第34話 狙われた孤児院と追い出し法

 埃まみれの絡んだ毛では人前にあまり出たくない。

 出来れば子供たちの前では綺麗なお姉さんでありたい!

 冒険者のおじさんたちにはまぁ、埃まみれでも「よくぞ頑張りました」みたいなノリでいいかなと思ってボサボサで向かってるけど!


 見た目的に同じ年代の子達も多いけど、フェンリルとしての誇りは忘れてませんとも!

 美しい毛皮でいなくては!

 フワッフワでいなくては!


 そんな事を考えている平和な時間もありました。

 ええ、この時までは。



「え? 地上げ屋?」

「ええ……この付近を買い取ると言って脅してきて……。でもこの子達が身を寄せる場所が無くて……」

「むう、ドルマ様にご報告しときます。その悪徳獣人はどんな輩です?」

「猫獣人の、」

「来たよ先生! 猫獣人!」



 丁度シスターと話をしているとその猫獣人がやってきて、ドカドカと中に入り込んできたけれど、私たちを見て一瞬だけビクリとすると、呼吸を整え私たちを敢えて見ないようにして園長に話しかけてきた。



「それで? 例のモノは手に入りましたかな?」

「いいえ、そのような無礼な真似などできません」

「無礼とは? このコソ泥のような者達は一体何をシスターに要求したんです?」

「それは……」

「お前さんらフェンリルだろ? ちーっとばかりフェンリルの毛をだな、分けてくれればそれでいいって言ったんだよ。なぁ?」

「そうそう。フェンリルの毛……そうだな、一塊くらいあればいいかねぇボス?」

「おうおう、それくらい欲しいねぇ」

「あ、その程度でいいんですか? 抜け毛でいいです?」

「「「は、抜け毛?」」」

「それなら僕のがあるよ。あげよう」

「え」

「良かった、使い道がミサンガくらいしかなくて困ってたんだ」

「一袋で足りますかね~?」



 と、フェンリルの抜け毛の入った袋を見せると、目を輝かせる猫獣人達。

 しかし――奪い取ろうとした猫獣人から咄嗟に隠したのは、サトリちゃんでした。



「あらあら~? まずは、こういう時は交渉、ですよね?」

「そうだな、交渉は必須だろう。神の身である俺が交渉人だ」

「ぐっ」



 そう名乗りを上げたのは意外にもヴィーザルだった。

 あちらは尻込み、こちらはアイテム持ちで交渉の席にも立つという神の交渉人。

 そして――。



「地上げ屋……とか言ったのう? お主、ワシらが何者かは知っておるじゃろうな?」

「な、何者かって。そりゃ金になるフェンリル、」

「だけか? お主の知っている情報はたったのそれだけか?」

「ただのフェンリルだとでも、思っているんですかね~? そーれーともー? 私たちもただの獣人……なんて、思われてますかねー?」

「へ……。へ?」

「俺達はSランク冒険者であり、神格持ちのフェンリル2匹と、神の馬獣人、ホワイトタイガーのレジェンドモンスターに、同じくレジェンドモンスターのフェアリードラゴン。それに、レジェンドスライム2体。お前等はそれらに喧嘩を売っているんだ。覚悟は出来ているんだろうな?」



 そうヴィーザルが口にすると猫獣人達は悲鳴を上げて去っていった。

 お爺ちゃんに【隠密】して貰った所、どうやら地上げ屋と言うのは嘘のようで、実入りのいい孤児院があるからと来ただけのようだ。

 ドエライ内容の私たちが懇意にしているという事も分かった事で、2度と来はしないだろうとの事だった。

 それでもドルマ様に連絡はしておくけど。



「災難でしたな、園長殿」

「いえ、アーバント様にもなんとお礼を言っていいか」

「子が健やかであればそれでええ。子供たちが絶えず笑顔で大した病気もせず、飢えもせず、健やかであればワシらは充分じゃ。のう?」

「ああ、アーバント爺のいう通りだ」

「ああ、神々よ有難うございます!」

「それで、今月分のお金を用意してきたんだが、足りているだろうか? 今から特に寒くなる。毛布など足りているだろうか?」

「はい、フカフカとまではいきませんが、暖かい毛布を買ってあげる事が出来ました。食事も絶えず買えております」

「では、そんな心根の清らかな園長に、この袋を渡して置こう。何かあれば使うといい」



 そう言って兄は自分の風呂場で採取したフェンリルの毛がモサッと入った袋を手渡した。それだけで一財産。貴族にだってなれるだけのお金になるのだが、シスターは驚き目を見開いて「いいいい、頂けません!」と言っている、けれど――。



「ここは貰って置けシスター」

「ヴィーザル様」

「もし仮に、流行り病等あったらどうする。子供たち、シスターにまでその病が蔓延したらどうする。その時金の代わりにもなるそれがあれば、どれだけの命が救える」

「っ!」

「そういうイザと言う時の毛だ。貰って置け」

「――ありがとう……御座いますっ!」



 涙を流し感謝するシスターの頭を撫でるサトリちゃん。

 私にできる事は、少しだけお祈りを捧げる事だけ。

 どれくらいで神格が上がるか分からないけど、子供たちの幸せを願う事くらいは平気だと思う。


 こうして一先ずの問題も解決して、明日のお肉を待つのみとなった。

食べ歩きしてから兄の居住空間に戻り、各自好きな事をやる時間。



「サトリちゃん、普通のミサンガ作れる? 付与できるような奴」

「出来ますよ。孤児院の人達分ですか?」

「お願い出来る?」

「ええ、フェンリルの毛で作りますね~。伸縮性耐久性バッチリなので、子供たちが派手に暴れても平気ですよ~」

「寒い時期だけでも『温熱付与』してあげたいもんねぇ」

「あー。それは良いですねぇ」



 そう会話をしていると――。



「うちの女性陣二人は女神じゃないかと錯覚する時があるんだ」

「少なくとも、女神化をしない為に頑張るんじゃないのか?」

「そうじゃぞ、女神化なんかしたら二人とも引く手あまたじゃ。ワシは結婚断固反対じゃからな!」

「僕の カオル とるの メ!」

「あんたの カオル じゃないわよ」



 と喧嘩が勃発しそうになっていたが大体平和。

 時間が許すまで『温熱付与』をしていき、翌朝シスターに手渡してから使用方法を伝え、シスターたちの分も渡してから冒険者ギルドへ。

 お肉もしっかり受け取り、オーガで売れる部位は売り払いお金に換えて、この得たお金でおでん用の屋台を買うのだ!


 出店は商業ギルドに届けがいるからその足で商業ギルドに行き、出店の話を通して何時でもOKにして貰った。

 無論、出店代は支払う事には成るが仕方ない。

 料金は安いので、まぁ大丈夫だろう。



「朝と、昼には料理を作ります。屋台ですね。ただ、夜子供は寝る時間なので寝ます」

「そうですか、ところでミサンガを更に増やすという手は」

「今手一杯です♡」

「そうですか……」

「暇な時間見つけて作るくらいはできるけどー? 数は期待しないでねぇ?」

「それでいいです! サトリ様お願いします!」

「はーい」



 と、サトリちゃん別枠で仕事をゲットした様子。

 取り敢えず屋台だ。

 ポトフを夜のうちに作っておいて仕立てて起き、翌朝温まっているそれを売りに出すという戦法。


 その間に使ってない部屋におでん屋台を置いて、昼の為にぐつぐつ煮込む。

 それで行けるはずだ!


 紙皿使うから、ゴミ袋は用意しないとね。

 うーん、楽しみになってきた。

 帰ったら色々準備するぞ――!


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