第32話 イエスタで売る為のポトフ

 冒険者ギルドからお肉をたんまりと貰い、ホクホクしながら帰宅した私たち。

 次はオーガ肉だなと気合を入れ、食べ歩きもしてから居住空間へと戻る。

 今日まではオフの日として、ポトフを作る事にしたのだ。

 簡単だしね、手間いらずと言うか、煮込む時間が掛かるだけで楽だからね。


【ネットスーパー】で業務用ソーセージ段ボール入りを購入してアイテムボックスに放り込み、いざ野菜を切っていく。

 野菜もネットスーパーで箱買いしているので、こっちの野菜ってあんまり食べて無いのよね。

 ヴィーザルは何も言わないし、問題ないのかな?



「カオルは料理をするが、家ではどう過ごしてたんだ?」



 と、皆が出払っている所で兄からそう聞かれた。

 皆は朝ごはんで食べたりなかった分を食べ歩きで補充してい来るらしい。

 むう、台所を預かる身としては申し訳ない。



「家では母子家庭だったから、私がおさんどしてたかな」

「それで手際が良いのか」

「ねぇお兄ちゃん。朝に出す屋台のスープって、ポトフとシチューどっちがいいと思う?」

「地域の違いはあるんだろうが、イエスタはあっさりとした朝食を好むから、ポトフじゃないか?」

「やっぱりそうかー」

「それに、肉食の獣人も野菜を食べないるし、ポトフは行けると思うぞ」

「そうだね、そうしよう」

「おでんは昼用だな」

「夜はお子様なのでお休みです」

「ははは!」



 そう笑い合っていると、バリバリっと音と共に駄女神とお母さんが入ってきた。

 私たちが朝と昼に商売をする事を告げると「それで大分抑えられるといいわね」と母は穏やかにいい、駄女神は「女神になると大変ですもんね」と溜息を吐いている。



「今後も魔力溜まりを浄化していく事を考えると、どんな加護を貰うかと冷や冷やしますね」

「本当に何もいらっしゃらない魔力だまりだってあるんでしょう?」

「ええ、ありますよ」

「そっちに賭けるしかないな」

「いても スライム なら いいわね」

「ラテみたいなのが増えるのは困るけど」



 斬鉄剣に憧れしラテは、オリハルコンで敵をバタバタと倒していく強い味方だが、的には絶対回したくないタイプである。

 テイムできて良かった……。

 そもそも、此れ以上テイムする気は私にはなかった。そも、此れ以上テイムする気は私にはなかった。

 過剰戦力だからと言うのもあるけど、流石にこれ以上賄いきれない!

 皆よく食べるんだもん!



「今日1日はオフの日なのに、料理の研究なんて、流石我が娘ですね」

「えへへ、お兄ちゃんと過ごせる時間も幸せです」

「可愛い妹を独占出来て幸せな時間です」

「その可愛い妹を独占したいなら、貴方も神格を上げなくてはなりませんね」

「そうですね……。どうすればいいでしょうか」

「手っ取り早いのは女神と結婚。でも貴方は嫌がるでしょうから、やはり加護を貰うのが一番ですね」

「それが出来れば苦労はしないんですが」

「お兄ちゃんは光魔法使えないの?」



 ふと沸いた疑問。

 すると、使えはするらしいのだが、回復特化タイプらしい。

 それなら確かに仕方ないか……。



「回復特化なら、いい方法がありますよ」

「というと?」

「弱っている魔物、出来れば高位の魔物を助けてあげてみなさい。先に貴方が男神になれば、妹を守ることは容易いですよ」

「頑張ります!」



 おお、お兄ちゃんが俄然やる気を出している。

 でも、神様になったお兄ちゃんかー。タダでさえスパダリみたいなお兄ちゃんが神になったらお嫁さんになりたい人が続出しそうだなぁ。

 まぁ、母が既に女神なので、目を付けている女性は多そうだけど。



「そう言えば、お兄ちゃんを加護している女神様って聞かないね」

「ああ、そこは名を言ってはならないと注意されてるんだ」

「そうなんだ」

「でも、高位の女神と言うのだけは伝えておくよ」

「母も気になって調べましたが分かりませんでした」

「一体何方なんでしょうね」



 謎の多いミステリアスな兄。それもまた良し。

 11歳くらいのイケメン少年だけど、それでいてミステリアスって美味しいわよね。

 こう、お姉さん心を刺激するって言うか!

 ショタコンではない筈なんだけど、性癖が広がっちゃう!



「それで、明日からはオーガ退治ですか?」

「ええ、オーガの肉が欲しいらしくて」

「美味しく料理を作るなら必要かと!」

「あら、うふふ。カオルはいい奥さんいなりそうね」

「そうだといいですね! 将来は素敵な旦那様と結婚して、一軒家で子供たちと幸せに過ごしたいです!」

「その素敵な旦那様に俺はなれるかな?」

「ブブー。兄妹では結婚しませーん」

「手厳しい……」

「「ほほほほほ」」



 こうして私とプリシアでポトフを作り終わる頃、母たちは帰り、代わりに皆が帰宅して「美味しそうな匂いがする!」と騒ぎ始めた。

 お昼にはまだ早い時間だけど、もう少し煮込みたい。



「イエスタの朝ごはんに出そうと思ってるポトフだよ」

「わ――……凄くいい香り。絶対売れますよ!」

「ワシも食べたいのう……」

「体温まる食べ物はイエスタではこの時期からは良いからな」



 元々イエスタは北に位置する場所な為、やはり獣人でも少し寒いと感じるくらいには冷えているのだ。

 人間ならモコモコに着こまないと寒いんだろうな。

 その後、しっかり煮込んだポトフに焼いたパンを用意して食べる事になった私たち。

 時間を掛けてポトフを煮込んだこともあり、味は染みていて美味しかった。

 2日目が一番美味しい事を伝えたけど多分聞いてない。

 聞いてないが――。



「2日目が美味しいなら残しておいて欲しいな」

「俺もだ」

「はいはーい」



 兄とヴィーザルは聞いてくれていたようで、別皿によそって明日食べて貰う事にする。

 お爺ちゃんたちが騒いでも「聞いてない方が悪い」で済ませよう。



「ポトフにこのパン美味しいですね」

「塩パンね。チンして食べると美味しいのよね」

「両方出せたらいいのに」

「パンまでは流石に出せないわよ。時間かかるもの」

「残念です~」

「その代わり、クロワッサンなら出せそうだけどね」



 クロワッサンはいい。美味しい、それなら追加料金で買って貰えれば最高だわ。

 そう、クロワッサンの箱買いをしておいて、売り切れ御免で出すの。

 いいわね。



「商売は夢が広がるわね……」

「出来ない事も多いみたいですけどね……」

「じゃが、楽しい事には変わりない。旨いものは幸せになるからのう」

「「言えてる」」



 こうして綺麗に消えたポトフは合格点を貰い、朝メニューに入れる事へしたのだった。

 そして翌日気合十分で私たちは獣姿になり軽く運動をしてから走り出す。

 目指すお肉の為に!



「いざ! オーガ倒しに出発!」




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