Ⅱ チェシャネコの独占欲

 本日のティータイムと白うさぎを存分に堪能したハートの女王は、一度城内の北南にある書庫へ行き数冊の本を巨大な本棚達から選び出して自分の私室へと戻って来ていた。

 この私室もかなり広く、それに合わせたように広々とした天蓋付きのベッド。天井からは虹色のカーテンが下がっている。


「やあ、リデル遊びに来たよ」


 本を読んでいたハートの女王に突然話し掛けられた声。

 本から視線を外して声のした方に視線を向けると、顔だけ宙に浮いているシマシマの猫の姿が目に入る。彼は自由自在に姿を消して現れ、いつもニヤニヤ笑っているチェシャネコである。


「どうしたの?チェシャ。いつも夜に来るのに…」


 チェシャネコの顔だけの登場にはもう慣れたハートの女王は、本にしおりを挟んでから閉じるとその辺に適当に置いた。


「驚かないのか…次は違う登場のしかたにしよう」


 驚いてくれないハートの女王に不満そうな顔を向け、チェシャネコは言った。

 そんな彼に迷惑そうな顔をするのはハートの女王だ。チェシャネコの登場のしかたには何度も何度も驚かされている。いきなり現れて声を掛けて来て、とても心臓に悪いのだ。


「お願いだから普通に来て?」


「君の言う“普通”とは何だい?僕にとってはこれがだよ」


 ずーっとニヤニヤ笑っているチェシャネコ…ハートの女王はどう答えるべきか考えていた。どうしたら、この笑うばかりのチェシャネコは自分の気持ちを理解してくれるだろうか?

 するとチェシャネコは顔から下の体も現して、すとんッとハートの女王の膝の上へと丸まった。


「まあ、いいじゃないか。僕はリデルの驚く顔と膝の上ここが好きなんだから…」


 そう言いながら前足で眠たそうに顔をこすり、普通の猫のようにニャーと鳴いてみせたチェシャネコ…ハートの女王は考える事を止めて、そんなチェシャネコの頭を撫でた。


「さっきはハクヤを撫でてたんだよ?」


「君は、何度言ったら分かるんだい?」


 頭を撫でられて目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らしていたはずの、膝の上のチェシャネコからの鋭い視線。


 ーーー僕が君を独占している時に、他の男の話なんてしないでよ


 また何だかこのチェシャネコは機嫌が悪い。

 機嫌を取れと言う様なチェシャネコの視線を受けて、ハートの女王はさらに彼のふわふわの毛並みを撫でていた。

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