第3話 死亡保障と、生存保証

 何気にこの黒豹……任意の方角に【咆哮】できて、当たれば空から落ちるのである。

 大量リンクさせたお陰であっちこっちから【咆哮】が飛んできた為、避けながら【素早さアップ】のスキルを取り必死に移動しながら魔法で倒す。

 でも、明後日の方角から【咆哮】が飛んできて地面に落とされる事もかなり多く、その度にHPがすり減っていく。



(回復したくても此れじゃ回復できないわね!)



 何としても範囲の炎で倒そうとするけど、此奴ら炎耐性が何故かある。

 多分奥に火山地帯があるんだろうと予測するが、面倒な事この上ない。

 咆哮が当たる度に地面へベチャリと落ちるも結構痛い、下が氷なだけに。

 しかも炎で滑るし毛が凍って抜けるし最悪!

 それでも、レベルは上がっていく。


 霞みを食べてる間はMPも溜まるが、経験値も溜まるのだ。

 それに戦闘で一匹倒せばそれなりに経験値は入っている筈――経験値が溜まればその時にランダムでスキルを貰える筈なのだ。


 来い! レベルアップ!


 必死に戦いながら、20匹の黒豹を相手にしつつ、それでも30匹いたのに10匹はこの2時間で倒し切っている。

 後少し、後少しと思っていた瞬間、咆哮を5匹から浴びて吹き飛ばされる。


 しかも吹き飛ばされた場所が悪かった。

 流氷の上に落とされたのだ。

 これで地面を割られたら溜まったもんじゃない!

 私は泳げないんだよ!


 それでも一か八か、一匹仕留めると【レベルアップしました。魔法の文字が二文字に増えます】とでて迷わず【雷雲】を思い描いた。

 途端――黒豹の回りに黒い雲が集まり、一斉に雷がバリバリバリバリッと落ちて行く。

 良い感じに焦げた匂いがして、次々に倒れる黒豹たち。

 ヨシヨシ……、生き延びたぞ私は……痛てて。

 直ぐに体に回復魔法をかけてから空中飛行を行い、黒焦げの黒豹の元へと向かうと全員絶命していた。

 お命、有難くあとでMPにして頂きます。

 取り敢えずここは寒い……風呂にでも入らないと、毛もべちゃべちゃだし汚いし……。

 はぁ……咄嗟に魔法二文字使えるようになって良かった……。

 全部の黒豹を移動しながらアイテムボックスに入れ込み終わると、ふうっと座り込んで息を整える。フェンリルの姿なので舌から汗が出るけど。



(ん――やり切ったわ……そう言えば兄弟たちはどうしてるかしら)



 そう思い赤い点を探すが一つもない。

 可笑しい、昨日までは確かにまだ数名いた筈。

 お姉ちゃん? お兄ちゃん? 最下層のお母さんは移動したのか既にいなかった。

 どういう事? どうなってるの? まさか……。



「酷く焦げ臭い臭いがすると思えば……やはりお前かフェンリルのクソガキ」

(!)

「貴様には俺の親父の仇がある。いや、貴様の親父にこそだがな。安心しろ……父親は俺が殺して置いたし、母親は……生きているかなぁ?」

(お母さん!)

「まぁ、どうでもいい。後は貴様だけだ! 斬鉄剣!」



 ひゅうっと言う風音と共に胴体が半分に斬られた。



(へ? これで死亡ENDじゃね?)



 ドチャリ……と落ちた私の身体に、男は高笑いしながら去っていったが、サイコパス! って心で叫びながら意識を手放した。





◇◇◇





「だから言ったじゃないですか~~!! 命は狙われますごめんなさいってー!」

「あ、あれってそういう事。オーディンの息子に狙われますよってハッキリ言わないと。報連相も出来ない駄女神なんですね」

「もーもー! あーいえばこーいう!」

「死亡保障も流石に今回はつきませんよね」

「つきますよ一応……ただ、このままだとず――っと追いかけられるので、フェンリルでいる事は彼には分からない様にしようと思います!」

「出来るなら最初からしとけ駄女神!」

「ああああん!」



 思わず平手打ちして怒ると女神はグスンと泣きながらも、オーディンの息子にはホワイトウフルに見えるようして貰った。

 これで取りあえずは大丈夫な筈だ。


 それでも、週に1度は瞑想して加護を貰わねばならないらしく、面倒くさいがそれでオーディンの息子から逃げられるならと了承する。

 しかし、オーディンの息子、サイコパス的な何かを感じたぞ。



「オーディンの息子は我々と同じ神々で、貴女も一応神の一員ではあるんですが、神同士の諍いに首を出すのはご法度なので……」

「神も神々のクソ野郎」

「そこは仕方ないですよ。相手はオーディンの息子ですよ? 気をつけないと、首・チョン・パーですよ?」

「されれば?」

「厳しい!」

「切れ味抜群よ? 胴体ストーンって」

「ひいいいいいい!」

「痛いとか思う前に殺されたからいいけど、ビックリよ。でも仇討なら私だってしたいわ! 兄弟姉妹が殺されたのよ!?」

「それについては……神々の話し合いの元、貴女の仇討は却下されています」

「なんでよ!!」



 そう叫んで兄の姿を思い浮かべると涙を零して「なんでよ……」と再度聞くと、「命を奪う様な仇討で無ければ可能なんですが……」と口を濁して語る駄女神に涙を拭い「畜生!」と叫んだ。



 アイツ、そう、オーディンの息子には確かにビックリした。

 チョーイケメンなのにヤンデル。

 アレはヤンデル目だわ。

 でも……フェンリルがいなくなったんだから神々の世界に帰るわよね?

 そう思ったが、どうやらオーディンは人間の姫を孕ませて産ませたのがその子供らしく、どこぞの王子なのだとか。

 神の力を持つ王子を持て余している国があるらしく、それが人間の国らしい。

 つまり、オーディンの息子は厄介者である。


 また、人間の国は獣人や獣には厳しく、行くのならダンジョンの三層渡った奥にある獣人の国が良いだろうという事だった。



「……なるほど、それまでにレベルを上げて獣人になるしかないのね」

「特別にスキルツリーを今見ても良いですよ。経験値もかなり入ってますし、スキルツリーを選んで獣人を早く取った方がオーディンも手が出しにくいです」

「ホワイトウルフには興味ないわよね?」

「恐らく」

「ならいいわ。スキルツリーじっくり見てから帰ろう」



 こうして私は裸に近い恰好でスキルツリーを見て一番上の獣人化を目指す訳だけど……、今入ってるポイントでは初期は覚えられても、その上がまだまだ遠かった。

 ゲームでは基礎値はしっかりと……と言うのが伝統である。

 基礎値が弱いと何をしても弱いのだ。

 ピーキーなのを目指したいなら捨てても良いが、それだとイザと言う時がとても危険すぎる賭けになる。

 だからうっかり忘れていたのは、仕方ないのである!

 リンク狩りがこんなに危険とは思わなかったんだもん!

 そう言えば――。



「ダンジョンって事は人間もいるのよね?」

「いますね」

「倒したらどうなるの? 神としてアウト?」

「アウトではないですが……恐れられますね」

「むう、戦闘は避けるべきか」

「貴女も腐っても神の一員ですし……」

「アンタの駄女神だけど神の一員ですものね」

「はいいい……」

「女神の加護が死亡保障とか初めて聞きましたわ」

「えへへ」

「褒めてないからね」



 こうしてスキルを弄りながらまずは初期スキルを全て取った。

 その中で目を光ったのは【言語理解】と言うもので、これがあると人間の言葉が解るようになるらしい。

 神と言えど【言語理解】がある神とない神とでは雲泥の差が着くらしく、持っていて損は一切ないとの事なので取って置いて良かった。

 これで神の中では、1つ上の女になる訳だ。



「それと、今までに既に2回も殺しちゃってるので……流石に他の神々に目をつけられまして」

「でしょうね」

「私と通信出来るモンスターを差し上げます……。なので、此れ以上死なないで下さい……」

「……保証はしませんよ」

「うう、生存保証を求めます!」

「出来る限りは頑張ります」



 こうして、宝石のようなプルプルしてるような生き物を手に入れると、どうやらレジェンドスライムの子供のようで、本日生まれたばかりなんだとか。



「うう……大事に育ててたのに……」

「悪いね、私の生存保証を高めたいなら貰ってくよ」

「あああん! 絶対生きてくださいよぉぉぉおお!」

「アンタが駄女神だからこうなってるんでしょ!」

「そうでしたね! もうお恥ずかしい限りです!」

「他の女神や神々に叱られて置け!」

「うう……既に叱られた後です」



 どうやら既に絞られた後らしい。

 そこで、レジェンドスライムをテイムすると、素直に言う事を聞いてくれたので【プリシア】と名付けると、嬉しそうにしていたので、どうやら女の子で合っている様だ。



「プリシア おやくに たつよ?」

「うんうん、駄女神よりもお役に立ってね」

「はぁ~い」

「ああん! あんなに一杯世話してあげたのにぃ! 最初に裏切りしスライムー!」

「アンタも大変ね、あんなのが育ての親で」

「恥ずかしい かぎりですね?」

「プリシアー!」



 号泣しながら床にベチャリと倒れる女神。

 今の一撃はきつかろう。

 さて、スキルは万全だ。

 後はプリシアとダメ女神次第だが、連絡が取り合えるのならそれに越したことは無い。



「うう、貴女と会話する時はプリシアを使って念話しますから……他の方々に分からない様にしますからね」

「そうしてください」

「ではプリシア……元気でね」

「ばいばい」

「素っ気ない!」



 こうして私とプリシアは光に包まれると凍てつく寒さに目を覚ましハッとする。

 周辺にはオーディンは……。



「オーディンの息子ちゃん かえった」

「帰ったか。お、私も言葉が閊えるのね」

「言語理解あるからね」

「なるほど。これは便利だわ。取り敢えず【居住空間】にいこう……。寒さで毛が最悪! 美しくない!」

「死んでたしね」



 こうして私とプリシアは【居住空間】に移動し、まずは体のお手入れをしてから食事となるのだが――そう言えば、プリシアのお食事は?



「プリシアのご飯 カオルの MPだよ」

「MPの重要性が沢山でてくるな……沢山食べよう」

「太らないから 安心して。 でも 獣人になったら 太るから 気を付けて」

「太るんかい!」



 あっちの世界でもこっちの異世界でも、ダイエットは永遠のテーマ!?

 くそう……若さに恰好つけて運動しまくってやる!

 食べて痩せるが一番よね! 努力が実れば魅力! 目指せ、綺麗な腰と肉体美!

 そう心で叫んで只管アイテムボックスからモンスターを出し、MP変換しながら霞の食事をするのであった……。




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