第8話 最終試験前に知恵熱……
お母さんレッスンは、ヴィーザルがやってきた事で難易度が上がった。
【ヴィーザルには見つからずにレベルを上げましょう】が始まったのだ。
見つからない様に? どうやって? と思ったけれど、彼は必ず夜には人間国の城には戻らないといけないらしく、私の行動時間は夜に限定された。
早朝から夕方までは外にヴィーザルがいる為、居住空間でやり過ごす。
これで遭遇することなく今の所は上手くいっている。
そしてレベルもメキメキ上がって、【四文字の魔法を使う事が可能】となったのも大きかった。
これである程度の【範囲】魔法が使えるようになったのだ。
無論範囲はMP消費が激しいが、使わないのと使うのとでは効率が違う。
使う事で失った以上のMPが戻ってくるのだから最高としか言えない!
「今日は卒業試験ね……。その前にスキルツリーをチェックしておきましょう? 暫く弄っていなかったものねぇ」
「そうですね」
「MP変換にするので時間が掛かっちゃうものね~」
「貴女が味覚までフェンリルにしなかったミスでしょう?」
「はい! その通りです!」
――そうなのである。
この駄女神、私が異世界からの転生者であることを母にゲロしたのだ。
最初こそ信じられないと思ったが、母は意外にもすんなり受け入れ、「それで特殊だったのねぇ」とそれ以上の事は言わなかった。
そこでスキルツリーを見た所、【獣人化】までは届かないものの、【世界の基礎知識1】【世界の基礎知識2】後は【世界の知識応用】が3つをまずは取ることになった。
獣人化には絶対必須のスキルなので選んでツリーを進ませていくと、膨大な量の知識が脳に入り込んできて一日寝込むことになった……不甲斐なし。
知恵熱なんて早々出したこと無い私が知恵熱で寝込むだなんて……。
母は「私の時もそうだったわぁ」と蹲る私をフェンリルの姿で寄り添ってくれてホッとする。嗚呼、モフモフこそ至高であれ!
「しかし、流石リルフィル様のご息女ですね。毛艶は美しいですし将来はさぞかし美しいフェンリルになるでしょう。となると、テイムする魔物は厳選した方が良さそうですね」
「厳選はするわ。隠し扉の中にいるモンスターなら大体ロクデナシはいないと思うから、後はカオルとの相性次第ね」
そんな会話をするお母さんと駄女神……悔しいけど相性はどうしようもないなぁ。
相性がいい子と出会えればいいけど、そうでない場合はザシュッとね?
仲良くなれない子をテイムしても、長続きなんてしないもの。
友達と一所よね。
また、【冒険者としての知識】は頭痛がある程度減ってからとってみた。
やはり膨大な量の知識が入ってきて、その日は動けず一日寝て過ごした。
こういう時は大人しくしているに限る……。
そう言えば最近出くわしてもいなヴィーザルはどうしているだろうか?
「プリシアちゃん、まだヴィーザルはしつこく通ってきてるの?」
「しつこく いるね」
「はぁ……」
「でも 探し回っても いないから 不思議に 思ってる みたい」
「ふむ?」
「口癖が 『フェンリルに似たシルバーウルフ、欲しい!』 になってる」
「「「うわぁ」」」
「しつこい 男は 嫌われるのにね ストーカー気質 なのかな」
「やだー。ヤンデレも入ってそう」
「サイコパスも入ってますよ」
「「最低―」」
と、いない所で女子に不人気のヴィーザルであった。
例えイケメンでも、それを損なう物が2つも揃っているうえに、兄弟姉妹を殺したとあってはマイナスからスタートなのは当たり前なのだ!
私のお兄ちゃんを返せ! うううう……。
「お兄ちゃんが……無事だったなら良かったのに……」
「カルシフォンは良い子だったわ……。よく貴女の世話をしていたわね」
「獣人になって逃げおおせたとかないかなぁ」
「地図に表示されるのはフェンリルの姿のみだから、もしかしたら生き残る為に獣人となった可能性は捨てきれないわ」
「……」
「あの子は誰よりも賢かった。そして末の妹であるカオル、貴女を心配していました。あの子が生きていたならば、また会えるでしょう」
だとしたら、会いたいなぁ。
ヴィーザルとかもういいんだよ。
お兄ちゃんに会いたい。
すると――。
「カルシフォン様も別の女神が担当しているので、恐らく生き延びてはいると思いますよ」
「それは本当ですか?」
「はい、カルシフォン様も転生者ですので」
「まぁ……」
兄よ、君も転生者だったのか……。いや、まぁそれは置いていくとして、兄は素晴らしくいい女神がついているらしく、きっと生きているだろうというキュティーからの情報だった。
そうだとしたら、地図に姿が見えないのも納得だ。
何かしらのスキルを使っているのかもしれない。
「私の方からご連絡しておきましょうか?」
「そうね、カオルと私は無事であることを伝えてあげて頂戴。そして分かった事があれば連絡を」
「畏まりました」
そう言うと駄女神は空間をバリバリして出ていき、私に寄り添う母はスリスリと私の頬を大きな頬で撫でてくれた。
「カルシフォンも転生者だったのですね……。ふふふ、うちの子に転生者が二人もいたなんて驚きです」
「お母さんは嫌じゃない?」
「ええ、転生者はこの世界の秩序を守るために存在すると言われていましたから、大変喜ばしい事ですよ。ただ、死にやすいのが難点だと」
確かに転生者は死の恐怖と毎回戦わないといけないからね。
悪役令嬢しかり、悪役令息しかり、本当やってられないわ。
損な役回りじゃない。
しかも既に2回死にかけてるし……1度は確実に死んだし。
最早この姿じゃスローライフも難しい……。
「早く獣人になって命を狙われずスローライフを送りたい……」
「そうね、後半分と言ったところね。何事にも下準備って必要なのよ」
「はい、お母さん」
そう言ってウトウトしながら眠りについたその頃、外のヴィーザルは私がいたエリアをグルグル徘徊していたようで……。
最早ドラドンすら逃げまわる程の強さを持つヴィーザルは、必死に私を探しているなど、この時知りもしなかったのだ。
そして――。
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