第13話 試練 初日



源「よっと」



戦闘態勢を整えた三人は、枢機の様子を見ながらじりじりと近づき、最初に源が動く。



翼を使って空へと飛翔したすぐ後に弥園と明日香が動く。



弥園「斬糸!」



明日香「はぁ!」



弥園は枢機の真正面から糸を飛ばし、それの巻き添えにならないように明日香は枢機の右側に回り込んで木刀で斬りかかる。



枢機「……はぁ……」



それを見て枢機は溜め息を吐く。



弥園「なに!?」



明日香「くぅ……!」



ガンっ!という音と共に、弥園と明日香の攻撃は見えない壁のようなものに阻まれ、はじき返される。

明日香は即座に正面から斬りかかるが同じくはじき返され、弥園は裏に回って斬糸を発動するも、再び阻まれる。



枢機「言ったはずだ。魔素を視認できる者とそうでない者の実力には隔絶した差があると」



枢機がそう言うと同時に、紫色の半透明な壁が現れる。その壁は枢機の周りを囲むように複数枚展開されている。



明日香「展壁!?」



弥園「複数の壁を出せるの……」



驚いている二人に枢機は落胆するような表情をする。



枢機「俺は一歩も動かないんだぞ?体に一撃入れるなど簡単すぎるだろう」



弥園「……じゃあどうすれば……」



到底無理なのではないか、という疑問符が付く二人。



枢機「安心しろ。抜け穴はある」



枢機は自分の頭上を指さす。



明日香「あ!」



弥園「そういうこと……」



枢機の頭上には壁は無かった。



源「おりゃあ!」



空中を飛んでいた源はそれを見ると同時に殴りかかる。



枢機「相手の出方を窺い、弱点を見つければ攻撃する、という行動はよろしい。だが……」



源「くそっ!」



源の拳は枢機の体には当たらず、何かに当たってガンっ!という音を生み出すだけだった。

源は即座に翼で飛翔して空中を飛び回り、枢機の観察を始める。



枢機「俺が馬鹿正直に抜け穴を晒すと思ったか?」



弥園「っ!……わかった。そういうこと!」



明日香「ああ、はいはい。性が悪い!」



源「めんどくせぇ……」



枢機の頭上には壁が展開されていた。だが、枢機の正面の壁はいつの間にか無くなっていた。

枢機がフィンガースナップをすると、全ての壁は見えなくなる。



明日香(どこかのタイミングで展壁の発動と解除が行われて、一か所だけ壁が無い場所が生まれる)



弥園(だけど、どこが弱点かはパッと見てわからない。彼の発言から考えて、弱点を見破る方法は……)



源(魔素の動きを見るってところか……。魔素がどのように動いているかを見て、弱点となる箇所を断定、そこから奴の体に攻撃を当てる。けど……)



源「それが、いっちゃん難しいんだよ!」



飛翔した状態から一直線に枢機に向かって蹴りを繰り出した源。

彼女に合わせて二人も攻撃を再開する。



源(魔素の動きを見るには、魔素を動かさせるのが一番良い)



弥園(こちらから攻撃を仕掛けて、運でも良いから弱点方向に攻撃を加えようとすれば、彼は別の場所に弱点を作る。だけど、現状ではその弱点はわからない。なら……)



源は蹴りを繰り出し、壁に当たると即時に距離を取って違う方向から殴りかかる。それも阻まれると再び距離をとってまた違う方向から拳をぶつける。

弥園は斬糸を発動して糸を飛ばす。壁に阻まれれば、走って別方向から糸をけしかける。時には跳躍して斜め方向からも糸を飛ばす。勿論壁にぶつかるが。



明日香(ひたすら攻撃して、彼に魔法を発動させる!)



二人に合わせて、明日香も木刀で斬りかかる。それだけでなく、時には殴りや蹴りも取り入れ、さらには地面の土を手で少し握って枢機にぶつける。



枢機「……さて、どれだけかかるか……」



彼女らの戦いを、宙に浮いて胡坐をかきながら見ている枢機は、自分の手に球体の魔素の塊を作り出すと、それを自分の周囲にある壁にぶつけて遊んでいる。



源(……むかつくな!)



相手にすらされていないのは今までの枢機の言動を考えれば明らか。だが、試練を与えておきながら遊ぶのは、はっきりいって挑発とさして変わらない。



彼女たちは、攻撃の手をさらに強め、スピードと威力を上げる。

だがそれでも、まぐれで弱点を突くことも無ければ、壁を破壊できる様子もない。



弥園「硬すぎない!?あと魔法の発動速度どうなってんの!?」



源「先生!展壁って、これくらいできるもんなんですか!?」



一秒間に何度も攻撃を、しかも複数方向に与えているにも関わらず、壁を破壊出来ないどころか、攻撃は必ず壁に阻まれる。

壁の強度は固より、恐らく壁のない場所は短時間で移動させていると考えるに、魔法の発動速度は正に疾風。



明日香「無理!硬いとはいえ、ここまで硬くはない!それに、速度もおかしい!」



明日香(ほんと、どうなってんの!?指定も詠唱もないのもおかしい。強度も、速度も!規格外でしょ!?)







約数時間、彼女たちの猛攻は続いたが、さすがに体力の限界が来たのか、次第に攻撃の威力や鋭さ、攻撃、移動速度も落ちてきた。今やハァハァと大きく呼吸して、腕や足を動かす気力も無しに、腕はだらんと、足は震えている。



枢機「持久力はあるな」



枢機は三人の様子を、地面に座って果物を食べながら見ている。色合いや匂いからして梨と思われる。



弥園「ハァ……ハァ……嬉しくない、誉め言葉……」



源「ハァ……まじか~……」



明日香「これだけやって、一発も当てられないなんて……」



枢機「当たり前だ。素質があると言えど、魔素の視認は茨の道。一朝一夕で成せる業ではない。この調子なら、数カ月はかかるな」



源「数か月って……凹むな、おい」



弥園「……数か月、ですか……」



明日香(なんでこんなことに巻き込まれてんの……?)



枢機「……」



長く、険しい道のり。初日ではあるものの、手がかりすら掴むこともできなかったことで意気消沈した様子の三人。一人は、何故……?というような表情をしているが。



枢機は彼女らを、不思議そうに見ていた。

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