第37話 おでん屋台と、ミラーちゃん

 お昼のオーデンタイムは人、人、いや、獣人が押し寄せてきました。



「香りが違うぞ!」

「どこのオーデンも同じだと思っていたがここのは違う!」

「何と風味豊かだ……」

「お姉さん追加でもう一杯!」



 と、大盛況の後――30分もせず、おでんが無くなった。



「すみません~! 売り切れです~!」

「「「ええええええ!?」」」

「あの、明日はもっと一杯持って来ますので!」

「何時までいる? 毎日いるか!?」

「えーっと~」

「期間限定のお店なんです。私たち冒険者なので」



 その一言にザワリと揺れる空気。

 私たちが冒険者には見えない……かも知れない!



「なので、冒険に出る時や、他国に行く時はちょっと留守に……」

「嫌だ、嫌だ! この味に慣れたら、この味を知ってしまったら他のオーデンに戻ろうにも戻れない!」

「出汁、風味全てが違う!」

「何とか出来ないのか!?」

「そう言えば朝のポトフも旨かった……」

「ポトフだって!?」

「この2人が朝売っていたんだよ……アレも絶品だったなぁ」



 こうして噂って広がっていくのね。

 そんな事を私とサトリちゃんは盛り上がる男性陣を見て思ったのだった。



「ともあれ、売り切れは売り切れ。売れるものがありません! また明日ご来店くださいませ」

「皆さま有難うございました~! お仕事午後も頑張ってねぇ~?」



 こうしてサトリちゃんが引っ張る屋台ごと、兄の居住空間へと消えた私たち。

 無論レアスキルな為、どよめきが上がったが気にしない。

 何とか中に入って2人一緒に「ふ――……」と息を吐く。



「凄い勢いでしたね」

「これは、私たちがいない時の朝とお昼は大変な事になるのでは?」

「どうしましょう……」

「うーん。他人に任せるというのも怖いし、ちょっと無理かな」

「ですよね~」



 孤児院の子供たちに頼むというのも1つの案として出たけれど、そこまでやっていると多分色々と神様たちが「慈善事業」として神格を上げちゃいそうな気がする。

 それでは本末転倒なのだ。

 獣人さんたちの胃袋を犠牲にしてでも、私は女神化したくない!

 私は情熱的な恋愛をして結婚するのよ!



「まぁ、明日からは量を更に増やして持って行きましょう」

「そうですね」

「相当売れたみたいだね」

「帰りが早かったな」

「ワシらも食べようかと言ったらもうおらんなんだ」

「お帰りなさい。どこ行ってたの?」

「次の場所に移動する為の地図を買って来てたんだ」

「なるほど」

「それに首都にも行ってみたいからな。首都に近いウエスタン領だと、色々解体もしてくれるらしい」

「それは早く行かねば。寧ろそっちを優先したいです」

「なら、カスタニア領より先にウエスタン領を目指そうか。少し遠出になるけどいいかな?」

「うん」

「いいぞい」

「なら、1週間後には出発しよう」



 こうして、1週間後には一旦お店はお終いにして、ウエスタン領を目指すことになった。

 翌日1週間後にはウエスタン領に行くことが決まったことを告げると、地面に倒れ込んで嘆き悲しむ獣人達もいたが、それはそれ、これはこれ。

 ――私は女神になりとうないのじゃよ。

 って、お爺ちゃん口調で言いたい。


 それからはお通夜の様な方々と接しつつも、凄い勢いで食べていく皆さんの為に料理を増やしつつ対応し、翌日が旅立ちの日――。



「皆さんお世話になりました! 次の領地でも頑張ります!」

「うう……カオルちゃん、カオルちゃんっ」

「サトリィィィィ!」

「オーデンにポトフ……君たちは彼女たちがいないと! 彼女たちがいないと出会えない素敵な料理だったよ!」



 皆別れが様々である。

 こうしてサトリちゃんが涙を浮かべつつ「皆さんまたいずれ、お元気で~~!」と手を振りながら片手で屋台を引っ張っていく……。

 感動的なシーンだけど、筋肉だなって思った。



「さて、仕事も一先ず終わりましたことですし~! 洗い物しちゃいますね!」

「なら、私は自分の居住空間で暫くの遠征用の食事作ってくるよ」

「はーい」



 そう言うと屋台をサトリちゃんに任せて自分の居住空間へ。

 兄が扉を繋げてくれたおかげでバリバリしなくてもいいのだ。

 うーん、何を作ろうかな。

 暫く続く旅路となると、力の付くものがいい。

 朝の朝食から作っていこう。


 こうして頭で料理の事を考えつつ、朝はガッツリとドラゴンバーガーかドラゴンサンドイッチを作ろうと思う。

 からしが苦手なサトリちゃんの為に、からし抜きの美味しいのを作ろう。

 パンも出来ればコンビニに売っているようなのじゃなくて分厚いのがいい。


 それらを【ネットスーパー】で次々購入して、机の上に並べていく。

 毎度朝と昼はバタバタするから、せめて朝の分だけでも作っておきたい。



「プリシアちゃん手伝ってくれる?」

「もちろん よ」



 そう言うとプリシアちゃんがパンの袋を破ったりパンにはさむキュウリやレタス、キャベツを切ったり千切ったりしてくれている間にお肉の下準備。

 カツサンドならぬドラゴンサンドを作るべく、油でこんがりパン粉をつけて揚げていくのだ。

 さくジュワはやはり大事だと思うのよね。

 次々作ってはパンにはさんでラップで大きなお皿にそのままドーンと並べていく。

 大輪の花が出来上がれば次、次の大輪の花が出来れば次……それを繰り返していくと、部屋にヴィーザルが現れた。



「ヴィーザルどうしたの」

「俺も手伝えることは無いかと思って」

「それなら丁度良かったわ。ジャガイモ洗ってくれる? 土が落ちるまで」

「土が落ちるまでだな」



 ヴィーザルが来ると段ボールで買ったジャガイモが大量にあり、思わず足竦む様子に笑ってしまった。



「あなた方が食べる、甘口カレーやシチューでは、沢山のジャガイモが入っていますよね? それが数日分となるとその量になる訳ですよ」

「なるほど……」

「料理出来る獣人もう一人欲しいなぁ……。料理専門が一人欲しい……」

「ふむ。ならこれならどうだ? 【カオルに対してミラーを発動する】」

「へ?」



 そう言ってる間に私の隣にもう一人の私が同じ表情で立っているけれど……目の色が白い? 私の目の色白バージョンだ。



「ミラーと言うもう一人の自分を出す魔法だな。やっている事、話していることは全部カオルの記憶に残るが、まぁ、早い話が」

「コピーロボッ……」

「ん? なんだって?」

「いや、凄いなと思って。2人で料理しようか」



 もう一人の自分に告げると、小さく頷き料理を開始。

 私のコピーのようなモノなので手際も良い、此れは凄い魔法だなぁ。



「小さい頃は自分にこの魔法を掛けて城から抜け出して冒険者の振りをしていた時もある」

「わぁ……」

「お陰で強くなったが……」

「私の事もザシュン! と一発でしたもんね!」

「……それは悪かったと思ってる」

「ふふふ」



 有難いけど私は根に持つタイプなのだ。

 度々どこかでチクリと刺すから気を付けてね?



「ミラーちゃんの消し方は?」

「カオルが念じれば消えるし、ある程度の命令でも消える」

「そうなのね」

「悪戯 した ことは?」



 鋭い……そこまで考えたこと無かった。ジト目でヴィーザルを見ると首を横に振り「喋りもしないお前といて楽しいか?」と聞かれたので、悪戯をしたことはないのだろう。そこはとても紳士的だ。



「でもこのコピー……じゃない、ミラーちゃんは便利だね」

「まぁな」

「黙々と作業してくれるから捗るし」

「そうだな」

「こっちに一人置いて作業していて貰おうかな? 効果時間とかってあるの?」

「最大で12時間だな」

「12時間も料理はしないなぁ」

「簡単な命令くらいなら遂行する。どこまで作っておけとか、片付けしておいてくれって言えばしてくれる。火の始末もお前はしっかりしてるから忘れないだろう」

「でも、片付けと火の元の確認だけはしてねとは言いそう」

「便利だろ?」

「便利だねぇ」



 これからは私2人とプリシアちゃんが旅へ出る前に料理を頑張ります!

 私がもう一人いると思えば、料理の手間が取っても省けるのよね。



「アイテムボックスは共通?」

「共通だな」

「なら料理の道具とか素材とかアイテムボックスに投げ込んでおいて、後はミラーちゃんに任せようかな。でも皆にお披露目しとかないと驚くかも」

「今日にでもお披露目しておこう」

「うん」



 そしてその夜――。

 ミラーちゃんの初公開をしたのだけれど、兄もプリシアちゃんと同じことを考えたらしく、ヴィーザルに詰め寄っていたのは言うまでもなく。

 誤解が解けるまでに時間がかかったのは言う迄もない。

 そして翌朝、ミラーちゃんに朝ごはんの片付けとお昼ご飯をお願いしてから居住空間から出てフェンリルの姿へ。



「いざ! ウエスタン領へ!」



 解体ガッツリして貰いたいわ~!

 そしてお金が手に入ったら何しようかな~。

 やっぱり美味しいものよね! たまには甘い物が食べたいぞ!

 ウエスタン領にあればいいけどな!

 そんな事を思いつつ、最初から全力で走る私たちがいたのであった――。



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