第3-4:愛情と友情

 葵がナンパされそうになる件が通り過ぎて、今俺らはゲーセンに居る。

葉涙はる、これ取ろうとか正気? 絶対取れないよ?」

「まあ見てろって」

 そう言って百円玉を二枚入れる。

 巨大なぬいぐるみをとる上で肝心な事は「頭を軸に回転させる」こと。

 大きなぬいぐるみほど頭の部分が動かないので、足側から狙うのが吉だったりもする。

 そして見事に景品口に落下。

「ほらとれた」

「す、すごい……」

「クレーンゲームはコツさえ掴めばすぐに取れるよ」

 そう言って彼女に特大のぬいぐるみを渡す。

「なんか自然と取れすぎて何も言葉が出てこない……」

「これでもゲーマー兼ねてないんで」

「……やっぱり葉涙は私よりもすごい」

 小声で何かを言っているが、声が小さすぎて何も聞こえない。

「なんかいった?」

「んーん、何にも」

「? そうか」

 葵は何もないかのように俺の手を引っ張り、「早くしろ」と言わんばかりに誘う。

「今度はあの音楽ゲームでもしよう?」

「いいね」

 そう言いながらウィンドウショッピングを最高にまで楽しんだ。

 人生初の彼女とのデートはとても楽しくて、この時間がずっと続けばいいのになんて思っていた。

 でも、人生はそんなにあまくない。

 人間に限った話でもないが、「動物」であるかぎり、生きている限り、「死ぬこと」は逃れられない。

 かといって、不老不死になる童話のようなアイテムは存在しない。

 俺ができることとして、彼女を精一杯愛することだと思う。

「なんか難しいことでも考えてる?」

「その心は?」

 いきなり人の心を見透かしてくるのはおやめください。

「険しい顔してるから」

「なるほど?」

 なんだかよくわからないが表情に出ていたのだろう。

 その後もさまざまなウィンドウショッピングを楽しんだ。

 そろそろ日も暮れようかという時間になった。

「もうそろそろ帰ろっか」

「そうだな」

 そして大量の荷物を両手に抱えながら、電車やバスに揺られ、家の目の前までやってきたところで、ふと、葵が足を止めた。

「葵……?」

「最近さ、私よく思うんだよね」

「……?」

「もし、このまま葉涙と関係が良好でそのまま結婚できたら、すごく幸せなんだろうなって。でも、反対に関係がこじれたりして、……。私はどうすれば前者のように結婚までできるのかって」

「葵……」

 相変わらず生真面目といいうか愛が重いというか。

 でも、それが葵のいいところであり悪いところでもある。

「だから、さ……」

 そう言った途端、葵は荷物を玄関に起き、踵を目一杯あげて、俺の唇を奪った。

「——っ」

「葉涙、私とずっと一緒にいてよ。誰よりも、ずっと長く、ずっと片思いしてたんだよ? 葉涙も、それくらい私を愛してよ」

 俺は知っている。

 この状態の葵は本気マジだということを。



「私といてくれる?」

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