第9話 ――ヴィーザル―― 愛しいシルバーウルフ

 ――ヴィーザルside――



 ――意図的に避けられている。

 それを感じたのは、数日必死に籠って探した結果だった。

 何処で知ったのか、俺が夕方から夜は城に帰っている事に気づいているようで、フェンリルの力を持ったシルバーウルフは俺が帰ってからが活動時間のようだ。



「……会いたい」



 会いたい気持ちが募る。

 雄だろうか、雌だろうか。

 雄ならばテイムして自分の友人に、雌ならば獣人にして妻にしよう。


 母上は父上が亡くなられてから会っていない。

 元々俺にはあまり興味のない母親だったから気にはしないが、顔を合わせれば「貴方は神の血を引くのですから人間の娘と婚姻為さい」と煩い。俺の血はとても尊いのだと人間共は煩いのだ。


 関係を持ちたくなくて、父の仇討としてフェンリルを倒した時はスッとしたが、此奴があっちこっちの雌フェンリル相手にハーレムしていた事を耳にした時 は、何故か非常にむかついた。

 所詮は犬畜生と思いつつ、父を殺したフェンリルの子を見つけては殺していったが、一匹には逃げられた。

 だが、逃げているフェンリルを追いかけている間に随分と殺せたので良かったとしよう。



「逃げたフェンリルは追々見つけるとして……問題はシルバーウルフの方だな」



 魔法特化のシルバーウルフの様で、是非とも欲しいと思った。

 フェンリルに近いシルバーウルフ……そう思うだけで欲しい気持ちが跳ね上がる。

 だがその日、シルバーウルフ達は苦戦したようで、愛しいシルバーウルフの毛が落ちていた。

 本当に少しだけだが、匂いを嗅ぐといい香りがして……恐らく雌だろうと判断した。



「嗚呼、将来の妻を見つけたかもしれない……」



 真っ白な毛を大事にハンカチに包み光悦して歪んだ笑みを浮かべる。

 神の血を引く俺は執着すると離れない。

 フェンリルの事もそうだが、このシルバーウルフの事も離れられそうにない。

 何としても手に入れなくては……。


 そう思いながら周囲を探し回ったものの、今日の収穫は愛しい彼女の毛のみ。

 仕方なく人間の国に戻り城へと入ると、祖父である国王から呼び出された。



「お前も、もう17歳だ。そろそろ花嫁を選ばねばならん」

「それでしたら、既に見つけております」

「おお、そうであったか。どこの貴族の娘だ?」

「シルバーウルフです」

「シルバー……なんじゃと?」

「嗚呼、やっと見つけた伴侶です。獣人になって貰って是非とも妻に貰わねば!」

「ならん! ならんぞヴィーザル! お前は誇り高き人間族の」

「黙れ! 神に指図する気か!」

「くっ」



 神の執着を知っているからこそ、祖父も強く言えない。

 俺は特に神の力が強かった為、祖父も強く今まで婚姻や婚約者を言ってこなかった。

 だが、もう見つけてしまった。愛しい者を。

 最早どうする事も出来ない程にのめり込む女性を見つけてしまった。


 魔物に斬られても尚且つ美しい輝きを放つ毛艶……さぞかし美しいシルバーウルフだろう。



「この話は終いですね? しつこく言うのであれば神の国に戻ってもいいんですよ」

「それは……」

「少なくとも、あなた方が言う人間の令嬢になんて興味は毛ほどもありません」

「……」

「夕方から夜にかけて戻ってくるのも今後は煩わしい。今後好きにさせて貰う」

「ヴィ、ヴィーザル……」



 そう言うとマントを翻して俺は自室に戻ると、アイテムボックスに必要な物を入れ込んで夜もあちらで過ごす為に動き出す。

 夜しか行動していないのなら、夜見つければいい。

 そう思い向かったのに、今日に限ってシルバーウルフの気配を感じる事が出来なかった。

 二層に上がったのだろうか?

 二層は無駄に広い、探すのも苦労するだろう。



「そうなる前に捕まえたかったんだが……」



 思わず独り言ちしながら三層を歩きまわり、たまに出没するハイレベルノートリアスモンスター、通称:HNMを倒しながら進み、恋煩いに苦しみながら溜息を吐いたのだった……。


 嗚呼、会いたいシルバーウルフ。

 君に相応しい名をつけよう。

 人語を話せるのなら名を聞きたい。

 どのような声で喋るのだろうか?

 目の色は? 声色は? 君はどんな姿でどれだけ美しいんだ?



「会いたい……是非とも我妻に」



 狂気に満ち溢れた心を抑え込み、俺は斬鉄剣を振るう。

 気が付けば周囲の敵は殆どいなくなっていて、モンスターは一応今後の旅用の資金としてアイテムボックスに仕舞い込み、暫しの睡眠を取ることになったのだった――。

 しかし、その頃愛しいシルバーウルフはと言うと……。

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