第18話 朱恩川迷宮 其の三 やられっぱなし



「あああ……」



「しゅ~……しゅ~……」



「や~~……」



明日香「展壁!」



紫色の半透明な壁が出現し、融溶たちは壁に阻まれてその歩みを止められる。

壁を破壊しようと殴る融溶もいるが、後ろには別の融溶がいる。

勢いをつけることができないため、打撃にすらならない。

できることは、爪でひっかくことくらいだ。



明日香「やっぱり。ここまで固まると、タックルも打撃も意味をなさない。もう少ししたら解除するよ」



弥園「はい!」



壁に近い融溶たちは、別の融溶に後ろから押されて潰れるように張り付いていく。



明日香「まだ……」



弥園「……」



「あああ……」



「うら……」



少しづつ、だが着実に融溶は押しつぶされていく。



明日香「まだまだ……」



押しつぶされている融溶の体はゆっくりと平らになっていく。



明日香「まだ……」



弥園「……す~……」



展壁で作り出された壁の他に、融溶による壁が出来上がろうとした時。



明日香「今!」



明日香が声を上げ、屈むと同時に壁が消える。



弥園「斬糸!」



合図に合わせて弥園が斬糸を発動。

明日香に当たらないように地面から数十センチは避けて、糸が網目状に放出される。



「ああ……あ……」



斬糸を最高硬度まで高め、最高速度で打ち出したことにより、サイコロステーキのように細切れになっていく融溶。

地面には唾液の他に、血液や体の一部が溜まっていく。



「ああああああ……!」



「はああああ……!」



だが、それで全ての融溶が倒せたわけではない。

幾つもの融溶によって威力が殺され、二十体ほどは屠って数体は腕を飛ばすことができたものの、未だ数十体は元気いっぱい。

壁が消えたことで好機だと思ったのだろう。奥にいた融溶は四つん這いとなって全速力で駆けてくる。



「あああ!」



大声を出しながら、明日香に襲い掛かろうとする融溶だが……



源「行かせねえよ!」



弥園の後ろにいた源が蹴りを繰り出して、融溶を蹴とばす。

蹴られた融溶は天井と地面を何度もバウンドし、複数の融溶を巻き込みながら洞窟奥へ消えていく。



明日香「展壁!」



即座に明日香が展壁を発動する。

融溶は高速で向かってくるが、どの融溶も展壁にドン!とぶつかる。



源「さっすが先生!ビクともしねえ!」



明日香「虎狼相手でも通用するからね。融溶なら尚更」



再び融溶が固まりだしたのを見て、弥園と源は準備をする。



明日香「融溶は知能が無いに等しい。同じ手でも使える。この調子で数を減らしていくよ!」



源「さっさとやらねえと、奥から次々に現れるからな。数回はやんないと!」



弥園「ここまで派手に音出してますから、相当数はやってきますよ」




≪これを繰り返せばいけるか?≫


≪問題は、体力が尽きないかどうか……≫


≪正面からだけならいいけど……≫




融溶が再び数十体の塊になったのを確認すると



明日香「今!」



明日香は展壁を解除して屈む。

そこに弥園の斬糸が発動し、融溶を細切れにしていく。

腕や胴、頭が切り刻まれ、斬撃を受けた箇所から血液を流しながら絶命していく。

そこに、同じように血だまりと死体の山が築かれる。



源「よっ!おら!」



明日香に襲い掛かろうとした二体の融溶を、片方を蹴とばし、もう片方を薙刀で一太刀のもとに切り伏せる。



一行は来た道を戻り、



明日香「展壁」



明日香が壁をつくり、融溶を足止め。

慎重に、安全に数を減らすことに専念する。



弥園「これで、四十体は削ったかな?」



源「恐らくな。けど、奥からバンバン来てやがる。二百……いや、三百はいると踏んだ方が良いな」




≪えぐいな。三百は倒さなきゃいけないんか≫


≪この迷宮は他の迷宮と比べて狭いからな。融溶が群れてやすい≫


≪大きな音を出そうものなら、それに釣られて数体、数十体が一斉に来るから≫


≪けど、何でこんな急に増えたんだ?さっきまでは数体、多くても三十くらいだったのに≫




明日香「ここまで増えているとなると……。地図」



明日香の前まで小型ドローンがやって来ると、ホログラムで映されるものが変わる。

複数に枝分かれした、根っこのようなものが映写されており、赤い点と、それに入り口とボス部屋の文字が付随している。



明日香「やっぱり。もう少しでボス部屋だから、こんなことになってる」



枢機「……」



枢機は頭をゆっくりと振り返らせ、後ろを見るとすぐに戻して明日香たちを見る。



源「あ~、そういうこと!」



弥園「護衛役ってわけですか?」



明日香「そう。どの迷宮でも、ボス前はモンスターが固まってる。融溶がこんな数いるのは、ボスを守るためだろうね」



源「それなら、ここを突破すればボスとご対面ってわけですか!」



弥園「てことは、ここで一網打尽にした方が、ボス前で戦闘する必要がなくなりますね」



明日香「今のところ順調だから、この調子で……」



その時、彼女たちの後ろで、ううう~!という大きな呻き声とドドド!という地響きのような音が聞こえてくる。



明日香「っ!これは……」



源「なんだ……?」



弥園「……あ!融溶!」



彼女たちが来た方向から、十体ほどの融溶が疾駆してくる。



弥園「まだ生き残りがいた!音に引き寄せられてここまで……!」



源「ちっ!先生!展壁は!」



明日香「大丈夫!問題ないから、後ろを片付けて!」



明日香の正面には、壁に阻まれる融溶が塊となっている。

何とかこじ開けようとするも、硬すぎて不可能なようだ。



後ろを振り返り、弥園は斬糸の準備を、源は薙刀を構える。



源(やっぱ頼もしいや。背中は先生に任せるか。……けど)



弥園(さっさと片付けたいところ。だけど……)



道の真ん中には、枢機が腕を組んで仁王立ちしている。



弥園(枢機邪魔!巻き込んじゃう!)



源(奴らは、もうそこまで来てるから前に出れない!あの数に縦深を確保できないのは、少し怖いな……)



全速力で駆けてくる融溶の群れ。



源(……ん?)



前を四足歩行で駆ける数体の融溶の上に、跳躍した融溶が現れる。



弥園(何であそこで跳んで……?)



二人とその融溶との間には距離がある。

跳躍した融溶はダブルスレッジハンマーの構えを見せる。



源「えっ」



源(ダブルスレッジハンマー?どうしてそこで……)



融溶が拳を振り下ろすであろう場所を見ると、



弥園「あ」



源「あ」



枢機「……バカが」



枢機の頭部を破壊せんと、拳のハンマーを勢いよく振り下ろす融溶だが、それが当たる前に突然みじん切りにされる。



その他の融溶も枢機に襲い掛かろうとするが、唐突に体が燃え出し、真っ青な炎によって瞬く間に灰へと変わる。




源(一瞬で十体の融溶が……。それに青い炎。まじでやべえな。でも、それより……)



弥園(融溶、アホすぎる……!)



明日香「二人とも!大丈夫!?」



正面を向いたまま聞く明日香。

構えを解いた二人は静かに振り返り、



源「道の真ん中に枢機」



弥園「そこに直進で突撃」



明日香「……あ。……後ろは気にしないで良いか」



三人は、正面の融溶の軍を滅することに専念することにした。




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