第10話 闇落ちしたブラックドラゴンと、生きていた兄

 私のレッスンは、更に過酷を極める事になった。

 なんとヴィーザルが、夜もダンジョンへいるようになったのだ。

 此れには母も頭を抱え、キュティー駄女神は「腐っても神々なので執着すると凄いんです」と遠い目をしていた。



「仕方ありません。最終試験は隠し部屋のブラックドラゴンと思ったのですが……」

「いえ、そこはします。やらせてください」

「しかし、隠し部屋の近くにヴィーザルがいるのですよ?」

「か、隠れて戦えば何とか。それに一度入れば扉は閉まって入れないのですよね?」

「そうですが……」

「なので、コッソリ入って倒して速攻で居住空間に戻ってきます!」

「うまく いくかな?」

「上手くやろう……折角お母さんが用意した最終試験を突破せずに行くのは気が引けるわ」

「確かに」



 こうして私はスキルとして取った【世界の基礎知識1】【世界の基礎知識2】【世界の知識応用】が3つと、【冒険者としての知識】を取ってから【薬草の知識】は後回しにして、【モンスターの知識】を取らせて貰った。


 これで私の持っているスキルは全部でこうなる。

【アイテムボックス(∞)】【居住空間】【MPタンク(特大)】【空中飛行】【テイム】。【女神の加護】【言語理解】【世界の基礎知識1】【世界の基礎知識2】【世界の知識応用】【冒険者としての知識】【モンスターの知識】となった。

 後は細々としたスキルが大量にあるけれど、【悪意察知】や【危険察知】はあって損はないとの事でピーキーにせず満遍なく取って良かったと思う。



「恐らく、ブラックドラゴンを倒せばあなたは獣人化まで上げられるでしょう。2つの意味で命の危険を伴います。ブラックドラゴンを倒す事、そしてヴィーザルが近くにいる事……気を付けて行きなさい」

「「はい」」



 しかも、よりによって隠し扉の前で寝ていたヴィーザル……。チョー邪魔。

 例えイケメンでもね。悪い事が続けば嫌いになるのよ!

 そう思いつつも起きたのは良いが移動しなかったのでどうしようかと思っていると、プリシアちゃんが私の毛を一本引っこ抜いて、石にペタリと引っ付けると、遠くにポーンと投げてカラカランと音が鳴った。

 途端目を覚ましたヴィーザルが走り出していったので、その隙に隠し扉へ一直線!



「こっちはおとりか!」

「突っ込んじゃえ――!」

「まてシルバーウルフ! そこの敵はお前には強すぎる!」



 待てと言われて待つ奴は早々いない!

 ましてやお前のいう事誰が聞くか! と隠し扉に入ると、ドアが半分しか閉まらなかった。ホワッツ?

 と思っているとヴィーザルがドアを必死に捕まえて閉じないようにしている!

 なんでそこまでするかな!

 寧ろ凄い筋肉だな!



「戻ってこいシルバーウルフ! そいつは闇落ちしたブラックドラゴンだ!」

「へ? 闇落ち?」

「カオル……なんか……変だよ」



 その声に前を向くと、真っ黒な霧の中から大きなブラックドラゴン……?

 違う、私たちの知っているブラックドラゴンとは違う!

 闇落ちってこういう事!?


 隠しエリアのボスが闇落ちした場合、それはただの隠しモンスターではなく、HNMと呼ばれるハイレベルノートリアスモンスターに変わることが稀にあるそうだ。

 闇落ち理由は、長らく誰も戦わなかった等あるのだが、まさにブラックドラゴンは誰も戦わなかったのだろう……闇落ちしてHNMになっていた。

 ハイレベルノートリアスモンスターと呼ばれるそれは、大勢の冒険者が集まってやっと倒せるだけの強さがある……そんなモンスターだったのだ。



「勝て……ると、思う?」

「……無理 と 思う」

「だよね。足が震えちゃって動けないや」

「うごいて ねぇ うごいて」

「グルルルルルルル……」



 ズシン、ズシンと一歩、また一歩と近寄ってくるHNMになったブラックドラゴンは見た目も何もかもが規格外。

 嗚呼、これで三度目の死亡保障使っちゃうかな……。

 そう思い振り上げられた腕が自分に掛かる衝撃を想像して目を閉じた瞬間――。



「シルバーウルフ――!」

「ひぃっ!」

「きゅうっ!」



 死んだ! 死んだ! 思った瞬間首元を噛まれて一気に空を飛躍しドアが半分空いている入口付近にまで身体が飛んでいた。

 すると――。



「全く、目を離すと君は何をしでかすか分からないな」

「!」

「だが、そこの気狂いオーディンの息子のお陰で助かった。今回だけは礼を言ってやる。カオル、外に出るぞ」

「は、はい!」



 生きてた?

 生きてた!

 生きてたよお兄ちゃん!


 私を窮地から助けたのはフェンリルの一番上の優しい兄、そして同じ転生者だというカルシフォンお兄ちゃんだった!

 あちらこちら傷だらけだけど、お兄ちゃんは生きていた! 良かった……良かったよう……!


 でも足が思うように動かず結局首を掴まれて外に這い出て、ヴィーザルが一気に隠し扉を閉じた事で闇落ちしたHNMのブラックドラゴンは再度封印。

 ヴィーザルは力を随分と使ったようだが、やっと恐怖から離れて歩けるようになるとまずは兄にすり寄り「お兄ちゃん生きていて良かった……」と甘えると、お兄ちゃんは幸せそうに体を摺り寄せた。



「逃がしたフェンリルの子供か……、そしてシルバーウルフと親しいが一体」

「貴様に語る義理はない。だが、この子を助けてくれたことには感謝する」

「それは、当たり前だろう。そのシルバーウルフは俺の将来の妻にするつもりだ」

「断る。大事なこの子を貴様のような執着心の塊にやる義理はない」

「それこそ貴様の勝手だろう」

「俺達は兄妹だ。兄として見過ごせない」



 兄がそうネタばらししちゃうと、ヴィーザルは理解できていないようで首を傾げていた。



「だが……フェンリルとシルバーウルフだぞ?」

「訳あってな……。だが兄妹である事に変わりはなし。貴様にやる妹はいない。だが助けてくれた事には感謝する」

「えっと、ありがとう」



 そう私も一応お礼を言うと、顔にモザイクが掛かる程、笑顔が破綻して怖かった。



「ヒィ!」

「君は笑う事を辞めた方が良いかもしれないな」

「そうだろうか? 兄上」

「俺は君の兄になった覚えはない。取り敢えず何故あんな所に入ったのかも含めて話を聞きたい。カオル、着いてきなさい」

「あ、待て!」



 そう言うと私の使っている居住空間に似た空間が目の前に現れ、私もその中にプリシアと共に入ると兄も入ってきて扉は閉められた。

 これでヴィーザルは入ってこれないだろう。

 途端――。



「うわあああああああん! お兄ちゃん無事で良かったよおおおお!」

「全く肝が冷えたぞ! 一体誰だ、お前にあんな所へ入るように言ったのは!」

「お母さんだよおおお!」

「一度シッカリ話をすべき事柄のようだな」



 そう言ってワンワン泣いていると、バリバリバリっという音が聞こえて母とキュティー駄女神が空間に入ってきた。

 本来ならば、普通のブラックドラゴンを倒して一気にレベルアップの予定が……うう。



「嗚呼、カオルにプリシア……助かって良かったわ!」

「お母さああああん!」

「闇落ちしたブラックドラゴンですか……。天界にて騎士団を呼び寄せ討伐依頼を出しておきます」

「ええ、その方が良いわね。嗚呼。それにカルシフォン……」

「お久しぶりです母上」

「貴方が急にやってきてカオルを助けたのを見ていましたよ。本当に助けてくれてありがとう」

「大事な妹だからな……。無事で良かった」

「しかし、頑張って扉を開けてくれたヴィーザル様も頑張っていたと思うんですよ。そこは理解しましょうね?」

「駄女神が言うと聞きたくないけど……助けてくれたのは事実だし、今度会った時にでもまたお礼を言うよ」

「あの場に彼がいてくれて助かった。扉を締め切らないようにしてくれていたのも、運が良かった。しかし何故ブラックドラゴン等と戦うという事を?」



 それについて、母が私の最終試験だった事を告げると、兄は理解したようで「普通のブラックドラゴンなら丁度いい相手だったでしょうね」と母に告げ、私には「またどこかで機会はあるさ」と尻尾で頭を撫でてくれた。



「さて、カルシフォンに何があったか教えて頂戴。貴方もヴィーザルに殺されたのではないのですか?」

「それについては後日、日を改めて……。震えが止まらないカオルをまずは癒してやらねばなりません」

「それもそうですね」

「プリシア が カオル を お風呂に入れてくるよ」

「お願いね」

「今回ばかりは私の死亡保障を出さねばならないかと思いましたが……良かったです」



 こうして私はプリシアちゃんに連れられゆっくりとお風呂に入り、リラックスしてから風呂から出るとそこには12歳くらいの獣人の男の子が立っていて――。



「お兄……ちゃん?」

「ああ、お風呂から上がったのか。リラックスできたか?」

「はわわ……お兄ちゃん可愛いっ!」



 獣人姿の兄の可愛さに体が違う意味で震えたのは……ばっちり見られてました。




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読んでくださりありがとうございます。

これから以降は「サポータ限定日記」にて連載しております。

カクヨムコン用でしたので、ここまでアップです。


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