第21話 面倒なサル軍団との戦闘と

 廃坑の中を走る事3日。兄の足がピタリと止まった。

 周囲に耳を集中させているようで、私も耳に意識を集中させる。

 サトリちゃんはスキルで【聞き耳】を持っている為、かなり怯えている様だ。



「廃坑全体のモンスターが……」

「いや、一部のモンスターだ。サル系だな」

「サル系がどうしたの?」

「こちらに向かって集結しつつある。恐らく自分たちの住処を奪いに来た者として俺達は判断されたんだろう」

「ええええ!?」

「厄介だな。サルの奴らは本気で死ぬまで攻撃しないと意地でも殺しに掛かってくる」

「どうするかのう……」

「弱いには弱いんだが……素材としても牙くらいしか高く売れようがない」

「毛皮も他のモンスターと比べると安いからのう」

「まぁ、来ちゃうものは仕方ないから、ぶち殺しますわよ!」



 そう私が雄叫びを上げると、奥から大きな声でサルの鳴き声が聞こえてくる。

 前衛、中衛、後衛と揃っているこちらのモフモフPTに抜かりはない!

 剣を持つ為に獣人化したヴィーザル以外はモフモフPTよ!

 いや、獣人もモフモフの仲間なんだからね!



「来る!」

「支援します! 【防御の咆哮】【攻撃の咆哮】【速度の咆哮】これで準備万端です!最初に来たサル軍団は潰します! 【風切りの刃】」

「斬鉄剣!」

「風神の爪!」



 おおおお……前衛中衛格好いい。

 それでも奥から次々に仲間の亡骸を踏みつぶしてやってくるサル共。

 ボスがいる筈よね……。



「お爺ちゃん、隠密でボス探してくれる?」

「いいぞい」



 そう言うとお爺ちゃんはスキル【隠密】を発動させて素早い速さで奥の方までボスをさがしに行ってくれた。

 それでも戦う事5分後、お爺ちゃんは隠密を解いて私の元まで来ると――。



「奥に金色のサルが1匹おったな。奴がボスじゃ」

「了解お爺ちゃん。【空中飛行】でボス叩いてくるわ!」

「気を付けて行って来いよ!」

「僕 も ついて行く」

「はいはーい」



 こうしてスライム2匹を連れて空中飛行しながら空を駆ける。

 察したサルたちは私を追いかけてきたけれど、上から魔法をぶつけていく。

 まぁ、魔法と言うか――。



「【火炎放射】」

「ぎゃあああああああああ!」

「ぎいいいいいいい!」



 こんなに多くのサルは要らないし、必要も無いのと、毛が多分燃えやすそうだなと思ったので使ってみたけど案の定。あっちこっちに燃え移ってパニックになってる。

 そのままボスのところまで【火炎放射】で焼き殺してくると、ボスは1回り体が大きく牙も大きかった。



「あ、あの牙高く売れそう」

「売れる と 思うよ」

「僕 倒したい」

「でもボスだよ?」

「オーリハールコーン」



 と、斬鉄剣の真似をしながら口からオリハルコンの刃のようなモノを凄い風圧で飛ばしたラテの、所謂【なんちゃって使い捨て斬鉄剣】みたいなのがザシュッ! と言う音を立ててボスザルの首が吹き飛んで地面に転がった。

 途端サルたちは悲鳴を上げて逃げ出し、逃走し始めたのだ。



「勿体ない ボスザル 回収急げ」

「うん」



 スライム2匹はそう言うと上半身と頭と片方ずつ持って持ち上げ、私がアイテムボックスを開くと中に放り込んでいた。

 なんとも呆気ない……取り敢えずオリハルコン斬鉄剣の残骸も拾って貰い、それはラテが体の中に飲み込んでいた。


 空中飛行しながら兄たちの元まで向かうと、「呆気なかった。ラテちゃんが倒しちゃった」と言うと驚かれたが、残っているサルの残骸を私と兄とで仕舞い込み、戦闘は終了。

 こっちも随分と戦っていたようで、かなりの数のサルの亡骸があった。



「お爺ちゃん、このサルって弱かったけど、冒険者ランクで言うどれくらいの人達が戦うのかしら?」

「そうじゃな、ランクCくらいじゃろうな。ただリンクがしやすく戦いづらい上に金にもならんと言うので増えたんじゃろうなぁ」

「ああ、なら今回間引いて良かったんだな」

「そういう事じゃ。増えすぎた個体はどちらの国に被害を及ぼすか分からんからのう」

「獣人国に問題がないなら放置で良かったかも」

「まぁ、あれだけまだ生き残っていますし、外に行ったらそれこそ魔物討伐隊の出番だと思いますよ~?」

「それもそうだね!」



 こうしてちょっとした波乱はあったものの、サルたちは無事人間国の方へと去っていったし、獣人国には来ないだろう。

 後は魔物討伐隊に倒されるか、増えに増えてスタンピードみたいになるのかは不明だけど、暫く放置していても良さそうだ。

 此れからお世話になる獣人国へ被害さえなければどうでもいい。



「しかし随分と走り回ってきたけど、そろそろ外に出ないのかな?」

「やっと半分って所だな。途中に休憩所みたいな場所が幾つもあったのを見ると、使っていた間は此処で寝泊まりしていたんだろうな」

「なるほど。道理で広い廃坑なのね」

「地下資源を取りつくした後なんだろう。祖父が若い頃に出していた指令だった筈だ」

「なるほど」



 ヴィーザルからの言葉もあり、ここが古い鉱山と言う事は解ったが、放置されて長いという事もあり魔物が住み着いている様だ。

 ダンジョン化しなかったのは運が良かったかも知れない?

 もしくは、ダンジョン化しなかったのは――そう思いチラリとラテを見ると、ニコット微笑んできて可愛かった。



「しかし【空中飛行】のスキル羨ましいな。俺も欲しかった」

「お兄ちゃんは持ってないんだっけ」

「持っていたのは父上らしい」

「なるほど。そう言えばオーディンがお父さんに吞まれた時、乗っていた馬はどうしたの?」



 そう私がヴィーザルに聞くと、馬も同時に食われたらしい。

 おおう……父よ、なんという事を。



「今更父の事でアレコレ言うつもりも咎めるつもりも毛頭ない。そもそも両親は俺に興味が無かったからな」

「それは……何故?」

「愛し合って出来た結果ではあるが、父は子供と言うものが良く分からない神だったし、母は女性でいる事を優先する人だったからな。母親と言うのに向かない人だったんだ」

「なるほど」

「正直、お前たちの母親であるリルフィル様の方が何十倍も親であったならと思う程羨ましいよ」



 そう語るヴィーザルに兄と顔を見合わせたが、それ以上何も言ってこなかった。

 言ってこなかったが――。



「だが、カルシフォンは正直羨ましい」

「ほう? 何故だ?」

「そんな可愛い妹と腹の中でも一緒で生まれてからも一緒だったんだろう? 俺も一緒なら絶対離れなかった」

「ははは」



 目の決して笑っていない、乾いた笑い。

 兄とヴィーザルの攻防戦は今後も続いていくんだろうなぁ……と遠い目をしたのは言う迄も無く、それから一週間かけて駆け回った結果、出口付近まで来ることが出来て、あの夢のような空間までは遠いな……と思っていたら、ラテが「後で扉作ってあげるよ」と言ってくれて飛び跳ねて喜んだ。



「ところで、ここって本当に廃坑だったの?」

「確かにモンスターの多さは尋常じゃなかったな。皆弱かったが」

「ダンジョン化してない?」

「してるよ」

「え?」



 ラテの言葉に私たちが目を見開いてラテを見ると――。



「だって 僕が ダンジョン 最下層の ボス。 でも 僕がいなくなっても このダンジョンは 僕のモノのまま」

「普通はダンジョンボスがいなくなったら崩れるんじゃがのう」

「だって カオルが 欲しいっていうから ダンジョンは そのまま 僕のモノにして 何時でも カオルが 使えるように してあげるね!」

「あ、ありがとう」

「ウフフ」



 まさか、ラテがダンジョンボスだったとは……。

 確かにダンジョンコアは壊してなかったし、存在し続けるだろうけれど。

 これは定期的に帰る必要があるのかな? そんな事を思いつつ最後の廃坑だと思っていたダンジョンでの一夜を過ごしたのだった。

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