちに頭を下げた。



「我が一族の恥です。この程度の事はさせて頂きます」

「フェンリル様……」

「ありがとうございます……」

「では母上、屋敷を購入して参ります。大人の力が必要だ、悔しいがヴィーザル頼む」

「分かった」



 こうして私たちはお留守番となったが、兄とヴィーザルの機転の速さと行動力の速さにより、今いる教会から徒歩5分にある売り出されたばかりの屋敷を購入する事が出来た。

 貴族が作ったはいいが支払えなくなったとかで、そこを買ったらしい。

 また、子供たちの人数をプリシアと連れて行っていたラテちゃんとで連絡し合っていた為、ベッドの購入と急ぎの搬入がされるらしい。

 その他必要なモノに関しても二人が動いて買い付けてくるのに半日。



「明日にはベッドの搬入が終わるそうです。今日まではこの教会で寝泊まりをお願いします」

「ありがとう御座います!」

「ですが本当に私たちには」

「お金が無くても構いません。これからは俺達が支援していくのだから」

「女神になりたくない神格持ちなので、ここは兄に全面お願いします」

「了解したよ」



 そして子供たちを全員連れて明日から入る屋敷へと入ると、出来たばかりの建物な為美しく綺麗で、部屋数も子供達より多いくらいだ。

 そこを子供達が駆け回り、ある程度自由にさせていると――。



「では権利書をお返しします。こちらの教会は後日建て直させて貰いますので、その際またお借りしたいのですが宜しいですか?」

「は、はい!」

「豪華なものは作りませんが、それでも覗きたくなるような、訪れたくなるような教会にしますからね」

「――有難うございます」

「それで、交渉ですが」

「どこでも好きなお部屋をお使いくださいませ」

「ありがとうございます。ただ、俺は賃貸と言う形で借りたいのです。間借りですね」

「でもそれでは……」

「新しくなっても、今からまだまだお金は掛かります。金があって困るものではありませんからね。執着しすぎは行けませんが」



 そう母が告げるとシスター達も頷き、兄は一番奥の部屋で日当たりの悪い部屋を賃貸し、お金はこの領の借家持ちと同じ料金を毎月支払う事となった。

 こうして扉が付き、イエスタ、廃坑ダンジョン、初期ダンジョンの3つの扉が付いたことになる。

 無論入れるのは私たちのみだ。



「そして、こちらはお金ですが、まずは先立つ物が必要でしょうから寄付致します。お納めください」

「あ、あ、有難うございます」



 ずっしりと重たいそれに幾ら入っているかは知らないけれど、兄の事だから今まで支えて守ってきてくれたお礼も兼ねているんだろうなと思った。

 そして前もって今月分の賃金も支払い、明日からは此処を拠点に頑張る事になる。


 まずは、兄たちは壊れた教会の建て替え等に忙しそうなので、何が食べ物で売れるか調べるべく私たち女性陣とお爺ちゃんは街中に繰り出す事にしたのだが――。


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