第15話 お爺ちゃんフェアリードラゴン

 木の根が蔓延る階段を突き進んだ先にある扉。

 此処が第二層の隠し部屋……。

 プリシアちゃんに魔力溜まりがあるか調べて貰うと、若干出来初めているという情報で、私と兄は頷き扉を開けた。

 ムワっとくる古代時代のような植物が生い茂る中、奥まで進むとパタパタと音が聞こえる。



「なんじゃい。人間が来たかと楽しみにしとったのに、来たのはフェンリル2匹にスライムが1匹か。つまらんのう。実につまらんわい」

「アレが」

「フェアリードラゴン? 喋り方がなんかお爺ちゃんみたい」

「ふぇっふぇっふぇ! お爺ちゃんか! 確かにそうかもしれんのう。このダンジョンに入ってくる冒険者も少なくてな。暇を持て余した爺じゃて」

「フェアリードラゴンのお爺ちゃん、ここにずっと一人きりだったの?」



 そう私が聞くと、パタパタと私の回りを飛び回るお爺ちゃんは、チョコンと背中に乗ると「そうじゃな、一人じゃな」と答えた。



「暇で退屈で、億劫で。じゃが魔力溜まりが出来てはそいつを払いのけておったわ」

「払いのける事が可能なのか?」

「ワシほど長く生きるとな……。レジェンドまで達することが出来る。そうなれば、魔力溜まりに中てられる事無く心も病む事も無い。しかし、寂しさは募る」

「ならお爺ちゃん、ここから出て私たちと旅をしよう!」

「ふぁ――っふぁっふぁっふぁ! ワシを旅に誘うか? こりゃ傑作じゃ!」

「笑い事じゃないんだから!」

「ま、レジェンド同士が戦っても意味は無いのう。良かろう、ワシもそろそろここからおさらばしたかったし、この隠し部屋を壊すという約束をするのであれば、テイムでも何でもして連れて行くがいい」



 どうやらこの隠し扉を壊す事が、私たちに課せられたクエストのようだ。

 お兄ちゃんは暫く考え込んだ後、口を開いた。



「自分の後任を入れない為だな?」

「その通りじゃ」

「良いだろう。カオル、確か隕石魔法使えたな?」

「土魔法で使えるね」

「それで入口と階段ごと押しつぶせるか?」

「行けると思う」

「ふぁっふぁっふぁ! 簡単に言うが、そんな都合のいい魔法なんぞある訳なかろう」

「それは、見てから決めて欲しいなー?」

「ほほう? 良かろう、お主のその虚言が嘘か誠か見てやろう」



 一路上に戻り、フェアリーたちが、お爺ちゃんが出てきた事で慌てていたけれど、【暴走魔力】と【魔力増量】を使い【隕石魔法】を隠し部屋のあった入り口に発射。

 途端、ズドズドズド――ン! と入り口は潰れ、大木があった木は根元から折れた為、開いた階段めがけて同じように隕石魔法を唱えて埋め尽くして置いた。



「これでいい?」

「ふぁ……ふぁ――! 本当にやりおったわい……どれどれ……うむ、確かに入り口はヘしゃげて使えぬし、入り口も潰れて最早入る事は叶わん」

「じゃあ【テイム】していい!?」

「良かろう。お主にならテイムされても、文句もつけまいよ」

「ありがとうお爺ちゃん! 【テイム】!」



 そう言うと初めてのテイムだったけれど、魔法陣が私とお爺ちゃんの前に現れ、一本の線が出来上がると、【テイム完了。これよりレジェンドフェアリードラゴンである、アーバントジュレイリスを使役できます】とでて、思わず名前の長ったらしさに驚いた。



「アーバントジュレイリス?」

「ワシの本当の名前じゃな。ワシの事はお爺ちゃんか、アーバントと呼びがええ」

「無駄に長い名前だったんだな」

「お爺ちゃん の ほうが いい」

「うん、私もお爺ちゃんって呼びたい」

「ふぇっふぇっふぇ。好きに呼ぶとええ」

「アーバント爺。カオルの身体は手一杯だ。俺の頭に移動してくれないか?」

「わこうても、ワシはメスの身体の上が、」

「アーバント。これるな?」

「ぬぐぐ……ワシの主はカオルじゃぞ!?」

「お爺ちゃん、お兄ちゃんの頭の上に移動してね?」

「カオルの傍がええんじゃあああああ!」

「カオル の 傍は 私の場所。 後輩は 先輩の いう事を聞くべき」



 プリシアちゃんにペチンと頬を叩かれたお爺ちゃんは、渋々お兄ちゃんの頭の上に乗り、小さく溜息を吐きつつ「仕方ないのう……守りが鉄壁じゃぁ」と口にしていた。

 こうして、レジェンドフェアリードラゴンのアーバントお爺ちゃんをゲット出来たので、後は第一層の隠し部屋へ行くだけだ。



「ほーん……よく見たら、お主ら兄妹は神格持ちじゃったか。そっちのスライムはレジェンドなのは解っておったが。しかしこの辺でフェンリルなんぞみなかったが、お主たち何処から来たんじゃ」

「ダンジョンの最下層」

「そこからそのままスムーズに行けるダンジョン目指さず、ドラゴンエリアでレベル上げて、最後にキメラを3体倒してからきたよ!」

「……軽く化物じゃな」



 溜息をつきつつ語るお爺ちゃん、そんなに化物だろうか?



「アーバント爺、カオルが困惑するからそういう事を言うのは控えて貰いたい」

「しかしのぅ……。未だに人間共が倒すに倒せんモンスターが、ウヨウヨいるのが第三層じゃてなぁ。魔物除けを使ってやっと通っていけると聞いておるぞ」

「そこに来ていたヴィーザルは、強かったんだね」

「奴には一撃必殺斬鉄剣があるからな。最早それしかないともいう」

「ああ……」



 でもそれだけで渡り歩けるのも凄い。神のなせる業という奴だろうか?



「お主らの回りは化物だらけか?」

「ん――神様が沢山?」

「なるほどのう」

「そう言えばフェアリードラゴンは雑食って聞いてたけど、お肉しか今無いんだよね」

「肉でええぞ? 雑食じゃが、肉が一等好きじゃからのう」

「良かった!」

「ワシの飯の心配まで……なんて情け深い主じゃ」

「カオルは優しいんだ。そこが大好きなんだ」

「シスコン極めりじゃな」



 そんな事を会話しつつ、途中死に物狂いって感じで襲ってきたオークとオーガを倒しながら第一層を目指す。

 この辺にくると、人間の姿をよく目にする。



「獣人化できるけど、人間って獣人を見下すからな」

「そうだね。フェンリルのままがいいかも」



 そう思っていると――。



「聞いたかよ。第一層の隠し部屋、獣人がいたらしいぜ」

「奴隷として売るって言ったな」

「いくらで売れるかねぇ」



 そんな声が聞こえてきた。

 それは大変! 助けないと!



「お兄ちゃん!」

「直ぐ助けにいこう!」



 こうして風を切るように一気に加速して、お爺ちゃんが「飛ばされそうじゃー!」と叫びながらお兄ちゃんにしがみ付いていたのは言う迄も無く、地図を見ながら獣人の子を探していると――いた!



「まだダンジョンにいるよ!」

「脅してでも奪い取るぞ!」



 こうして獣人の子を蹴り飛ばしている所に遭遇した私たちは、飛躍して冒険者の前に立ったのだった――。




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