第2話 邂逅
とある少女が、どこにあるかもわからない光源で照らされた洞窟内を歩いている。
ゴツゴツとした岩が洞窟の壁を構成しているが、床は比較的平らである。。
左腰には剣を提げ、長い黒髪を後ろで一つに纏めあげている。容姿は美少女と言っても遜色はない程に整っている。
長いズボンに長袖の服を着ているところを見ると、素肌をあまり見せないようにしているようだ。
だが、彼女の顔には赤い液体がついていた。恐らくは血であろう。それに、ところどころ絆創膏のようなものが貼られている。
全身を良く見ると、彼女の着る服にも血のようなシミがあるのもわかる。
彼女の後ろには、何か機械のようなものが二つ飛んでいる。ドローンであろうか。
一つは大型で、機械に大きな袋が吊るされている。
もう一つの比較的小型な機械の上には、空中ながらも文章が浮かび、それは次々と下から上へと流れていく。ホログラムを利用しているようだ。
少女はしばらく歩くと、広い空間に出た。
空間の壁には二つの穴があり、洞窟は更に奥に続いているようだ。
?「ここでいいかな」
少女は岩に腰を下ろす。小さな岩があり、腰を下ろすには丁度良いと思ったからであろう。
?「ふう~……。後少しでボスに着くね。そうすれば、私も四級空に……。皆!応援してね!」
少女は小型のドローンに向かって話す。すると、ドローンの上空に浮かぶ文章は、先ほどよりも速く下から上へ流れていく。
≪頑張れよ!≫
≪いけるいける!ガツンとやっちまえば終いよ!≫
≪明日香たん、頑張って~!≫
≪勝てるかね~?≫
明日香と言う彼女を応援する旨の文章が大半のようだ。だが、中にはこんなのも。
≪無理無理。『
≪殺されて終わるだけ。無駄無駄≫
≪やっぱ、宮田さんにキャリーしてもらった方が良かったよ。調子に乗るから……≫
明日香は、このような文章は見ないようにしながらも、目に入ってしまったのだろうか、その表情が僅かに曇る。
だが、即座に持ち直し、笑顔で文章を読んでいく。
読むだけでなく、文章のなかには明日香へ質問するものもあるため、それらへ回答していく。
十数分ほど、そうして時間を過ごしながら、大型のドローンに吊るされている大きな袋を開け、中から可愛らしい模様の水筒と、半透明な紙で包まれたおにぎりを取り出して飲食する。
食べ終わった後は、再び文章を読んだり質問へ答えたりして時間を過ごす。
明日香「よし」
また十数分程そうしていたが、そう言って明日香は立ち上がる。
水筒や半透明な紙を袋に入れて、服装を整える。
明日香「それじゃ、行くよ」
力強い声を出して、明日香は歩き出す。
二つある穴の内、右側の穴へと入っていった。
少し歩くと道が右に直角に曲がっていた。
彼女は、慎重にその曲がり角へと歩いていく。
明日香「……!」
ゆっくりとその曲がり角から、人型で緑色の体をした、醜悪な見た目の生き物が一体現れた。
「……!ぎゃ!」
その生き物も明日香に気付いて声を出す。その声も耳障りな声だ。
生き物は走りながら右手に持つ棍棒を振り上げ、明日香に向けて振り下ろそうとする。
明日香「展壁!」
生き物が近づいてくると、正面に両手を出しながら明日香はそう声を出す。
すると、明日香の正面に紫色の半透明な壁が現れる。
「ぎゅ!?」
振り下ろした棍棒は壁に阻まれてゴン!と鈍い音を出す。
すると明日香は両手を降ろす。
「ゴ!?」
両手を降ろすと同時に壁は消失した。壁が消えたせいで前傾姿勢だった生き物は、重心が前にあるために前に倒れる。
明日香「はっ!」
生き物が前に倒れようとするところを、明日香は生き物の右側へ走りながら剣を抜いて攻撃する。
剣は生き物を横に真っ二つにし、生き物は切断面から緑色の液体を流しながら倒れる。
明日香「ふう」
剣を鞘に収めた明日香は生き物へと振り返る。
ピクリとも動かないところを見るに、絶命したのだろう。
明日香「ゴブリンか……」
明日香はそう呟いて、また歩き出す。
≪やっぱ、展壁の発動速度速いって≫
≪剣もうまいよな~≫
≪約一か月で四級まで昇格しただけある≫
ホログラムで出てくる文章は、明日香の戦いぶりに好印象なようだ。
明日香「やっと着いた……」
歩くこと二十分ほど。
明日香は、球状のように広い空間に到着した。まるでドームの中のようだ。
明日香の正面には、巨大な石の扉がある。
成人男性の五倍は優にあるだろう高さに幅だ。
明日香は扉の右側の壁まで歩いて止まる。
明日香の視線の先には、赤く丸いボタンがついていた。
それをポチっと押すと、扉は滑らかに開いていく。
扉の先には、また大きく広い空間がある。
空間内には何も無く、あるとしても、ここまで見てきた石の壁が見えることぐらいだ。
明日香「すう~……はあ~……。よし。じゃ、行くね」
明日香は深呼吸し、そう言うと扉の中に入る。
彼女が完全に中に入ると、扉は滑らかに閉まっていく。
ガコン!と扉がしまった途端、奥の壁が左右に開く。まるで扉のように。
そこから、一体の生物が飛び出してくる。
明日香「来た……!虎狼!」
虎と似た毛色や顔をしながら、体つきは狼。
キメラのようだ。
虎狼はグルルルルと鳴き、鋭利な牙を剝き出しにして睨みつけながら明日香を威嚇する。
明日香は両手を虎狼に向けている。二台のドローンは扉付近で待機している。
「ガウ!」
虎狼は一つ鳴くと、恐ろしい速度で駆けだしてくる。
明日香「展壁!」
明日香は紫色の半透明な壁を出して虎狼を受け止める。
壁に止められた虎狼は速度そのまま壁に激突。
怯んで一瞬の隙が生まれる。
明日香「は!」
すかさず展壁を解除して剣を抜き、虎狼へ斬りかかる。
剣は虎狼の体を斬り裂き、虎狼は斬られた箇所から赤い血を流すが、致命傷には至っていないのか四本の脚で体を支えることが出来ている。
虎狼は明日香から距離を取り、睨みつける。
明日香「ふう……やっぱり硬いな……」
再び駆けだした虎狼だが、今度は明日香の正面に向かって駆けだすのではなく、隣に向かって駆ける。先ほどよりも速く。
明日香「速い……!」
≪まじで速え!≫
≪残像が見えるんだけど≫
≪めちゃくちゃ血流れてるのに、この速さ出せるのえぐくね?≫
虎狼は明日香の周りをグルグルと周りながら、その速度を更に上げる。
あまりの速さに明日香は虎狼を目で追うことができないでいる。
明日香「どこ……!」
虎狼が見えたかと思えば、それはただの残像。
近くに来た虎狼に斬りかかるも、速度に追い付かず空振ってしまう。
明日香「がはっ!」
剣を振りぬいた瞬間に、虎狼は明日香の背後にまわって明日香の背中に体当たりをする。
凄まじい速度で突撃してきた虎狼は、ドン!という音と共に明日香を吹き飛ばす。
そのまま明日香は壁に激突してしまう。
明日香「……ぐっ……」
虎狼の体当たりと壁への激突という二つの衝撃を受けて剣を落としてしまう。
剣を持つほどの力を維持できなくなったのだ。
地面に倒れた明日香に止めを刺そうと、虎狼は大きく跳躍して天井近くまで飛び上がる。
空中で体勢を整え、後ろの二本足で天井を蹴って再び体当たりを狙う。
明日香「………展壁!」
倒れたままだが、何とか明日香は両手を飛び掛かる虎狼に向ける。
壁が生まれ、虎狼はそれに激突する。
「ぎゃう!」
最大速度で向かってきた虎狼は壁にそのまま衝突。
壁に弾き飛ばされて地面に倒れるも即座に立ちあがる。
≪大丈夫か?モロ壁にぶつかったけど≫
≪虎狼のやつ、まだピンピンしてるぞ!≫
≪血流してるけど元気そうだな≫
明日香「ぐ……まだいける……!」
地面に倒れる剣を拾い、それを支えに立ちあがる明日香。
息が荒く、剣を持つ手も震えているが、深呼吸を繰り返して剣を構える。
≪壁を背にすればイケるか?≫
≪あの速さに追い付けない以上ジリ貧でしょ≫
≪長期戦で挑んでも明日香ちゃんが先に限界迎えるしな≫
そのまま睨み合いを続ける両者。
先に仕掛けたのは虎狼だった。
明日香「展壁!」
虎狼の脚が少し動くと同時に、明日香は正面に壁を展開して防御する。
読み通り、驚異的な速度で駆ける虎狼は壁を展開すると共に激突する。
そこをすかさず剣で突き刺し、虎狼の片目を潰すことに成功する。
「グルル!」
片目を潰されたことで怯んだ虎狼に、さらに追撃。
剣を引き抜き、一度二度、さらに斬る。
明日香「はあ!」
≪いいぞ!いいぞ!≫
≪コンボが決まってる!≫
≪明日香が!近づいて!まだ入る!≫
斬撃を幾度も受けて傷が増える虎狼。傷から血がボタボタと流れて地面を赤く染める。
だが、虎狼も諦めてはいない。
明日香「ぐ!」
鋭利な鉤爪を明日香に向けて振るう。
鉤爪は明日香の顔の皮膚を斬り裂いて、明日香の顔から血が流れる。
≪ああ!≫
≪明日香ちゃんの美しい顔に傷が!≫
≪虎狼許さん!≫
虎狼は鉤爪をレイピアの要領で明日香の腹に向けて突き刺す。
明日香「ぐふ!」
敵が大きくダメージを受けたのを見て、虎狼は何度も突き刺す。
明日香も負けじと虎狼に剣を振るう。
虎狼と明日香の血で地面は赤く染まっていく。
明日香「はああ!」
このままでは先に倒れる――そう判断した明日香は伸るか反るかの博打に出る。
左手で相手の脚を掴んで拘束し動きを止める。避けることを諦め、虎狼が切り裂いてくるのを物ともせず、剣を虎狼の頭に向けて突いた。
明日香「はあ……はあ……」
頭に剣が突き刺さり、虎狼は動かなくなる。
剣は虎狼の頭を貫通しているため、既に絶命したのだろう。
明日香「う……しくじった……」
勝利はした。だが、明日香は息も絶え絶え、体のあちこちから大量の血を流している。
出血しすぎたのか、その場にドサッと倒れる。
≪まずい死ぬぞ!≫
≪血が……こりゃ間に合わんか?≫
≪出血が多い……。今すぐに止血しないと≫
≪勝っても死んだら意味ないって!≫
二機のドローンは明日香のもとへ飛んでくる。
明日香「ふう……皆、勝ったよ……」
地を這いながら壁に近づき、そのまま壁にもたれる。
明日香は袋から包帯や絆創膏を取り出して傷を止血、応急処置を施す。
明日香「いや~……勝った勝った……これで四級空か~……」
応急処置が終わった明日香は、感慨深くそう呟く。
身に着けている服はボロボロになっており、ところどころ破れ、赤いシミが目立つ。
≪止血はしたから大丈夫か?≫
≪いや、あれだけ血が流れたから、このままはまずいでしょ≫
≪傷からの病気にかかる可能性もあるし。それで死んだ人もいるでしょ≫
明日香は立ち上がろうとするものの立ちあがれない。
明日香「だめだ~。力が入んないや」
出血多量に疲労によって、体に限界が来ているようだ。立ち上がる力も出せない。
明日香「まあ、ここまでこれたしな~。ここで倒れても……いいかな」
彼女が呟いた瞬間。
?「おいガキ。つまらんことを言うな」
低いバリトンボイスがあたりに響く。男性の声だ。
その声が響く同時に、部屋の明かりが消えて辺りは闇に包まれる。
明日香「……え?」
≪ん?何だ!?≫
≪何が起こった!?≫
≪こんなことあったか?≫
≪今の声誰?≫
≪まさかモンスター?≫
今ある明かりはドローンの明かりぐらいだ。それ以外は何もない真っ暗闇。
何故明かりが消えた?今の声は誰?モンスターか?いや、話すモンスターは……。
明日香はモンスターの可能性を考え、戦闘態勢をとろうとするものの、立ち上がることすらできないのだ。何もできず、声が聞こえたほうを向くことしかできない。
?「立ち上がることすらできんか。あの程度の犬に瀕死とは……。全く、百年は経っているのに人類の技量は全く上がっておらん。やる気を感じられんな」
再び部屋に明かりが灯る。
明日香「……!?」
明日香は、視界に映る人物を見て目を見開く。
枢機「俺の名は枢機。ガキ、貴様の名は?」
地面に胡坐をかき、右膝に右肘をついて不敵に笑う黒髪の男性。
黒い服に黒いとんび合羽と、黒色の服で身を包んでいるが、服にはところどころ装飾で彩られており、上品さを感じさせる黒服である。
彼の黒目には、烏の模様が金色に光っていた。
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