第4話 潜索者協会
日本紫雲国 首都
「せんぱ~い。暇で~す。面白いこと言って~」
「うるさい仕事中。しっかり配信を見ろ」
「見てますよ~。その上で言ってるんです」
潜索者協会本部のビル内部。
オフィス内には多数のデスクが置かれている。各デスクは仕切られており、仕切りの壁にはモニターが設置されている。各個人に与えられたデスクで、モニターの映像を見ている。
が、先の一人の女性は退屈しているのか、隣にいる人に話しかけている。
話しかけられた男性は鬱陶しそうに注意する。
「いいじゃないですか~。真面目過ぎるのは、つまらないですよ」
「はあ~。優秀なのは確かなんだが……」
男性は頭に手を当てる。頭痛がしたのだろうか。
……ある意味ではそうか。
「お前の担当は、南野明日香同志だろ。登録から一か月で四級に昇格し、今や地から空になろうとしてる。今日は昇格試練だろうが。優秀だから、期待の新星を任されたんだろ」
「そうです!優秀な後輩のために……」
男性は女性に話しかける。というより、諭すようなものか。
女性は変わらず話す……と思いきや
「ん?どうした?」
女性はモニターを見ながら黙っている。いや、動きが止まっている。
彼女の瞳は大きく揺れている。
しかし――
「蘭宿迷宮で異常事態発生!南野同志に危険切迫!即刻応援を!」
机をバン!と叩いて立ち上がると、大きな声で叫ぶ。
その声はオフィス内に響き渡る。
彼女の声を聴いた室内の人は立ち止まり、周囲に緊張が走る。
大きな机に座っていた中年の男性は、女性の声に反応して声を出す。
「蘭宿迷宮に応援を送る準備を!吉川!何が起こった!」
「虎狼討伐後、ボス部屋の照明が消滅!部屋は真っ暗です!……な!?」
吉川は報告するが、次の瞬間には驚きの声を上げる。
「照明が!?」
「前例が無いぞ!」
「吉川!まだ何かあるのか!?」
周囲の人は、吉川の報告に驚愕する。
吉川の隣の男性は、吉川が再び驚きの声を上げたのを見て続きを促す。
「照明は復活……同時に……ボス部屋に、男性がいます……」
明日香(正体もわからない、目的もわからない。枢機とやら、一体何者?)
迷宮から帰還した明日香は枢機を連れて、というより勝手についてきているのだが、二人で潜索者協会に向かっていた。
明日香が潜っていた迷宮は橙枳の蘭宿にあるため、星ヶ原にある潜索者協会本部まで向かっているのだが……
「あいつ、明日香ちゃんの配信にいた……」
「まじで明日香ちゃんについてきてやがる」
「めっちゃイケメンがいる!」
「まじ!?どこ!?」
「あそこ!あそこ!」
明日香(目立つ……)
南野明日香は期待の新星。日本中で注目を浴びている潜索者である。
そして、先ほどの配信での出来事。
目立つのは当たり前である。
枢機「……」
明日香(何キョロキョロしてんの……?)
枢機は明日香の少し後ろを歩きながら、橙枳の街中やそこを歩く人をキョロキョロしながら見ている。
明日香(考えても仕方ないか……。ん?)
交差点で止まった時、明日香のスマホから着信音が鳴る。
明日香「はい。南野明日香です。……はい。そうですが。……はい。……わかりました」
枢機「……」
枢機はスマホで話す明日香を黙ってみている。
明日香「……はあ」
枢機「おい小娘」
明日香「っ!」
溜め息を吐いた明日香に、枢機は話しかける。バリトンの低い声なのは変わらない。
枢機「今どこに向かってる」
明日香「……潜索者協会の本部。迷宮から帰還したら、協会に向かうのが普通です」
枢機「そうか」
刺激しないように、なるべく丁寧な口調で話しながら質問に答える。
明日香(本当に連れて行っても大丈夫なの?……吉川さんの言う通りにするしかないか)
二人は周囲の人の視線に晒されながら協会本部に向かう。
明日香(……いつもより圧倒的に視線がウザい……。話しかけて来るやつがいないのが救い……ね)
枢機「……」
明日香は、不愉快そうな表情を浮かべている。
明日香は潜索者協会の本部に到着すると、その扉を開けて中に入る。
一階は受付になっているようで、扉を開けた正面には広い空間が広がり、何人もの女性や男性がカウンターに立ち、その人の前には人が立っている。
何か話しているところを見るに、受付をしているのだろう。
左右には長い廊下があり、廊下の壁には幾つもの扉がついている。
その廊下の一番奥にはエレベーターが設置されている。
入り口の左右には大量の椅子が並べてあり、そこにはまた多くの人が座っている。
受付を済ませた人がビル内から出ていくと、名前を呼ばれた人がそこへと歩いていく。
だが、その何人もいる受付の中に、誰も並んでいない受付が三人並んでいる。
明日香は三人のうちの一人、真ん中の女性に歩んでいく。
明日香「南野明日香です。迷宮から帰還したので、戦利品の鑑定と買取をお願いします」
そう言うと、大型ドローンに吊るしている袋から迷宮内で手に入れたものを出す。
「は、はい!」
女性は明日香の後ろにいる枢機をチラチラと見ながら、明日香から戦利品を受け取る。
「あ、あの~」
それと同時に、その女性は不安そうに明日香に話しかける。
明日香「何でしょう?」
「潜索者協会の会長が、お呼びです。お連れの方も連れてくるようにと」
明日香「っ!……わかりました。すぐに行きます。会長は会長室に?」
「はい」
女性の言葉に目を見開く明日香。言われた通り、ビルの最上階にある会長室に向かおうと、入り口から見て右側の廊下に歩き出していく。
枢機「会長とやらは礼儀を知らんと見える」
が、ここで枢機が口を開く。バリトンの低い声なのは相変わらずだが、道中より心なしか低くなっているように聞こえる。
加えて、その釣り目を僅かに細めている。
枢機「用があるなら自分で来れば良い。それがまさかの”来い”とは」
枢機は、非難していると言わんばかりの溜め息を吐く。
枢機「まあ、所詮は矮小な人間。その程度の者であっても仕方あるまい。ははは!」
明日香「……」
明日香(絶対面倒なことになる……来ないでほしいけど……)
明日香は自らの顔を触る。そこには、虎狼との戦いで傷を受けた場所だ。
明日香(あの時、彼がいなければ下手したら死んでいたかもしれない。それに、あれだけの治癒魔法の使い手は希少。こちらに引き入れることができれば、世界で十人目の治癒師が生まれる!)
明日香は枢機を見る。不愉快そうな表情をする枢機。
明日香(……引き入れれば……。……無理そうだな~)
枢機の今までの言動を思い出し、茨の道を行くことになるだろうと明日香は思うのだった。
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