第20話 獣人国までの廃坑の中で
走り出した私たち――ではあったけれど、案外走るのが得意ではなかったサトリちゃんの為に休憩時間を作りながら獣人国を目指した。
私が産まれた場所は人間国から近いダンジョンの1つだったようで、反対の場所にある獣人国までは人間の村や町を幾つも迂回しながら進むしかない。
また、人間に見つかると『魔物討伐隊』が出てくる事があるらしく、仕方なく話し合いの結果、夜に移動するという手段を取ることになった。
「人間国の魔物討伐隊はレベルが高い。フェンリルは神に属するから倒さないにしても、ホワイトタイガーやフェアリードラゴンは討伐対象になるだろうな」
「怖いです……」
「ワシら何も悪い事しとらんのにのう」
「存在自体が悪、と言う感じなんですか?」
「それもあるが、取れる素材がうまい。人間は魔物を見ると素材とみたがる連中だからな」
「「素材」」
「フェンリルは素材としては見られないのか?」
そう兄が問いかけると、ヴィーザルは「そうでもない」と口にして次のような事を口にした。
フェンリルの良くて毛だけでも手に入れば高級な魔物素材になるらしく、機嫌を良くしてゲットする冒険者もいるのだとか。
そうなればひと財産築いたのと同然で、数年は働かなくても食べていけるらしい。
「え! あの抜け毛ってそんなに高いの!?」
「集めておけば良かったな」
「今からでも集めておけばいい。恐らく獣人国でも似たようなものだろう」
「「ほう」」
「私の毛では……安いでしょうね」
「いや、サトリの毛皮を剥げば」
「剥げば!?」
「高値で売れるぞ」
「嫌ですよ剥ぎません!」
驚きの声を上げるサトリちゃんは大きな手でヴィーザルをドンッと叩き、ヴィーザルが吹き飛んでいた。馬は足が命だが大丈夫だろうか。
「でもでも、私たちダンジョンから出て暫くは知ってますけど、その辺の魔物って襲ってこないものなんですねぇ?」
「そりゃワシらの方がレベルも高い上に、神格持ちが2匹、神が1匹じゃ。普通の知識、知恵のある魔物は近寄りはせんじゃろう」
「私も いうるの 忘れないで」
「プリシアもいるよね」
「うん」
そう会話しながら、どうしても捨てられた鉱山を通って迂回せねばならない場所にと着すると、私たちはゆっくり中に入り、捨てられた鉱山の中へと入っていく。
ここなら夜でも朝でも関係なさそうだ。
「強い敵いるかな?」
「サーチをかけたが、変わったモンスターは1匹いるようだ」
「変わったモンスター?」
「スライムのようだが……なんか変わっている色をしているな、何だこいつ」
兄にしか見えないサーチと言うスキルで引っかかった1匹のスライム。
気になるので見に行こうという話になり、下層にいるというスライムを追いかけてくねくね曲がりくねって迷路のような鉱山の中を進んでいく。
こういう時、明かりが無くとも歩けるのが獣の良いところだよね。
人間だと明かりが無いと周りが見えないとかあるけど、モンスターならばその辺りは全く関係ないのだ。
まぁ、種族によっては見えづらいとかはあるみたいだけど、大体のモンスターや獣人は【暗視】と言うのがオプションでついているようなものなのだ。
最下層まで下りてくるとそこは沢山の鉱石だらけで、私たちも獣人の姿になってアイテムボックスに拾っては仕舞っていく。
凄い、この辺りはポッカリと何かが穴をあけたような跡があったから来られたけど、ここは……。
「金銀銅に鉄鉱石にプラチナにオリハルコン……宝石類もたんまりと……低級から高級迄の石がゴロゴロあるのに、何故人間は捨てたんじゃ?」
「謎ですねぇ」
「ここ、魔力溜まりで後から出来た場所なんだよ。魔力溜まりには人間って中々入ってこれないでしょう?」
そう、私とお兄ちゃんが微かに感じ取ったのは、このエリア自体が魔力溜まりで出来た歪なエリアであるという事。
それで人間は入ろうにも入れなかったんだろうと予想出来た。
無論普通のモンスターや獣人も好き好んで入らないだろう。
「えーっと『周囲浄化』っと」
そうすることで魔力溜まりを消していく。
すると一匹のスライムがピョコンと飛び出してきた。
言葉を交わせない所を見ると、普通のスライムのようだが……何とかクエストに出てくる経験値の美味しいスライムにも見える。
「このスライムだ、変わってるやつは」
「本当だ、レジェンドでもないし何だろう」
「スライムさん? 貴方のから体は変わってるのね。どうしてそんなに銀色の球体なの?」
サトリちゃんが聞くと、私の頭の上の乗っていたプリシアが何やら無言で念話している様だ。
暫くすると――。
「この子 着いて行きたいって」
「テイムしちゃっていいの?」
「うん、あらかたのモノは 出せるように なったから 用はないって」
「「「出せるようになった?」」」
「ここにある 鉱石 全部 任意で 出せるから お役に立ちますよって」
それは心強い!
是非とも仲間にせねば!
「じゃあテイムしちゃうね。スライムさんに【テイム】」
私とスライムの間に魔法陣が生まれ、魔法の線が引かれるとテイムされた事が証明された。
「僕 の 名前を 決めてください」
「おお、喋ったぞ」
「テイム したので レベルが上がって 『言語理解』 を 手に入れた みたい」
「男の子か~。ラテでいい?」
「ラテ 僕 ラテ!」
喜ぶラテは銀の身体でぴょんぴょん飛び回り、サトリちゃんの頭の上に乗った。
どうやら乗る場所が馬……ヴィーザルの上では滑ると判断したらしい。
「ここはお金が溜まったら購入したいね」
「そうだな、長い事使っていなかった廃坑だから安値で買えるだろう」
「それまではこのエリアは封印しときたいなぁ」
「僕 みえなくすること できるよ」
「本当? 此処から出たらお願いね」
この廃坑は獣人国の近くまで繋がって居て、人間がギリギリまで獣人国の傍まで来て掘っていた事が伺える。
でも、殆ど掘りつくしたため捨てられたようだ。
魔力溜まりで魔物が暴走するのと一緒で、魔力溜まりにモンスターがいない場合、鉱石や宝石がバンバン生まれる美味しいエリアになることがあるのだとお爺ちゃんが教えてくれた。
ラテが暴走しなかったのは謎らしい。確かに謎だ。スキルに何かあるのかもしれない。
「鉱石宝石類はこれで問題なくラテから貰えることになったけど、食べ物はやはり私の魔力?」
「「うん」」
「魔力消費が激しい……」
「テイム するって そういうこと。 特に 特殊個体は 仕方ない」
「なるほど」
そうプリシアちゃんに説明を受けつつ、今日だけはこのエリアで出来るだけの宝石と貴金属を集めてから外に出ようと言うことになり、全員で集めながら各自アイテムボックスに入れていく。
【アイテムボックス∞】を持っている兄と私は何とかなるけど、そうでない4匹はアイテムボックスが一杯になった様で、後は2か所に集めて貰ってそれらを私と兄がアイテムボックスに入れ込んでいく作業を延々と続けていた。
そして翌日、集めに集め込んだアイテムを持って魔力溜まりの空間をラテに封印して貰い、何時でも来られるようにしておいた。
「さて、ここから獣人国までまだまだ距離があるから、頑張って洞窟探索しながら進みましょ!」
「はーい!」
「サーチに変なのは……いないかな。いたとしても雑魚モンスターくらいみたいだ」
「フェンリル兄妹は羨ましいスキル持ちだな」
そう声を掛けてきたヴィーザルに「いいでしょう~?」と自慢すると、どこか柔らかい笑みで「ああ、凄く羨ましい」と言ってくれたのでちょっと留飲が落ち着いたし、どことなく落ち着きを取り戻したというべきか角が取れたヴィーザルはスッキリした表情をしていた。
理由はそのうち教えてくれるだろうと思いながら一端居住空間に戻って食事をしてからお風呂に入り、各々眠りについた次の日も、迷路のような道を進んでいくのである。
しかしその頃、鉱山内のモンスターたちは騒めいていた事に、この時はまだ気づいていなかった。
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