第12話 神の怒りは家族さえも許さず

 脱力して動けない兵士を横に、私はヴィーザルと向き合った。

 こうして向き合うのは初めてだが、ヴィーザルの輝かしい笑顔を見ないようにしつつ話を進める事にする。



「ねぇヴィーザル。お城にいってお爺様たちを殺したら、お尋ね者の神様になっちゃうよ? そうなったら神々の一員としてちょっと問題になるんじゃない?」

「……! 俺の事を、心配しれくれるのか?」

「心配とは違う気がするけど、少なくともあまり人の命を簡単に奪ったりしちゃいけないと思うの。貴方は人間だから人間国にしかいられないでしょう?」

「別にそういう訳でもない。神の力があれば獣人国でも生きていける」

「でも……」

「人間国の奴らは何かと獣人国を馬鹿にしすぎだ。獣風情などと、結局シルバーウルフのお前に情けを掛けられている始末じゃないか」

「うう、そうだけど」

「なに、神に命令をするような輩を始末するだけだ。全員は殺さない」

「殺すことは決定事項なんだね」

「……俺は旅に出る。神が見捨てた国など後はどうなろうと知った事ではない。だがその度にはお前を連れて行く……【テイム】」



 そう言って私に【テイム】してきたヴィーザルに、頭にきて【テイム】を弾き飛ばすと大変驚かれた。

 神のテイムを弾くとは思わなかったらしい。

 こっちだってテイム使えるわ! テイムを持っている者同士はお互いに弾くようなっているのは冒険者の知識で把握済みよ!



「テイム持ちか?」

「そう! でも急にテイムして来るなんて最低だわ」

「すまない……どうすれば君と一緒にずっといられるかと思って……」

「嫌よ、私貴方に一度殺されてるもの」

「え!? だとしたら女神の加護のあるシルバーウルフなのか! ますます欲しい! 結婚しようシルバーウルフ!!」

「イーヤ!」



 そう論争が繰り広げられると、兄がフェンリルの姿で出てきて「話は平行線のようだね」と語りかけてきた。

 お兄ちゃんがくるとこの安心感! パネェっす!



「君は人間国の王を殺すのを諦めない。妹も君との婚姻はしない。その平行線だ」

「そうだな」

「なら後は君の好きにすればいい。だが妹はやらない。家族の総意だ」

「……」

「君は妹を一度殺した。それだけで理由は十分な筈だ」

「どうしたら許して貰える……」

「君が家族を殺した時、どう神々が判断を下すかで考えるよ。ではね」



 そう言うと私の頭をポンポンと尻尾で叩いたお兄ちゃんについて空間に戻ると、母はホッとし、駄女神も「怖かったですねぇ……」と震えている。



「俺のモノにならない、なら斬鉄剣ー! ってならなくて良かったです」

「う、それは困るかも」

「あと、そろそろシルバーウルフでいられる時期が切れそうなんです。流石リルフィル様の娘様ですね……。神としての神格が上がってるみたいで……私の力を撥ね飛ばしつつあります」

「うわぁ……」

「なので、次に彼が戻って来た時は移動をしておくのがおススメですね。急ぎましょうか!」

「そうだね!」



 ヴィーザルは家族を殺してから神々の審判にかけられると兄が言っていた。

 それ次第では色々と変わってくるのだろう。

 でも、ヴィーザルにも理由あっての事だから、恐らく強い罰は与えられないだろうという事だった。



「じゃあ、急いでレベル上げに行きますか!」

「ヴィーザル いなくなった いこう」

「いこう!」



 こうして、自分と同等の相手を只管狩り続け、保険として兄が傍についててくれたけど何とか戦う事は出来てホッとすると、レベルも上がり魔物は大量にアイテムボックスに入れられた。

 お兄ちゃんやお母さんの食事は賄えるかなって思っていると、帰宅すると女神と母はおらず、置手紙で「神々の国で審判も見るついでにアイテムを作ってくるから後はお兄ちゃんお願いね」と書かれていて、後は兄に従うようだ。

 すると――。



「スキルツリーを先にしておこう。大分レベルも上がってスキルツリーが取れるようになっただろう?」

「うん、獣人化まではあと一歩かな」

「なら、最後に試験としてキメラと戦っておこうか」

「「え?」」

「1匹なら倒せると思うから」



 そう笑顔で語った兄に鬼畜さを感じながらも、【モンスターの知識】にあったキメラを思い浮かべる。

 打撃による攻撃力は殆ど聞かず、魔法での攻撃なら半減はするがダメージを与える事が可能。魔法攻撃か。

 ただ、闇属性にはとても弱く、うまくいけば一撃で倒せる可能性はアリ……。



「いけそう?」

「いける かも。 カオル 闇魔法 スキル上げてたし」



 そうなのだ、魔法にも色々あってスキルを上げるにはここ最近の戦闘は良かったのだ。

【火魔法7】【氷魔法7】【水魔法8】【土魔法6】【風魔法8】【雷魔法9】【回復魔法7】【光魔法6】【闇魔法8】【無属性魔法7】と、魔法を使った戦闘を主にする為、魔法スキルは高かった。

 反対に打撃スキルは全然上がってなくて、そこは兄からも指摘されたけれど、恐らく人間の頃の記憶から何かを傷つけるというのがダメなんだろうという話だった。

 あながち間違いではない。


 反対に兄は攻撃することに躊躇はないらしく、フェンリルらしい戦い方が出来るらしい。ちょっと羨ましく感じた。



「これから先、獣人化を覚えてからは仲間のテイムが誰になるかは別として、母上とは別行動になると思った方がいいかも知れない。母上は上位のフェンリルの神だからな」

「なるほど」

「仲間にするならバランスが取れるモンスターをテイムしたいけど、一番はカオルと相性のいいモンスターだから、そこは追々考え行こう」

「うん」

「それに、強さで言えばプリシアは強い。頼りにしてるよプリシア」

「えへへ はーい!」



 プリシアも兄には弱いらしい。

 こんなイケメンフェンリルに言われたらホイホイついて行きたくなっちゃうよね。

 兄妹で無ければ私が立候補したいくらいだ。



「スキルツリーは何処迄とれそうだい?」

「えっと、あ、最短化すれば獣人化までとれそうです」

「おお! それいは良いな」

「ただ、【世界の料理】と【料理スキル】は絶対欲しくて、ポイント的には低いんだけど……」

「今は取ることが出来ないと」

「はい」

「ならサクッとキメラ倒してスキルポイントもゲットして取ってしまおう」

「うう、頑張ります……」

「がんばるよー!」



 こうして、ヴィーザルが帰ってくるまでにとキメラ退治がスタートしたのであった。

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