第7話 お母さんレッスンその①と、やってきたあの野郎

 お母さんレッスンその1。

【まずはトカゲからスタートしましょう】が始まった。


 トカゲと言うのはサラマンダーのような火を纏ったトカゲで、あちらのリアルで言えばコモドドラゴンくらいの大きさがある。

 毒を使った攻撃を仕掛けてくる上に、噛みつかれると毒が回ってとても危険だと母から聞いていたので、毒と噛みつきにだけは気をつけつつ空からの攻撃となった。

 しかも奴ら、リンクするのである。


 一匹と戦てるとウジャウジャ……。


 毒には魔法で【強風】を作って吹き飛ばしつつ一匹ずつ仕留めていくのだけれど……正直一匹ずつ仕留めるのは無理だと判断。

 しかし私は見つけてしまったのだ。

 こ奴らの弱点を!



「アンタ達の弱点は氷の中でもこれでしょ! 【雹】でボコボコになっちゃえ!」



 そう魔法陣を作り上げると、コモドドラゴンに似た炎を纏ったドラゴンの上に直径50センチ以上の雹の雨をドンドン降らせる。

 ガツン! ゴツン! と当たってはドラゴンの炎を消して丸裸になって行くドラゴン達の身体に、大粒の雹が叩きつけられて次々倒れて行った。

 ふははは! 口が潰されては毒牙も毒も出せまい!



「氷を 突き刺す だけでは 時間が 掛かってたけど」

「これならボッコボコよ! 見ろ! コモドドラゴンがトカゲのようだ!」

「油断大敵」



 そう言うと死に物狂いで動いて口を開けて毒をこちらに出そうとしたドラゴンの口に【串刺し】をして黙らせるプリシアちゃん。頼りになります!

 多分この辺のモンスターならプリシアちゃん一匹でも倒せそうなんだよね。

 私に付き合って貰って申し訳ない。

 20分程雹を振らせてから地面に降りると、冷たくてひやりとしたけれど、綺麗にトカゲは倒す事が出来ていた。

 生きている奴はいないようだ。

 雹は私が消すとボコボコになったトカゲが沢山……これを一斉にアイテムボックスに入れ込みまずはクエストクリアね。



「ふう、取り敢えずはお母さんからのクエストは達成かな!」

「大変 よく 出来ました!」

「わーい!」

「でも 油断大敵ね」

「はぃ」



 ちょっとションボリ。でも油断大敵なのは間違いない。

 プリシアちゃんは私の為の生存保証と言う役目もあるのだから厳しくなるのは仕方ない事。そう思ってると『もしもーし? 聞こえます~?』と脳裏に駄女神の声が響き、周囲を確認してから念話を開始。



『何でしょう、駄女神様』

『あ、良かった。あれから様子を伺いつつ見てたんですけど、まさかカオルの母親がよりによってリルフィル様だったとは……ご息女に対して私では役不足……』

『かも知れませんね。下っ端女神って母が言ってました』

『ううう……。これでも下っ端からは少し上がったんですよ? 転生者を一人用意するくらいには』

『その割には、私結構死にましたね』

『はい! その節は大変申し訳なく思います!』

『それで、何の用です?』



 そう告げながら周辺を見て回っていると――。



『ああああ! そうです! オーディンの息子であるヴィーザル様に判決が。これ以上フェンリルを殺す事はまかりならん! って事になりました!』

『それは僥倖!』

『ただ、ヴィーザル様も反抗しまして』

『え……』

『自分の気に入ったフェンリルを手に入れさせて貰うって言って、それが通っちゃったんです』

『でも、私と母は既に死んでると思われているから、こっちに来ないでしょう?』

『いえ、絶賛そちらに向かい中ですね。後5分程で合流するかと』

『早く言え! クソ馬鹿駄女神!』



 そうとなればこんな所にいられるか!

 幾らフェンリルに見えないと言っても付きまとわれるなんて最低よ!



「プリシアちゃん居住空間に逃げよう!」

「はーい」



 こうして雹はあらかた消してから急いで居住空間に逃げ込んだ私とプリシアちゃん。

 その数分後に本当にヴィーザルとか言うオーディンの息子が来ているのかプリシアちゃんに確認して貰うと、確かに今外にいるらしく、思わず親子でゲンナリした。



「魔力鑑定 してる」

「魔力鑑定?」

「どのモンスターが出したのか魔力を鑑定してるのね。困ったわね……貴女の魔力だと直ぐバレちゃうわよ」

「でも、フェンリルとまでは分かっちゃうんですか?」

「そのご心配はないですよ~!」



 と、バリバリ音を立てて異空間を捻じ曲げてやってきたのは駄女神だった。

「よっと」と床に降りると、私相手に声を掛けてきた。



「シルバーウルフの魔力と思う筈です。その為の偽装ですから」

「なるほど。何故このエリアに……」

「一度入ってみたくて異空間バリバリしてきちゃいました。あ、リルフィル様、こちらお着替えとなります。お裸では刺激が強かろうと思いまして」

「女神用の服じゃない。他の服は無かったの? 私が預けていたアクセサリーは? アレ特殊なのよ?」

「こ、今度持って来ます!」

「ダメ女神ねぇ……。そこまで整えてから来て欲しいものだわぁ」



 嫋やか美人が怒ると怖い……と言うのを初めて見た気がする。

 それより母の方が駄女神より女神としてはランクが上なのだと聞き更に驚いた。

 そりゃ、下っ端女神に自分の娘を預けたくはないよなぁ……。

 お母さんの教育はキュティーにも向きそうだ。


 母からもダメだしを受ける駄女神キュティー。まぁ、駄女神だもんね。うっかりさんだもんね。そりゃお叱りを受けちゃうよね。



「あ、プリシアちゃん? 外の声を中に拾ってくれる?」

「はーい」



 そう母が言うとザザザザ……と言う音と共に、男の声が聞こえてくる。

 姿はあの時、斬鉄剣で殺された時しか見てないけど、中々のイケメンの癖にサイコパスだったんだよね。



『この魔力……フェンリルに近い……フェンリルの匂いがするが……本当にホワイトウルフの魔力か?』



 うわ、あの人魔力の匂いでフェンリルとか解るとか変態の域じゃん。

 サイコパスだからってそこまでフェンリル特化とかナイワー。



『だがホワイトウルフは第一層にいる筈のモンスターだ……。何かしら問題が起きて逃げてきたのか、強い個体なのか……気になるな』



 気にせずお帰り下さい。

 私は貴方に用はありません。

 そう言いたかったけれど、聞こえる声にビクビクしつつ母に寄り添った。



『見つけたら……フェンリルが見つかるまでの間、世話をするのもやぶさかではない』



 遠慮します――!

 断固拒否します――!


 思わず怒りでフンスフンス鼻を鳴らしちゃったけど、「あらら~目を付けられちゃったわねぇ」と駄女神は口にしているし、母は溜息を吐いているし……暫く同じエリアをうろつきそうだけど、見つかったら直ぐ居住空間へ逃げる事に決定したのは言うまでもなく。

 それからの日々とはヴィーザルが現れる頃合いで母の命令で連絡をしてくるようになったキュティーのお陰で逃げ続ける日々を送りつつ、レベル上げを頑張る日が続き……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る