第28話 嘆き悲しむ憤怒のドラゴン

 処刑されるのは見たくないという私の希望により、早朝早くから出立した。

 広場には牢屋に入れられた人間たちが拷問を受けた後塩水をぶつけられながら雄叫びを上げていて、聞くに堪えられなかった。



「確かにあの断末魔のような声は耳に残るな」

「お前等フェンリル達は繊細だな」

「そうですよ、繊細なんです」

「まぁ、カオルはそういう所も可愛いが……」

「俺達はまだ生まれて間もないので」

「何を言うか。それだけレベルが高く恵まれた才能とスキルを持っておるのに、生まれて間もない等通用せぬわい」

「でもでも、私もちょっと怖かったです……」

「繊細 ね」

「繊細 可愛い」



 そんな事を会話しながら走り続ける事哀愁のドラゴンがいた所から西へ1週間。

 到着したエリアは火山地帯で、また火の魔物がいるのかとげんなりしたものの、結界を張ってキューティクルな毛が燃えない様にした。


 中に入るとやはり護符を持って戦っている獣人達が多く、錬金アイテムとなる【火炎草】は、粉にして爆薬に使われるらしい。

 取り扱い注意の素材である。

 今回依頼は出ていないので無視して地図を開きつつ見ると、ここは第4層までは冒険者がいるようだ。



「ここはドラゴン系が多いが、何せ獣人はドラゴン肉が大好物じゃろう? Sランク冒険者やAランク冒険者は地下に潜ってドンドン倒しては持って帰るらしいぞい」

「確かにドラゴン肉は美味しい。そろそろお肉キレそうだから解体して貰わないと」

「羊肉も旨いがな」

「ダイエットには羊肉は良いのよね! 代謝上がるし! でも私はラム肉が好き!」

「ラム肉かー。確かに旨いなぁ」

「ラム? 子羊の事か? 子は残しておくべきじゃろう」

「そうですよ! 食べていいのは大人になったお肉だけです!」

「子羊を食べるなんて、罪深い事を考えるモノだな……」

「うう……」

「まぁまぁ。そういう話があるってだけだ。な?」

「そうだね……」



 そうか、こちらの異世界では子供の魔物は食べないのか。

 確かに大人になるまで待つのが道理……私ってば浅はかだったなぁ。

 でも、ラム肉旨いんだよ。

 一度食べたらきっとお爺ちゃんたちも病みつきだよ?


 そんな事を心で叫びつつ第5層に到着した途端、腐敗臭と何とも言えない禍々しいオーラ、そして今まで感じたことが無い魔力溜まりで、力いっぱい光魔法を使い浄化したがあまり効果が見られないような……。



「お兄ちゃんこれは一体」

「まだ……恐らく死んでないんだ」

「え!」

「うむ、ここにいるドラゴンはまだ死んではおらん。体は死んでおるやもしれんがな」

「それって」

「ドラゴンゾンビ……?」

「恐らく。各自何時でも攻撃できる体制でいろ」



 そんな事を言われても私は魔法を発動しながらなので、プリシアが警戒を怠らずいてくれて助かった。

 そしてたどり着いた先には――ピクシードラゴン? いや違う。

 ピクシーゾンビドラゴンだった。



『おのれおのれおのれ! あの人間共め! 俺の婚約者を弄び殺しやがって!』

「!」

『去勢だ? そんなものは当然だ! 舌も切り取ってやりたい! 芋虫のような状態にして塩水をぶかっけられればいいものを! 呪いたい……この気持ちそのまま……呪われでも、腐って行っても守りたかった……嗚呼、メリア、俺は、俺は……』



 ――どうやら、自害したという獣人男性が乗り移っている様だ。

 私たちには気づいていないようで、既に無い目から滝の様に涙を零している。

 その姿は見ていられない程に悲痛で、祈りを強く哀愁のドラゴンと黄昏のドラゴンに捧げると、光が強くなった。

 そのまま両手を広げて光を出すと、その光は一人の獣人の女性の姿になり駆け出す。



『ハスラム! ハスラム!』

『その声は……メリア!』

『嗚呼ハスラム……こんな姿になって迄……もう離れたくないの、もう離さないで』

『でも俺はこんな穢れた姿になってしまった……。獣人でいる時も呪いで腐って行って……なのに君は嬲られて……うううう』

『あの世で一緒になりましょう? お願い私の最期のお願いよ』

『メリア……』

『お願いフェンリルのお嬢さん。私たちを天に……』



 その言葉に強く頷くと、哀愁のドラゴンと黄昏のドラゴンに彼を許すよう祈りを捧げた。すると腐敗は消えていき、ドサリと倒れたピクシーゾンビドラゴンから、一人の獣人の青年が現れる。

 溶けかけていた体は光に包まれ普通の獣人の青年に戻り、メリアと言う女性は飛びついてしがみ付いている。



『私だけの貴方……もう離さないで』

『ああ、もう離さないよ……』

「何故、人質に取られたんだ? 獣人ならばそんな真似はしないだろう」



 ヴィーザルがは話しけると、なんでもメリアさんの父親の借金のカタにされ、無理やり連れて行かされたらしい。

 その時お金を工面していた彼から奪い取ったのが――暁の流星だったそうだ。

 暁の流星たちは嬲る、蹴るの暴行をずっとしていたようで、彼女は耐え切れず自害したのだという。

 しかし、彼には大事に保護していると伝え、イエスタの水源に毒を入れる事を強要し今に至るのだという。



「本当に酷い事をされたのね……」

「もっと重たい処遇でも良かったと思います!」

「去勢だけなんぞ生温いわい!」

『皆さんにそう言われて……どれほど嬉しいかっ!』

『3匹のドラゴンさんが私たちを天に連れてって下さるの。大丈夫、次はきっと――』

『ああ、生まれ変わってもきっとまた二人……』



 そう言うと腐敗していたピクシードラゴンから光が飛び出し、二人の周囲をグルグル回ると空へと上がっていく。そして――。



『君たちの活躍はしっかり見させて貰ったよ! 憤怒のドラゴンの僕は嘆き悲しむ青年を一人には出来なかったのさ。でも、君が先に黄昏と哀愁と会っていたから、助ける事が出来る。本当にありがとう!』

「憤怒のドラゴンさん……」

『僕に出来る加護はコレだよ! うまく使ってね! ばいばーい!』



 そして光りは膨らんでパン! と弾けると、周囲は魔力溜まりも無くなり、卵だけの世界になった。


 途端聞こえてきたのは【憤怒のドラゴンから加護を貰いました。加護により怒りでの強さがアップします。これにより新たな無属性魔法を覚えました。『激情の炎』を得ました。範囲でこの炎を纏った者たちの攻撃力が心の数値により上昇します】ときたのだ。

 恐らく、心の数値と言うのは、【怒り】などの数値だろうなとは思うが……。



「加護おめでとう。しかし使い難そうな加護だな」

「怒りに合わせてというのが難しいわ。使う日が来ないといいけど」

「まぁ、使う日が来たら存分に使おうぞ。これにて後は」

「シュベールの森の泉で蜘蛛さんとお話だけですかね?」

「そうだね、ここから近いからついでだし行こうか」



 こうして炎のダンジョンから出て、水分補給をしてからシュベールの森の泉へと向かった私たち。

 するとそこは霧深い山の中にあって……迷いの森と化していたのだった――。




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