第18話 奴隷堕ちと言う名の贖罪方法

 お爺ちゃんの頭痛は三日三晩続いた。

 そして頭痛が治ってからのお爺ちゃんは、どことなくスッキリとした表情をしていてホッとする。



「お爺ちゃんもう頭痛の方は?」

「おう、カオルか。頭痛の方はもうすっかり治ったわい」

「良かった」

「色々知ることが出来た、この年でまだまだ知ることが出来た。なんと尊い事か。なんと有難い事か」

「ふふ、年老いてなお知識欲があるなんて素敵ね」

「そう言ってくれるだけでワシャ満足じゃ。カオルは優しい子じゃのう」



 何処か余裕のなかったお爺ちゃんに余裕が生まれた感じがまたイイ!

 悟りを啓いたお爺ちゃんが何故こうも賢者モードなのか、それは後々知る事となるのだけど、流石に三日三晩経つと神々の方でも進展があり、ヴィーザルは幽閉か、誰かに預けるかと言う話になったそうだ。


 今は亡きオーディンの息子ヴィーザルは、幽閉よりも誰かに預かられる事を無論選んだ。その際、免罪符として持っていた【気に入ったフェンリルを使役する】的なものは白紙となったそうだ。ホッと一息である。


 そのヴィーザルを預かることになったのが……言いたくはないが、駄女神キュティーだったのだ。

 母の怒りは凄まじいものだった……。

 天界でも何故そこまで母が荒れるのか知る事となり、人選ミスとされたがヴィーザルはキュティーを気に入り、「世話を頼む」と言ってきたそうだ。



「オーディン様のご子息を預かるなんて身に余る光栄ですけど、とてもじゃないですけど重い! 責任が重い!」

「ヴィーザルには話したの? 貴方の殺したフェンリルを預かってますって」

「うう……話しましたよ。話したら『とんでもない罪を犯したと思っている。謝辞したい』って言われて……」

「言われて?」

「今度……謝罪の場を作らせてくださいリルフィル様!」

「貴女、一度死んだ方が良いわ」

「うわああああん! カオル! カオルなら分かってくれるよねこの板挟み!」

「まぁ、女友達の間で板挟みとかはよくありましたけど。流石に謝罪しました、はい許しますは無いと思います」

「そこをなんとか――!」



 嫌なものは嫌。

 ハッキリそう伝えると母も兄も頷き、駄女神は涙を流しつつ「どうしたらいいんですかぁ」と号泣してしまった。

 どうするもこうするもないのだ。

 嫌なものは嫌、会いたくないものは会いたくない。

 すると、お爺ちゃんが「いや、案外いい案かも知れんぞ」といい出した。



「贖罪させるには、いい機会じゃろうて」

「でもー」

「そうよお爺ちゃん~」

「俺は反対だ! あいつはカオルに執着している」

「それはお主もじゃろうて。全く呆れるのう。しっかりと贖罪させる為に近くに置いて働かせるんじゃよ」



 そう語ったお爺ちゃんに「確かに労働は大きな義務」と口にすると、兄は「あいつを傍に置くのは反対だ」と告げ、サトリちゃんは意味が分からず困惑気味。

 しかしここはやはりサトリちゃんだったのだ。



「良く分かりませんが、そんなにカオルさんに対して危険だというのなら、いっそ『奴隷』として贖罪させたらよいのでは?」

「「それだ」」

「それですか!? 一応神様ですよ!? え、奴隷落ちって出来るんですか?」



 思わぬ言葉に私が母を見ると、「神を一時的に贖罪の為に奴隷に堕とす事は出来ます」と答えた。「ただし、期間は設けますが」と再度告げると、駄女神を見つめた。



「貴女が預かる期間はどれくらいです?」

「大体3年くらいかと」

「ならその3年間、奴隷としてあなた方が使いなさい。そうね、カオルに必要以上近寄らないという契約を結ばせてカルシフォン、貴方が主となりなさい」

「分かりました」

「駄女神、それなら話を受けると、あんぽんたんに伝えてきなさい」

「あんぽんたん……滅多に聞かない言葉ですが」

「私が年を取っているとでも?」

「フェンリルでも300年生きてればそれなりに時代を見てきてますよね!」

「殺しますよ」

「行ってまいります!」



 お母さん、300年生きてるんだ……。

 思わず母を見て驚いた。若作りなんだろうか?



「フェンリルで言う300歳は女盛りくらいです。1000年を生きるフェンリルもいますから。神々ともなれば最早一生が女盛りと言って過言では無いのですよ」

「じゃあカオルも……」

「成長すれば、女盛りでしょうね」

「早く、早く成長を止めなくてはっ!」

「兄が病んでる……」



 ヴィーザルもヤンデレサイコパスだったが、兄はヤンデレシスコンな気がする。

 どっちに転んでも、救いなどない。



「うふふ、カルシフォン様はカオル様の事になると暴走が止まりませんね!」

「兄妹愛が強いんじゃろうなぁ」

「そもそも、神々の一員たる神格化が上がった時点で、男神の固執、執着とは根深いものですよ」

「「わ――」」

「越えられぬ愛がそこにあるんじゃなぁ……。兄妹では婚姻は出来んからのう。神々だと兄妹でも結婚できるんじゃったか?」

「神々ならそうですね」

「カオル!」

「結婚しないです」



 ドサァ……と倒れ込んだ兄、悪いが私は兄妹で結婚はNG派なのだ。



「それに、お母さんから大恋愛の末の結婚をってお願いされているので」

「俺と大恋愛しよう!」

「お兄ちゃんの大失恋になりますよ?」

「トラウマ級の」

「大失恋」

「くぅっ!」



 苦しむ兄、愛しい兄は何処へ消えた……。

 いや、愛しい事には変わりはないんだけど、それは兄としての愛しさであって、男としての愛しさではない事はしっかりと伝えておいた。



「話は戻しますけど、ヴィーザルは奴隷堕ちで宜しいんですか?」

「承諾するかは分かりませんが、悪いようにはならないでしょう。それに、人間の国にいる事も最早叶わないでしょうしね」

「ああ、国王殺しと親殺しですもんね」



 確かに人間のみの国よりは、獣人のいる国に行った方がいいよね。

 だとしたらサトリちゃんの隠し部屋の更に隠し部屋にあったアイテムたちが役に立ちそう。

 そんな事を思いつつ、結果どうなったかと言うと――。




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