第11話 記憶保持と、人間国のきな臭い話とヴィーザル

 私はプリシアちゃんに連れられゆっくりとお風呂に入り、リラックスしてから風呂から出るとそこには12歳くらいの獣人の男の子が立っていて――。



「お兄……ちゃん?」

「ああ、お風呂から上がったのか。リラックスできたか?」

「はわわ……お兄ちゃん可愛いっ!」



 獣人姿の兄の可愛さに体が違う意味で震えたのは……ばっちり見られてました。

 ニッコリ笑う兄の笑顔が破壊力抜群で!

 あの母にしてこの兄あり!



「カオル、少し俺と話をしよう」

「はぃぃ」

「はは! そう畏まらなくていい。君は前世の記憶をどれくらい持ってきている?」

「殆どですね。死んだ時と言うか殺された時の相手の顔もしっかり覚えてるくらい」

「余程だな。実は俺は前世の記憶が殆どないんだ」

「え!」

「転生者の中で記憶保持する者はそう多くないと聞いている。カオルの様にしっかりある方が珍しいんだ」

「そうだったの?」



 そう駄女神に聞くと「実はそうなんですよねぇ~」と呑気に答えていた。



「どういう経緯で死んだとか、どういう経緯があったとか……そういうのがごそっと抜け落ちている人の方が大半です」

「なる、ほど?」

「ただ、記憶は無くても体は覚えている……と言うのは多くてね。漢字しかり、英語しかり、不思議と覚えて居たり、どういうシステムがあって何が動いている……とか言うのも記憶がある。ただ、頭に霞みかかってそれがハッキリしないというのが普通なんだそうだ」

「ほぇぇ」

「だから、カオルは結構特別なんだよ。俺も記憶を持って転生したかったなぁ」



 語る兄に何とも言えず首を傾げていると、兄は「さて、ではこれからの事だが」と話を切った。



「これからの事になるが、カオルは獣人を目指しているんだったな。第三層の敵の隠し部屋は恐らく長らく手が入っていない為、闇落ちしている可能性が高いと推測される。だから、同等レベルのドラゴンを狩りつつが良いだろうと判断された」

「なるほど?」

「まだ同等レベルがいるだろう?」

「僅かに」

「それをメインに倒していこう。俺は保護者として付き添うから。良いですよね、母上」

「ええ、構いませんよ。私も一度神々の国へ戻ってカオルの為の特殊アクセサリーを作って来て貰う予定です。本来ならそこの女神がすべきことですが……恐らく女神レベルが低すぎて後回しにされそうなので」

「申し訳ないです」



 何やら、特殊アイテムが私は追々必要らしい。そう言えば二人とも何かしらアクセサリーをつけている。それの事かな?

 私も獣人化に一歩ずつ近づきつつ頑張ろう。



「そう言えば獣人は人間から煙たがれているんでしょう? 理由は様々あるけど、一応一定の距離を保ってはいるんだよね?」

「そうね、人間は獣人を獣風情と呼んで忌み嫌っているわ。それも特にオーディンが姫と子供を作った事で更に過激になったの。人間は神と繋がりが出来たのだっていってね」

「へぇ」

「そのオーディンの息子のヴィーザルは、カオルを嫁にするとほざいていたが」

「あらぁ……。なら猶更お城は今ピリピリしてるでしょうねぇ……」

「そこまでですか」

「下手するとヴィーザルは幽閉ね。人間の娘と子を作るまで幽閉。それくらいの威力はあるわ」



 なるほど、それくらい獣人は嫌われているのか。

 だとしたらヴィーザルは幽閉されるかもしれないなぁ。

 お城でうまく言っておけば問題ないんだろうけど、その辺りどうなんだろう?



「なんにせよ、俺の大事な可愛い妹をあんなサイコパスロリコン野郎に渡すなんて出きない。断固として拒否する!」

「私も一度殺された相手に恋する程ではないかな。寧ろ近寄りたくはないし」



 イケメンなら私に甘いお兄ちゃんがいるし……はぁ、眼福だわ。

 尻尾が幸せのあまりフワフワ振ってしまって兄にすり寄ると、兄はこの上なく幸せそうな笑顔で「カオルは可愛いなぁ」と撫でてくれた。

 そんな時だった、「外 慌ただしく なったよ」と外を警戒してくれていたプリシアが口を開いたのだ。

 そこで音声を拾って貰うと――。



『ヴィーザル様、お城へご同行願います』

『断る。どうせ幽閉の話でも出ているのだろう。無理やり連れて行くというのなら斬鉄剣の錆になって貰うが?』

『っ! 陛下のご意思です!』

『なら爺の首を撥ねてから旅に出るとしよう。幽閉できればいいなぁ?』

『陛下の首を!?』

『神々の血を引いている貴方が祖父を殺すなど』

『その神を幽閉してまで何したい? 何が人間の国の栄光だ? ずっと放置してきた癖にこんな時だけ神だなんだと口走る訳か? 丁度いい、あの城の重鎮たちを殺してから出て行ってやる。幽閉はされないがな』

『お待ちください! ただ陛下は獣風情との婚姻を辞めさせようと必死で』

『俺の大事なシルバーウルフを獣風情だと? ますます殺してから去ってやろう。退け』

『お辞めくださいヴィーザル様!』



 そんな声が聞こえてくる。

 どうやらヴィーザルを幽閉と言うのは間違いなかったらしい。

 しかも私を妻にすると断言してきてしまっている様だ。


 え? 私が奴の妻? 無いんですが?



「これは見ものですわね」

「神が人間に罰を与える……と言えば話は分かりますけれども。神を幽閉すると言った以上、人間もタダでは済まないのは明白なのよ」

「でしょうね」

「例え人間と神の子でも、神の子を大事にしなかった国の問題ね……放置しておきましょう」

「でも、いいのかなぁ……」

「カオル?」

「お尋ね者の神様にならない?」

「「「……」」」

「話してくる」

「あ、カオル!」



 そう言うと居住空間から飛び出した私に兵士達は武器を向けたけれど、【範囲脱力】を使って武器が持てないようにした。

 これには驚いた様子で私を見たヴィーザルに、私は座って会話をする事となったのだ。


 まともに話聞いてくれればいいけれど……。



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