第16話 新たに仲間になったホワイトタイガー

 ダンジョン一層の隠し扉にいたという獣人の子は、足蹴にされても必死に抵抗した。

 その瞬間顔を鈍器で殴られ地面に叩きつけられた瞬間、私とお兄ちゃんの雄叫びがフィールドに響き渡る。

 大きく飛躍して人間たちの前に立つと、人間たちは「ひいいい! フェンリル!」と腰を抜かした。



「貴様ら……命が欲しくば、その獣人を置いていけ」

「ななななな」

「命が欲しくないならば我々が直接、殺してやろう」

「「「ひいいいいいいいいい!」」」



 兄の殺気に負けた人間たちは一目散に逃げだした。

 獣人の子は動くに動けないようで、回復魔法をかけてあげて居住空間へと連れて行く。

 お爺ちゃんも初めて見る居住空間に驚いていたけれど、まずはこの子を休ませるべく、お兄ちゃんと2人獣人の姿になってソファーに横たわらせた。


 年の頃は私たちよりも上だろうか?

 15,6歳に見える少女の髪はウェーブした短髪のホワイトとブラックが入ったツートンカラーで、閉じている目は分からない。

 洋服は着ていなかったことから、最近になって獣人化した可能性があるとのお兄ちゃんの考えだった。



「駄女神に連絡を」

「そうだね、アクセサリーを作って貰わないと」



 そう言うと私の方から駄女神に通信を行い、助けた獣人の子がいるからアクセサリー1つお願いしますと頼むみ、『急いで持って行きます!』と言う事だったので、私たちの神格が上がったことで下っ端女神の下っ端らしさが更に出たというべきか否か。



「取り敢えず待っていれば良さそう」

「そうか」

「う……ここは?」

「気付かれました?」

「獣人……?」

「獣人兄妹だ。お前の名は?」

「サトリ……あの、私冒険者に捕まっていた筈ですが」

「追い出して君を引き取った」

「あ、有難うございます! 奴隷にするって言われて怖くて……」



 そう言って泣き出してしまったサトリさん。

 余程怖かったんだねぇ……よしよし。頭を撫でてあげると少し落ち着くようで、一頻り泣いてから深呼吸をして「それで、私はこれからどうなるのでしょう?」と聞いて来た為、出来ればテイムしたいことを伝えた。



「命の恩人です。是非テイムしてください」

「ありがとうございます!」

「ふぇっふぇ、ワシもさっきテイムして貰ったばかりじゃて」

「フェアリードラゴンの……第二層の隠し部屋の?」

「その通りじゃ」

「あの、テイムしたら私を連れて一度隠し部屋に行って貰えませんか? 金銀財宝を更に隠し部屋に隠してあるんです」

「おお、それは有難い」

「ワシの所は貯め込む場所がなかったからのう」



 こうして私がサトリをテイムすると、無事彼女は私の従魔となった。

 神格化している者からテイムされるとレベルが上がるらしく、2匹とも神格化まではいかないにせよ、それに近い所まで上がったそうだ。

 兄がテイム出来れば神格化していたかもしれないと思うと、少し申し訳ない。


 その後、裸は流石に困るので獣人のサトリに案内されてダンジョンの隠し部屋に入ると、まだ次のボスとなる刃物は入っておらず、そのままサトリについて行き、奥の壁の一部を押すと人間が一人入れる程度の大きさの穴が出来る。

 そこに私たちも潜って中に入ると――溜め込まれた金銀財宝がたんまりと!



「「うわぁ」」

「こりゃ凄いのう……」

「カオル様は私のご主人様です。こちらを全て差し上げます」

「えっと、どうも?」

「是非、旅の足しにしてくださいませ!」



 そう嬉しそうに微笑んだサトリに、私たちは頷きアイテムボックスに財宝を入れ込んでいく。

 人間で言えばひと財産築けるだけの財宝を入れ込み終わると、また潜って外に出て隠し扉を閉めるサトリ。



「これで私のここでの役目は終わりです。ご主人様、これからどうしましょうか」

「えっとね」



 そう声を掛けた途端駄女神から連絡がきて、一端居住空間に戻ると、息切れを起こしながらアクセサリーを握りしめている駄女神がいた。

 どうやらサトリ用のアクセサリーを持ってきてくれたらしい。



「何と言うか、お疲れ様です?」

「お疲れですよ! リルフィル様には顎で使われますし! こちらが頼まれていた品です。そちらのテイムしたどちらの子につけますか?」

「ワシャまだ獣人化はしきらん。そこのホワイトタイガーの子にじゃな」

「分かりました」

「私から手渡します」



 私と同じオパールのついたアクセサリーをサトリの首にかけてあげると、獣人化して貰い不備が無いか確認するべくみてみると、ボインとしたお胸が羨ましいけしからんスタイルで羨ましい……。



「獣人はスタイルいい子が多いんですよ。大丈夫です。カオルもそのうち、ね?」

「そうなったら変な輩が出てくるじゃないか」

「今でも変なのに付きまとわれてますよ」

「そうだったな……」



 兄は頭を抱えて溜息を吐くと、気を取り直して今神々の国ではどうなっているのかを駄女神に聞いた。

 まだヴィーザルの審問は続いているようで、その間に獣人の国に移動しようという話になったのだ。

 人間国にいても碌な事は無いだろうしね。



「幸い寝床の確保とご飯はあるから何とかなりそうだね」

「それに幸い草食がいない事も助かったな。食事に困るところだった」

「それもそうね」

「取り敢えずこのまま地上にでて、それから一端君たちのスキルツリーを見させて貰いたい。俺は外には一度だけ出たことがあるが、妹はまだなくてな。きっと刺激的に感じるだろう」

「ふぇっふぇっふぇ。ワシらとて外に出たことはないからのう。さぞかし、刺激的じゃろうて」

「楽しみです!」



 こうして私たちは獣の姿のまま走り出し、サトリがついてこれるか心配だったけど何とかスピードにはついてこれていて、外に飛び出すと外は真っ暗。

 どうやら夜のようだ。



「む、夜か。仕方ない、森の方に入ってから居住エリアに向かい、スキルツリーをみよう」

「はーい」



 そう言うと私が今度は居住空間を作り、そこに全員で入って扉は閉まる。



「さて、まずはご飯食べながらスキルツリー見せて貰いましょう!」

「はい」

「うむ」

「ご飯はなにがいい?」



 どちゃっと出したドラゴン族のお肉に、お爺ちゃんは後ろにぶっ倒れ、サトリちゃんは恐怖のあまり横に倒れた……。

 刺激が強すぎただろうか……心配になる。

 2人が目を覚ますまでの間に私と兄は食事をしつつ、暫くすると――。

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