第38話 ウエスタン領での馬車移動で

 目指すは王都に近いウエスタン領。

 ウエスタン領は肉になる魔物の飼育に勤しむ、いわば牧場のような場所があり、魔物の肉も食べるけれど、自分たちの領でとれる肉を食す傾向が強いらしい。

 それでも、ドラゴンの肉となると別格らしく高値がつくのだとか。

 まぁ、ドラゴンの肉売りませんけど?


 我らが仲間たちはドラゴンの肉で舌が肥えているんです!

 それを唸らせるだけの肉が他にありますか!?

 ドラゴンしかないでしょう!

 でも、意外と元の世界の鳥肉なんかも好きで、よく出してるけどね。

 お爺ちゃんなんて「こんな魔物狩ったかのう?」なんてちょっとボケた事言っているけど可愛いよね!


 そんな事を考えながら走ってどれくらい経ったでしょう。

 そろそろ3週間と言ったところで、ようやくウエスタン領に到着した。



「ここがウエスタン領」

「凄い、アレ全部お肉になる魔物ですか~?」

「これはまた、領地を上げてのとは聞いておったが凄いのう」



 そう私たちが会話していると、入国のお兄さんに声を掛けられた。



「こりゃまた珍しいPTだなぁ……。お前さん達はこの領地に何用で?」

「美味しいものが食べたくて! いえ、ドラゴンとかの解体が沢山出来るって聞いたので!」

「ドラゴン肉! そいつはいいな! 是非我が領地にもお零れを分けて欲しいよ」

「あははは」



 そんな和やかなムードの中、城壁の中に入るとチラッと見えていた放牧地帯が凄い。

 けれど、獣人を襲わない様に囲いはしてあるので大丈夫そうだ。

 行きも帰りも馬車が用意されていて、そこで獣人の姿に戻ると乗合馬車に乗ってウエスタン領の主都を目指す。

 正直走った方が早いのだが、走ると放牧している魔物が驚くという事で、馬車が使われているらしい。

 ああ、もどかしい……。でも仕方ない、郷に入っては郷に従えっていうもんね。



「まったりのんびり、お尻痛い」

「兄さんの膝の上に乗っていいぞ」

「お兄ちゃんじゃ大きさが足りなくてバランスが……」

「ならこっちに来い」

「ヴィーザルの御膝借りまーす」

「ヴィーザル……」

「カルシフォンも大きくなればこれくらい簡単なんだがな?」

「くっ!」



 この勝負、ヴィーザルの勝ちである。

 筋肉質で硬い膝の上だけど、馬車の板の上よりはよほどまし。

 まだ子供だからお尻のお肉が付ききれてなくて痛いのよね。

 サトリちゃんは「少し痛いくらいですね~」なんて呑気に言っていたけど、私は激痛でしたわ。



「ここから何日くらいしたら王都に入るのかな」

「丁度5日くらいかな」

「5日……」

「お前さんたちは旅のアイテムとかは持ってなさそうだが、アイテムボックスかい? いいねぇ、アイテムボックス持ちで」

「そうですね、気楽です」



 そう声をかけてきたのはクマ獣人のおじさんだった。

 1人大きいので横幅も広いんだよね。



「ご飯はどうするんだい?」

「レアスキル持ちなので、そっちを使って何とかしてます」

「なるほど。空間魔法持ちか」

「えへへ」

「それで小さくても冒険が出来てる訳だ」

「そうなりますね」

「冒険者ランクは幾つだい?」

「Sランクです」

「えっ?」

「ほら」



 冒険者カードを見せると、金色に輝くSランク冒険者が持つギルドカードを見せた。大変驚かれたが気分がいい。



「まぁ、フェンリルなら、さもありなんって感じかな」

「ふふふ」

「そう言えばウエスタンの領地には他のフェンリルも住んでるよ。貴族様のフェンリルだが、神の御手付きになったとかで君たちくらいの子がいるね」



 その言葉に私と兄が顔を見合わせると、恐らく父の残した従姉弟かもしれないと気を引き締め直す。

 出来れば仲良くしたいけど、恐らく仲良くは出来ないんじゃないかなと私の勘が告げている。

 こういう時の勘は当たるのだ。



「ただ美男美女で有名でね。クリス様とクリスティーヌ様っていうんだが、プライドは高いけどお美しいらしいよ」

「そうなんですね」

「首都、バルハガードの学園に通っていらっしゃるらしい」

「へぇ」

「お貴族様だから、早々会わないだろうけれどね」



 絶対会いたくない。

 とは言え、争いも起こしたくはない。

 穏便に過ごして穏便に移動するのが一番だろう。

 そんな事を考えながらその日は居住空間で一夜を過ごそうとしたのだが――。



「クリスとクリスティーヌ? ああ、屑夫の何番目かの奥さんの子ね。双子だったから覚えてるわ」

「うちも2人しかいませんが……」

「それはそれ、今アレコレ言っても仕方ないけれど、そうね……。貴族のフェンリルと婚姻したけれど、確かに神の御手付きにはなったのよ。ただ……生まれた二人に加護はつかなかったの。だからただの貴族よ」

「え!?」

「そうなんですか?」



 神の御手付きになったのなら加護の1つでもつきそうだが、そうではなかったらしい。

 そもそも、私と兄に加護がついていることが珍しいのだとか。

 貴族と神格ありでは神格ありの方が身分高く、貴族はひれ伏せねばならない立場らしいというのを初めて知った。



「だから、そのクリスとクリスティーヌが貴方達を馬鹿にした時点で、神々の怒りに触れます。何が起きるかは分かりませんけどね」

「加護をつけている者からの怒りの審判が下されるんですよ」

「駄女神じゃ無理じゃないですか?」

「そそそそ! そんなことありません! バッチリキッチリ締め上げます!」

「は――……無理そう」

「無理じゃないですぅぅ!」

「駄女神、カオルが傷つけられたら覚えておけよ」

「ひっ! ヴィーザル様……そ、そうですね。気を付けておきます! もう、これほどまでにないっていう罰を下しますから!」

「ならいい」



 どっちが保護対象だろうか。

 思わずそう思ってしまったけれど、神格的にはヴィーザルが上なので仕方ないんだろうなと思う事にした。

 しかし双子の美男美女ねぇ……。

 お爺ちゃんは兎も角として、兄とヴィーザル、美女ならサトリちゃんを見て目が鍛えられている私から見ても美男美女に見えたら、本物なんだろうな。


 今まで会ったことないけど、そういう人。

 無論お母さんは別として。

 お母さん別格の特別だものね。だって女神だし。

 そんな事を考えつつ、5日掛けて私たちはウエスタン領の主都へと到着したのだった。

 そしてやることはまず1つ!



「孤児院に行きましょう!」

「そうだな!」



 賃貸させて貰って扉を作る!

 まずやるべきはそれだと私たちは孤児院を聞き込み調査して、とある1つの孤児院へとたどり着いたのだった。

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