第2話

翌朝。

目を覚ますと、見たことの無い景色が目の前に広がっていた。知らない家、普段と違う匂い。そんな状況に康人は深く困惑した。さらに、自分の手を見るとまるで獣のような、いや獣の毛が生えているのだ。手のひらには肉球がつき、その指先には鋭い爪が光っている。

「リンくーん、おはよう。」

部屋の奥から女性が近づいてくると、「リンくん」と何度も呼びながら、康人の頭をわしゃわしゃとなでた。

「そうか、俺は猫になったのか」

その理解し難い状況を何とか理解しようと、自分に言い聞かせるように頭の中で呟いた。

康人が周りを見渡すと少しだけ情報が入ってきた。どうやらこの女性は一人暮らしらしく、自分の新しい名は「リン」というらしい。

「リンくーん。ご飯だよ!」

そう呼ぶ声がキッチンの方から聞こえると、リンはスタスタとその声の方に向かう。声をあげようと喉を鳴らすと、「ミャー」というか細い声が出てくるだけだった。すると、女性は喜びを体で表すように、リンのことをまたわしゃわしゃとなでた。リンは近くにある自分のご飯と思われるものを食べた。その後も数時間、この家の女性に時々なでられたり、抱っこされたりと「猫らしい」生活を営んだ。リンが部屋を歩いていると、一枚の写真が目に止まった。この女性の家族写真であろうか。その写真には母親と父親、そして祖母らしき人が写っている。康人はふと母親のことを考えた。今母親はどうなっている。朝食はどうした。様々な考えが頭をまわる。焦りの気持ちが頂点に達したとき、

ガチャ

「行ってきます!リンくん、いい子にしててね!」

扉の開く音が聞こえると、康人は一目散に外へ駆け出した。

「どこ行くの!リンくん!」

後ろから聞こえる声には目もくれず、とにかく走った。どこまで走っただろうか。ふと康人は我に返ると、そこが見知った景色であることが分かった。

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