第16話 朱恩川迷宮 其の一 配信とは

明日香「迷宮内にはモンスターが溢れており、気を抜けば後ろにモンスターが……、ということも珍しくありません」



源「おらっ!」



弥園「斬糸!」



洞窟内を歩いていく一行。

その最中、洞窟の奥からモンスターがたびたび現れる。



源「気色悪!なんだこいつら!」



弥園「今までのとはレベルが違いますね」



顔や形状は人間のそれ。

だが、足は狼。腕はゴリラ。胴体はダンゴムシの外殻で覆われ、表皮には黒い体毛が生えている。

まだ人だと断定できる顔も、白目をむき、涎を途切れることなく垂らし続けている様は、理性を完全に失っていることを表している。



その状態で四足歩行しながらこちらに向かってくる。

クトゥルフ神話TRPGであれば、会った瞬間にSUN値が削れるだろう。



明日香「融溶。迷宮内のモンスターは、キメラと思える種類のものがあります。融溶はその代表例。外見で分かるように、人、狼、ゴリラ、ダンゴムシの四種類の生物のキメラです。ある程度の速度は出せ、剛力を持ち、耐久力もある」



「がっ……しゅっ……」



「あああ……」



「はああ……」



呻き声のようなものを上げるものや、ただ息が漏れて声にならないもの。



源「ぬい~!多くないか!?」



少々短い薙刀を振り回す源。

足を斬って動きを止めたところに、持ち手を変えて返す刀で首を切断。

絶命した融溶の後ろから別の融溶が源に襲い掛かるも、蹴り飛ばして回避。



弥園「斬糸!……もう三十体は倒したんじゃ……」



疾走する融溶に魔法を発動する弥園。

高速で飛んでくる糸を避けられず、正面から攻撃を受けた融溶は、その首と胴体が離れ離れに。

糸は軌道そのままに飛翔し、奥にいた融溶も倒す。



斬られた部分から緑色の液体を周囲にばら撒き、絶命していった融溶の死体と体液で洞窟内は埋められていく。




≪気持ち悪……≫


≪きっしょ。なんでこんなのが居んだよ≫


≪相変わらず融溶は気色悪いな~≫


≪どうやって生まれたんだよ、こんな奴≫




明日香「見た目もさることながら、そこそこの実力がある融溶は不人気ですから。長らく潜索者が入っていなかったのでしょう。その数を減らす契機が無かったのでしょう」



明日香は隣を浮遊するドローンに視線を向けながら話す。



迷宮に入ってから二十分は経過しているが、その間に合計で三十から四十の融溶と遭遇して、その度に戦闘状態に突入している。

入り組んだ洞窟であるが故に、曲がり角で融溶と接触することが多々あり、戦闘音に引き寄せられて別の融溶がやってきて、その融溶との戦闘音で……というように、戦いは繰り返される。



明日香「モンスターの発生速度はそこまで速くはないので、この調子でいけば何れは……」



枢機「おい」



明日香「っ!」



突然、枢機が明日香に話しかけた。



枢機「先ほどからドローンに話しかけているが、何の真似だ?頭がおかしくなったのか?」



明日香「んんん……」



眉間に皺を寄せて溜息じみた声を漏らす。



明日香「リスナーに話しているんですよ。配信を通して」



枢機「配信?」



明日香はドローンを自分の前へと誘導する。



明日香「このドローンは電波を通して潜索者協会に映像を届けています。その映像はリアルタイムで流すことで、迷宮にいる潜索者に異常事態が発生した場合に迅速な対応を可能にしている訳です」



枢機「……で、あるか。だが、そのリスナーという奴は協会の人間であろう?迷宮の説明をする必要はあるのか?」



明日香「リスナーは一般人で、協会とは無関係です」



枢機「……どういうことだ?」



眉をひそめ、明日香の言葉に疑問を呈する。



明日香「協会に送られた映像は、潜索者が望めば一般公開されます。この一般公開するスタイルが配信で、それを見る人がリスナーです。私もそうですし、弥園さんや源さんも配信をしています」



明日香は融溶と戦っている二人を見る。

彼女たちの後方を、二台の小型ドローンが浮遊している。



明日香「配信ではコメントを打つことが出来るので、潜索者と一般人とがコメントを通してコミュニケーションをとることができます。ホログラムに流れている文章がそうですね」



枢機「……」



明日香「人によっては、迷宮の攻略ではなくて配信を中心にしている人も」



枢機「もうよい」



枢機は明日香の言葉を遮ると、戦闘が終わって休憩している弥園と源を見つめる。



枢機「興味がない。下らぬ」



明日香(……聞いたのはそっちでしょうが……)



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