第29話 白蜘蛛一族の恩返し

 シュベールの森。

 そこは木々が鬱蒼と茂り、豊富な水資源となる森でもあり、イエスタの水源だ。

 それが今や霧深い迷いの森となっていて、私たちも匂いで水源を探そうとするが分からないくらいには霧が凄かった。



「これは……」

「蜘蛛さんが森を守ろうとしているんでしょうか?」

「可能性はあるが、それにしても厳重だな」

「イエスタに恩ある蜘蛛なんでしょうかね?」



 そんな事を言っていると、一匹の小さな蜘蛛が木からツウ――ッと降りてくると。



「おう、お前等水源にいきてーか?」

「うわ、喋ったこの子蜘蛛!」

「行きてーのかって聞いてんだよ。馬鹿」

「口が悪いな……。俺達はイエスタの領主、ドルマ様の依頼で水源の調査に来た者だ。水源は無事か?」

「ふーん……ちゃんとした獣なら通してやるぜ? だがそっちのオメーは神だが人間だろ。人間はアウトだ。入口に戻んな」

「良いだろう」

「ヴィーザル!」



 思わず大声を上げたが、ヴィーザルは首を横に振り、「森の入り口で待ってる」と言って去っていってしまった……。

 余程この地域は人間の脅威に脅かされてきたのだろう。

 例え神であっても人間ならダメだという事らしい。



「悪いな嬢ちゃん。これがこの森の新しい掟なんだよ」

「……っ!」

「お袋様がお待ちだ。ついて来てくれ」



 そう言うとお爺ちゃんの頭に飛び乗った蜘蛛さんは指を差しつつ道案内してくれた。

 そして水源の音が聞こえやっと到着すると巨大な滝と大きな泉、そこの横に巨木が育っており、そこから大きな蜘蛛が顔を覗かせた。



「どうやら、獣だけの様ですね」

「ええ、領主様からの依頼で来たそうです」

「それならば領主に伝えなさい。我が白の蜘蛛一族は、赤蜘蛛の一族に狙われていた所を、そこにいる少女……カオルによって救われたからこそ守ることにしたと」

「へ?」

「何時そんな事をしたんだ?」

「赤の蜘蛛の一族って何かしら?」



 蜘蛛? 赤蜘蛛? あ!



「私が産まれた所の赤蜘蛛……」

「その通りです。彼らのボスを貴女はうち滅ぼしました。これはお礼です。獣族が困っていたら助けようと思ったのです」

「そう、だったんですね」

「今後水源に来たい場合は、案内人がチェックをしてからとなります。そうお伝え為さい。そして、カオル、貴方には多大なる幸運を授けましょう」

「え、また加護かをくれるんですか」

「いいえ、私では加護は与えられません。こちらの品を」



 そう言うと山の様に蜘蛛の糸が綺麗に糸巻きされていて、その数たるや幾つあるのかも分からない程の量だった。

 品質はどれも高品質……凄い!



「赤蜘蛛の糸って低品質か良くて標準品だったのに」

「こっちは 全部 高品質 ね」

「これはお礼です。受け取ってください」

「あ、有難うございます!」



 こうして白蜘蛛から受け取った糸をアイテムボックスに入れると、お袋様と呼ばれた彼女は小さく頷き木々に登って行った。



「これからもこの水源は我が白蜘蛛一族が守っていきましょう。人間ならば容赦はしません。獣なら、場合に寄りますが通します」

「分かりました。伝えておきます」

「あなた方に幸運を」



 どうやら水源は白蜘蛛一族が守ってくれるらしい。

 その原因を作ったのが私とは知らなかったけれど……。

 皆の視線が痛い……痛いけど……。



「し、知らなったんです」

「だが、これで母上と同じように名声が上がるな」

「うう……」

「白蜘蛛一族か……神に近しい存在じゃと聞いておる。その者達からの多大なる感謝。そのお礼がイエスタの水源を守る事なら良い事じゃろうて」

「いい事をしたんですから気持ちがいいですね!」



 サトリちゃんの言葉が嬉しいやら複雑やら……取り敢えず入口に戻り、ヴィーザルと合流すると、後は兄の居住空間で過ごし、お風呂にもゆっくり入ってリフレッシュし、明日朝一番に拠点移動してイエスタへ戻る事となった。



「羊肉も今日で最後だね」

「ジンギスカンに限るよな」

「初めて食べた時は驚きましたけど、ジンギスカンって料理美味しいですよね!」

「俺も好きだな。ただ匂いが気になるが」

「力が湧いてくるわい」

「どんどん食べてね~!」



 こうしてシッカリ食事をした後は翌朝直ぐにイエスタに戻り、ドルマ様に水源の事、私のしでかした事で水源を守ってくれていることなどを伝えると「流石リルフェルの娘だな……」と呆れられ、感謝された。



「今後は【イエスタの女神】と呼んだ方が良いか?」

「止めてください。私は普通の女の子でいたいです」

「とは言っても、ギルド関係には伝えねばならん事だ。諦めろ」



 そう言われて渋々頷き、ついでに朝ごはんを食べてから冒険者ギルドに向かい、全てのクエストが完了した事を伝えると、色を付けて支払ってくれた。

 ここまでが長かった気がする……色々あったからかな?



「それと、お前等銀や銅とか持ってねぇか?」

「持ってますけど?」

「武器の道具として買い取りたくてな。どれくらいある?」

「買取価格分だけ出しますよ」

「カルシフォン、そうホイホイ出てくるアイテムじゃねーだろ?」

「出てくるんですよね~……量を伝えてください。あと倉庫貸してください」

「お、おう。そこまで言うなら貸してやらぁ」



 こうして移動してそうこの前に到着すると、銅が入るケース、銀を入れるケースを持ってきてもらい、アイテムボックスから選んでジャラジャラ無造作に入れ込んでいく。



「待て、待ってくれ! もういい!」

「後ドラゴンの解体もお願いしますね!」

「くっ! 分かった……解体場所に持って行っておいてくれ。前と同じで肉だけ欲しいんだな?」

「そうです」

「ドラゴン肉は旨いからのう!」

「やだ、お爺ちゃんったら。お爺ちゃんもドラゴンですよ~?」

「そうじゃったわい。ふぇっふぇっふぇ!」



 平和なボケ突っ込みがサトリちゃんとお爺ちゃんの間で行われつつ、解体エリアでちょっと大きめのドラゴンをドンッとだして「解体よろしくでーす」と伝えると、包丁を必死に落とさず震えながらもドラゴンの解体を始めた人たちはプロだと思った。



「さて、暫く暇が出来る。これからの事を皆で相談しながら決めようか」

「お兄ちゃんのいう通りね」

「道中の街は通過していくとして……。ドルマ様に気を付けた方が良い領地と領主、街の名前は聞いておこう」

「ええ」

「それがいい。獣族でも欲深い者達はいる」

「カオルが危険な目に遭うのも、サトリが危険な目に遭うのも嫌じゃからのう」

「その時は 僕が オーリハールコーン って 首・ちょん・ぱー」

「しないでね?」



 思わずラテの言葉にストップをかける。

 本当にラテならしてしまいそうだ……。



「ははは。だがその前にイエスタの美味しいものをドンドン食べてから移動を決めよう。まだまだ食べてない料理はあるだろうからな」

「賛成!」

「ワシも賛成じゃ!」

「馬でも食べられるものがあるならいいんだがな」

「草食獣も多いですし大丈夫ですよ」

「だが、カオルの料理を食べると今1つというか……」

「旅の醍醐味です! 楽しもう!」



 そう気分が乗らないヴィーザルに身を乗り出して言うと、顔を赤くしつつ「仕方ないな!」と言ってくれたので良かった!

 これで夜から、旅の醍醐味食べ歩きよ――!




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