第36話 初めてのポトフ屋台

 朝7時、いい香りをさせながら指定された店の前に居住空間からサトリちゃんに引っ張って貰って屋台を出す。

 パンはクロワッサンを某海外チェーンの様に大量買いしてみた。

 1つオープン記念でプレゼントしつつポトフを食べて貰うのだ。



「お、旨そうな匂いだな」

「今日から始めたんです。一杯如何ですか?」

「貰おうか」



 こうして犬獣人の男性に一杯銀貨3枚で食べて貰う。

 相場を調べたけれど、銀貨1枚は日本円でいう所の100円のようだ。

 300円はちょっと朝食にしてはお高い相場だけど、味には自信がある!

 さぁ、食べてみてくれ、さぁさぁさぁ!



「旨いな! こんな旨い野菜も肉もたっぷりのスープは初めてだ!」

「私の住んでいた所で言う、ポトフっていうんです。体も温まりますよ」

「女の子が作ったんですから美味しいですよね~」

「うふふ」



 この一言で男性陣が群がる。

 それもそうだ、サトリちゃんは今が食べ頃……もとい、素晴らしい肉体美を持つフワフワな髪のツートンカラーのホワイトタイガー獣人。

 その子がエプロン装備で「お仕事頑張ってね?」なんていつつ手渡ししてくれたら、男性陣は堪ったもんじゃない。

 特に独身男性はドキドキだろう!



「お仕事頑張ってくださいね」

「こっちにも一杯くれ!」

「はーい!」

「こっちのパンも旨いな!」

「パンは今日だけ特別サービスです!」

「旨い!」

「スープが無くなり次第終了ですので~!」

「明日も売ってくれるのか?」

「これは癖になるぞ!」

「そこのホワイトタイガーのお姉さんも明日会えるだろうか……」

「週2回は休みますが、それ以外は朝と昼といますよ」

「昼はオーデン出しますよ~」



 そう宣伝もしながら1時間もせず売り切れてしまい、本日の営業は終了!

 皆さん「旨い!」と言ってくれたので良かった。

 明日も来てくれるかだろうか……なんて嬉しい言葉だわ!



「沢山食べて貰えましたね~」

「この売り上げで更に材料を買い込めるわ~」

「うふふ。ダンジョンにいる時はこんな生活が出来るなんて思ってもいませんでしたけど、私、今とっても幸せです~」

「サトリちゃんっ!」



 私もサトリちゃんを助ける事が出来て良かったよ!

 こんな兄ちゃん獣人ホイホイ……じゃない、優しいサトリちゃんがいてくれて売り上げが伸びて嬉しい限りだよ!



「この分だともっと増やしたいけど……」

「私、力あるんで後3つ増やしても大丈夫ですよ!」

「でも、私たちにはこのくらいが丁度いいのかも」

「そうですか~?」

「ほら、か弱い女子と思って貰えた方が良いじゃない?」

「獣人は逞しい女性も好みですよ♡」

「くっ! ならもう3杯分頑張るか!」

「そうしましょうー!」



 夜寝る時間も考えながらボチボチしていこう……。

 明日からクロワッサンは銀貨1枚にして売ろうっと。

 ワンコイン以内で食べられるならいい方だと思うし、独身男性が多そうだったからお金には余裕が少しある筈……ふふふ。

 ガッツリお金と胃袋をキャッチしてやるわ!


 これぞ俗物!

 俗物的ですぞ!

 女神からはこれで遠ざかる筈!


 そんな事を考えながら「ただいま~」と戻ると、お爺ちゃんたちが集まってくれて屋台を代わりに運んでくれた。

 大きな鍋はサトリちゃんとラテちゃんが洗ってくれる事になり、後はお任せして売り上げを計算、初回にしては上手くいったんじゃないかな!



「その様子だと上手くいったみたいだな」

「お兄ちゃん! そうなの! サトリちゃん凄いのよ? 男性陣メロメロだったの!」

「だが一部の男性はカオルにメロメロだったんじゃないのか?」

「どうかな? そういう獣人は見なかったよ」



 心配性だなぁ……と思っていると、お爺ちゃんが「ふぇっふぇっふぇ!」と笑いながらやってきた。



「心配せんでも、サトリの様に獣人なら成人一歩前なら男どもはソワソワするじゃろうが、カオルはまだまだ成長しきっておらんからのう。成人し来てない獣人に手を出すのはご法度。故に安心じゃて」

「なるほど」

「それを聞いて安心した」

「カオルも過保護が二人もおると大変じゃのう?」

「本当にね?」



 そうお爺ちゃんと会話をしつつ、昼の部も頑張れるように気合も十分だ。

 オーデンはきっと私とお兄ちゃんの様に、異世界から来た人が広めたに違いない。


 昼間までの部にはまだ時間がある為、温かいミルクを飲んで一息入れると、時間までの間、儲けたお金でレジンの道具を買っていく。

 死亡する前の日まで頑張って作っていたので作り方は覚えている。

 まずは自分たちで使うように、レジンの髪留めを作ろうと思ったのだ。

 マニキュアも一式購入してと……。

 細々した道具が多いから、道具入れも購入してこれでOK!


 そんな私の隣に兄が座り興味津々だったが「まずは手ならしに自分で使う髪留めを作ろうかと思って」と微笑むと「楽しみにしてる」と笑顔を向けてくれた。

 嗚呼、11歳のイケメンの顔って眼福。

 無論ヴィーザルもイケメンではあるけれど、最初あった時が最悪だったからなぁ。

 ヤンデルって思っていたけど、今はヤンデル感じがしない。

 やはり何か違うのだろうか?

 精神の安定とか?



「ヴィーザルは初めてあった時あんなにヤンデレだったのに、なんで今落ち着いてるの?」

「……病んでたか?」

「かなり」



 そう問いかけてみると――意外な言葉が返ってきた。



「父の仇討も考えていたのは事実だが、恐らく満たされていなかったんだろうな」

「ふむ?」

「ここにいる奴らといると心地がいい。人間の世界は殺伐としていて、何かと機嫌取りばかりでウザかった」

「ああ……」

「だが、ここだと1人のヴィーザルとしてみられる。それで安心するんだろうな。何か悪い事すれば怒ってくれる誰かがいるし、沈んで居れば誰かが美味しい料理を作ってくれたりするからな。それで精神的に満たされているんだろう」

「良かったねヴィーザル」

「でも、カオルを殺したことは論外だ」

「う……」

「でも痛みを感じないように殺してくれたでしょ?」

「ま、まぁ多分そうだと思うが」

「長い人生そういう事もあるわよ。私あの駄女神の所為で何度か死んだし」

「「駄女神め」」

「でもお兄ちゃんが来てからは死んでないから、皆が私の死亡保障ね!」

「死亡保障って……」

「今度は殺さず守るからな!」

「期待してる!」



 笑顔で言えばヴィーザルはホッと安堵してテライケメンな笑顔を見せてきたので、目が危うく潰れそうだった。

 あの笑顔は反則、反則です!

 元が良すぎるが故に笑顔が素敵だとモテモテですよ!

 お気を付けになって!


 そんな事を思いつつ簡単な髪留めは下準備できたので、火の魔石を浸透させてからレジンで放置。

 中の光は見ない様にと伝えると全員頷いていたので大丈夫だろう。

 後片づけをしてから残り時間でポトフの野菜だけでも切って置く。

 アイテムボックスに入れれば時間は止まってくれるから、新鮮なままだしね!



「サトリちゃん、時間になったらおでんいこうね!」

「ええ、行きましょう~!」

「売り上げちゃうぞー!」

「ちゃうぞー!」

「おー!」



 と、気合を入れていると――。



「うちの女性陣は可愛いのう……。なぁ?」

「あながち間違いではないな」

「可愛いから困るんだ……色々と」

「そうだな、色々と困るな……」

「オスは 大変 だねぇ」



そんな話がされていたのには気がつきませんでした。


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