第2-1:晴れ時々桜吹雪

「……で、どうするの」

 そんな回答を求められたのは初めてだった。

 でも、俺には選べない。

「…………」

「…………」

 俺の中でさまざまな感情が葛藤する。

「イエス」と言えば良いのか?

 それで済む簡潔な話なのか?

 でも、万が一、今までの感情が崩壊したら?

 何かがきっかけで、この関係が瓦解がかいしたら?

 ——きっと、俺は立ち直れない。

 だからこそ、「ノー」というべきなのか?

 それはそれで違う気がする。

 では逆説。

 彼女がただからかっている・・・・・・・可能性は?

 全くのゼロとは考えにくい。

 かと言っても彼女が本気の可能性の方が高いわけで。

「…………」

「…………」

「…………」

 周りはシンとしている。

 女子軍はぎゅっと拳をつくり、なにかを応援している。

 でも、彼女が本気なら——

「俺は——」

「……はい、だめ」

「?」

「結構頑張ったんだろうけど、だめ」

「その思惑は?」

10秒を過ぎたら返事は聞かない・・・・・・・・・・・・・・・。どんな理由でも、それはこたえにならない」


「っ——」


 待たせ過ぎた、ということだ。

「まあ、結局こうなるとは思ってたけど、やっぱ葉涙はるは優柔不断だよね。そこが仇となったというか」

「うぐっ」

 痛いところを突かれ、なにも反論が出来ない。

「返事はまたこんど聞くことにするね」

「おう……」

 なんだか、どっと疲れた気がする。

「あ、あとでうちに来て」

「?」

「ちょっと用事思い出したから」

「ハイ」

「まあ、帰ろ?」

「ん」

 そう言って荷物をまとめ、正門から教室を出ていった。

 そういうなり、葵は手を繋いできた。

「葵さん?」

「なーに?」

「流石に手を繋ぐのは恥ずかしいのですが?」

「んー、好きな人と手を繋ぎたくなのはしょうがないことなので」

「……なるほど」

 わけがわからないことを言われたが、それもそうかと理解できてしまう自分が怖い。

「そうだよ。ほら、かえろ」

 そう言ってニコニコニマニマしてる葵さんは可愛いです。

「あいつらまた一緒に帰ってら」

「ギルティイイイイイ」

「あいつ通報しようぜ」

「目を覚ませ、葵ちゃんの好きな人は俺だ……」

 教室を出る時になにか聞こえた気がしたが、気にしたら負けなのだろう。

「…………」

 背を向けながら静かに「ザマァ」という顔をしてやった。

「「「「「キエエエエエエ!!!!」」」」」

 男子たちは苛立ち、女子たちはお腹を抱えながら笑いこらえている。

 頑張れ女子。



――――――――――



 ふと、歩いて数十メートル。

 体育館の裏側の密林。

 ふいに繋がれてた手が離された。

「? 葵?」

「なーに?」

「俺らどこへ向かっているんだ?」

「まあ、着いてくれば」

「???」

 そう言って彼女はスタスタと歩き進める。

 すでに正門からは離れており、学校の敷地なのかもわからない場所にまで進んできている。

 念の為に地図アプリで場所を確認しようとするも、圏外にて確認できず。

 どこへいくのか不明瞭ふめいりょうのまま、俺は不安に満ちながら、彼女の背を追いかける。

「着いてからのお楽しみ。着いたらきっとびっくりする場所だから」

 彼女はひたすらに黙秘だまる

 そして、歩くこと15分。

 そこに見えたのは、大きな桜の大樹と街を一望できる様な丘。

「まだ咲いてて良かった」

「葵さん、ここはどこですか?」

「? そこに地名書いてるでしょ?」

 そこに書かれた立札にはしっかりと『希望が丘』と記されていた。

 もしかして、ここは——

「その顔は思い出したかな?」


「うん。ここは葵と初めて出会った場所だ・・・・・・・・・・・・


 ここは希望が丘と呼ばれ、一年を通して桜が咲いている不思議な桜の大樹が一本だけ植えてある、不思議な場所だ。

 街を一望できる程度の高さはあるのに、街から見てもこの丘は見当たらない。

 それと、ここで告白などをした者は必ずと言って良いほどの確率で許可がおりるというパワースポットにもなっている。

 ……本当に、不思議な場所だ。

「そのとおり。ここへの道は、もともと葉涙はるのお父さんが教えてくれた隠れ道。葉涙のお父さんが葉涙のお母さんにプロポーズした場所でもあるんだって」

「へぇー。親父もまあまあコアなことやるんだな」

「だから、わたしも葉涙くんに——」

 そう言って彼女はいきなり抱きついてきた。

「葵!?」

「わたしはまだ17歳だし結婚はできなくても、言葉にして返事をもらうだけ・・・・・・・・・・・・・なら、いいよね?」

 さりげない爆弾を投げる葵さん。

「!? それって——」

「うん。わたしは葉涙くんにプロポーズしたいと思う」

「……本当に突然なんだよ」

「……だめ、かな」

「うっ……」

 そんな潤んだ眼をこちらに向けてくると、男としての理性が……。

「い、いいのかよ。男なんてみんなオオカミだぞ?」

「うん、それでも」

「何かあってからじゃ遅いぞ?」

「むしろかかってこい」

「……本気なんだな」

「もち」

 そう言って、彼女は俺に抱きついたまま、こちらをじっと見つめる。

「……はぁ。わかったから。とりあえず一旦離れて」

 むぅ、と言いながら頬を膨らませる葵。

「で、葵さんの言いたいことは俺へのプロポーズってことで合ってる?」

「間違いない」

「……はぁ。なんで葵ってたまにこんだけ突発的になることがあるんだろうな」

「知らない。私も気がついたらそんなことを口走っている」

 自分でもわかっていないのだから、どうしようもない。

 ちなみに、葵の両親とは故縁こえんであり、昔からお世話になっている。

 だからなのか、葵と結びつくことに大賛成だし、むしろそうなってほしいと願うぐらいには親バカだったりする。

「回答は」

「う〜〜ん……」

「……煮え切らないやつ」

「今なんて?」

「さっさとOKしてわたしとすきなだけちゅっちゅすればいいと思うって言った」

「なんて事を言うんだ」

 女子のする発言ではないと思う。

「じゃあ、こうしよう」

 そういうと、葵は人差し指を突き立てた。

 そしてその指を唇に当てた。

「また、いずれここに戻ってくる日には、返事を聞かせてね」

「おう」

 そうやって、しばらく先の約束を交わした。

 そして、いきなり唇を奪われた・・・・・・・・・・

 たった一秒にも満たない一瞬の出来事だったが、俺には驚愕が隠せなかった。

「!?!?」

「こうやっておけば、わたしを優先的に考え・・・・・・・・・・るでしょ・・・・?」

「…………」

 なんて作為的な……。

 でも、そうなのかもしれない。

「……まあ、返事はできるだけ早くにするよ」

「うんっ」

 そして、その後しばらく街で遊んでいたら、すでに時刻は18時を超えていた。

 家が近くなった頃にはすっかりカラスがなるような夕焼けと共に、川の河川敷を歩いていた。

 すると、葵が口を開く。

「葉涙はさ、昔のことはどれだけ覚えてるの?」

「昔のこと?」

「うん。幼少期とか、その辺り」

「うーーーん……。正直、まったく。覚えてない、というより思い出したくない・・・・・・・・、の方が近いかな」

「やっぱ、そうだよね」

「うん」

「じゃあ、それを今からの記憶でかけ消せる・・・・・・・・・・・・・・・なら、かき消したい?」

「…………」

 こいつ、聞き方がずるい。

 本当に今俺が・・・・・・そうしてほしい・・・・・・・ことを、見透かしている。

「……無言ってことは、してほしいんだね」

「……なにも隠せないな」

「当たり前。何十年と幼馴染してると思ってるの」

「それもそうか」

 なんだか、謎の安堵を持ちながら、「じゃあ」と話を切り出す。

「そしたら、俺はどうすればいい?」

「そしたら、葉涙がすべきことはただ一つ」「?」

 そう言って、葵は向こうの肉眼では見えないような先の方向を指差した。

北東あっち方向に向かうんだよ」

「北東……」

 風水的な意味で、北東は鬼門と呼ばれ、不吉な方角とされている。

 鬼門の方角に進むと怨霊に憑かれやすいなんて噂がある。

 なので、都などでは鬼門よけとして北西に寺などが建てられる風習がある。

「でも北東って鬼門だろ? なんかあるのか?」

 葵は「わかってないな〜」とばかりに指を振った。

「鬼門へ自分から進むんだよ、それで数十キロ先に『伝説の廃墟』が存在するらしい。

元々、呪われた人が魔除けのために参拝することと言われていた今は廃墟となった神社があるらしいんだよね」

「そこで魔除けをしてもらうとか?」

「まあ、人がいたらそれが早いかもね。でも、もし人がいなかったら・・・・・・・・・・、どうする?」

「……自分で除霊しないといけないわけか」

「まあ、簡単に言えばそう言うこと。わたしも着いていくよ」

「葵まで自ずと怨霊に憑かれる必要はなくないか?」

「ううん、必要あるよ。でも今はこの意味は葉涙にはわからないかもしれない」

「???????」

 完全に脳内は「?」でいっぱいだ。

「……でも、行ってみないことにはなにも改善しないか」

「そうだね。とりあえず明日は葉涙も私も暇してるから、明日行こうか」

「おう」

「じゃあ、今日は解散としますか」

「また明日な」

「うん」

 そしてら俺らは家に帰った。

「これなら及第点ってところかな……」

 それぞれが玄関に入る瞬間、ボソッと何かが聞こえた気がしたが、気にしないようにした。

 家に帰って、ベッドに座った瞬間、葵からLINEが来た。

『明日の十時に向かうよ、一応、おまもりは持っていくけど、万が一に備えてね』

『おう。葵も気をつけろよ?』

『どこかのアホと違って私は大丈夫だよ』

「どこかのアホって……」

 最大限にまでバカにされているが、堪えるんだ……。

『まぁいいや、今日はもう寝ちゃお』

『そうしようか』

 そしてそのまま就寝。

 次の日に目の当たりにしたのは——

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る