第19話 朱恩川迷宮 其の四 ボス部屋
二百から三百ほどの融溶の軍勢を一匹残らず駆逐した三人は、迷宮をさらに進んで大きく開けた場所に出た。
壁には大きな扉がある。
明日香「さて、ここがここの迷宮のボスがいる部屋。ここのボスは、対人戦にうってつけだから、そいつに全力をぶつけて貰って実力を測る。一体しか出てこないから、私は手を出さないよ」
弥園「了解です」
源「一体だけなら楽だな。今までのように融溶が群れになってこられると大変だからな」
明日香「じゃあ、早速入ろうか。融溶が来られると困るからね」
明日香は扉の右側へと歩いていくと、そこにある赤いボタンをポチっと押す。
すると、扉はガガガという音と地響きを轟かせてゆっくりと開いた。
明日香「気を引き締めて」
弥園「はい」
源「もちろん」
明日香は振り返って二人に言う。二振りの短剣に手をかけた弥園と、薙刀を持った源は目を光らせ、闘気にあふれている。
三人は中へと足を進めていく。
枢機は三人を眺めている。
枢機「……計画は中止。俺の合図まで待て」
壁まで近づき、前を歩く三人に聞こえないよう呟くと、彼女たちについていった。
ガタン。
明日香「扉が閉まった。出てくるよ」
扉が音を立てて閉まったのを確認して、扉付近で待機する明日香が二人へ言う。
弥園「準備は良い?」
源「オッケーだ!」
部屋の中央にいる二人は、武器に手をかけて現れるだろう敵を待ち構える。
枢機「……」
枢機は明日香の隣で黙ってみている。
≪さあボス戦だ≫
≪二人なら大丈夫じゃないか?≫
≪一対二だろ?一人でも力が拮抗しているなら、尚更楽勝でしょ≫
≪油断禁物。ここのボスは簡単には倒せない≫
明日香(朱恩川には迷宮が二つある。一つはここ。もう一つは首都橙枳近くにある朱恩川先駆迷宮。あっちが朱恩川区内で一番最初に発見されたことと、ここが不人気なこともあって、こっちに来る人が極めて少ないから知られていないけど……)
扉の正面に対する壁が、左右にゆっくりと開く。
開いたところから、青白い光と白い煙とが出てくる。
弥園「……?」
源「まだか?」
両手をかざして即座に魔法を発動できるようにしていた弥園と、その右前方で薙刀を構えた源だったが、ボスが一向に現れないことに疑念を抱く。
源「もうとっくに出てくるはずじゃ……っ!?」
明日香「展壁!」
突然、源が右に身体を大きく動かせる。それと同時に明日香は展壁を発動させた。
「……」
その瞬間、明日香の前で人が現れたかと思えば、たちまち姿を消す。
消したかと思えば、白い煙が出ている壁付近に姿を現した。
源「あっぶね~……。嫌な予感がしたから回避したけど、正解だったみたいだな」
弥園「先生……あれが、ボスですか?」
二人は、壁付近で佇む人を見る。
黒い忍び装束を身に纏い、刀を右手に持った人。
視界確保のために目は覆われていないが、それ以外の部分は装束で覆われている。
明日香「そう、今回のボスは『忍び』。脅威になるのは、融溶とは桁違いの素早さ。そして……」
忍びは、再び姿を消した。
弥園「っ!斬糸!……ぐっ!」
それと同時に弥園は斬糸を発動させるが、右の脇腹から血が流れる。
忍びは弥園の後ろで現れると、再び白い煙が出る壁で現れる。
源「凛香!」
弥園「大丈夫。掠っただけ」
≪速え……見えねえぞ≫
≪常人では視認できない速さを持つのが忍び。そして、あいつが持つ刀。この組み合わせがやばい≫
明日香「『刀』は西洋の『剣』と違う。『剣』は力で叩き切る、どちらかと言うと打撃に近いものだけど、『刀』は技術で切る。だから、力の衰えた老人でも、技術を持っていれば刀を使いこなすことは可能。そこに速度が加われば、一瞬で首を断ち切られる恐れがある」
弥園「……なるほど。これは……」
源「かなりきついな……。倒す方法を考える必要がある。隙があるように見えるか?」
弥園「全く。あの速度を鑑みるに、私の斬糸は当たり難いだろうからね」
源「……」
≪どうやって倒すんだ?あいつ≫
≪正面から行くのは怖いぞ≫
源(忍びは、あそこで立ったままか)
白い煙は少しずつ、少しずつだが、部屋の中へとあふれ出す。
弥園(このままだと、煙で部屋は満たされて忍びを視認しにくくなる。さっきみたいに、煙の中から突然来られたら対処が困難)
源(ああやって煙が出ている辺りで待機してるのは、こっちが攻勢に回った時に煙で逃げるためだろうな。息切れしていないところから、持久力もありそうだな)
源「予備動作は?」
弥園「ぎり見えた」
源「よ~し」
源は嘆息も混じった声を出す。
源(流石、あたいの親友。予備動作が見えれば、何時来るか分かる。あたいも凛香も、多分防御や回避に問題ないな)
弥園(課題は攻撃。耐えるだけじゃ、何れ斬られるかも。煙が充満する前に片付ける!)
源(となれば……)
源は薙刀を忍びに向けて構えると、弥園の方を見る。
源「策は立てた。攻撃に行く」
弥園「私も。私の持久力は、知ってるよね?」
弥園は笑みを浮かべながら、源に視線を向ける。
彼女の言葉に源は目を見開く。
源「さっすが!」
≪もう策を立てたのか!はや!≫
≪十数秒で思いついたのか。スゲー≫
「……」
忍びは弥園と源の後ろにいる、明日香と枢機に目を向けると、再び弥園と源を注視し始めた。
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