我が儘

夜空の星

第1話 幕開け

『迷宮』

資源の宝庫、危険の集合体、触らぬ迷宮に祟りなし、などなど。人によって多種多様に表現する迷宮はだが、世界共通で呼ばれる別名がある。

それは、『レーツェルカステン』。謎の箱と、意味はそのままである。



世界に数ある迷宮だが、最初に発見されたのは二十一世紀、日本の某村に住むある一人の老人が発見したのものである。



彼はその村に長く住んでおり、近くの山に入って散歩をするのが日課であった。

ある日、いつものように山に入って歩き回り、食べられる草があれば持って帰って食べようとしていた時、不思議なものを発見する。



それは洞窟の入り口であった。洞窟それ自体は世界中そこかしこにあるのだが、先述のように彼はこの山に精通している。知らぬ場所を散策していたならまだしも、そこは何十年と歩いた場所。風景を見なくとも、キャンパスに絵が描けるほど記憶している。



そんな彼にとって、この洞窟は酷く不気味であった。それも当然、山での散策は日課であるため、この洞窟は一日の間に出来たものだと推測できるからだ。

仮に見落としたとしても、一週間も見落とすとは考えられないため、それ以内に出来た可能性が高い。



さらに、元々あった洞窟だが、入り口が塞がっていて見つけられなかった。だが、表面の土が何かの拍子に崩落して入り口が丸見えに、という可能性も考えたが、それだと入り口に草が元気に生えており、しかも入り口に土が盛られている様子もないことと矛盾する。



もっと言えば、洞窟の中は本来暗いはずである。日光が入り口からしか入らないからだ。だが、その洞窟は明るかった。光源は見受けられないが、確かに明るいのだ。それも室内のように明るく、日光によるものとは思えない色のついた光。



だが、そんなことはどうでも良い。

彼が感じた不気味さの原因はこれではない。



〈何かがいる〉



彼は老眼であまり遠くは見えない。だが、それでも彼は確かに見えた。

体の表面は緑色、二足歩行をし、手には棍棒のような何かが握られている、醜悪な見た目の小さな人型の生き物が立っていた。

こちらを只々、その赤い目でジッと見つめている生き物が。



その生き物に気付いた老人は脱兎の如く逃げ出した。人生の中で一番速く走れたと断言するほどに。



家に戻った彼は、そのことを妻に話した。

帰宅するのが普段より甚だ早く、しかも息を切らして顔色が悪い。

異常な様子の彼を見て、只事ではないと判断した妻は夫の話を真摯に聞いた。



話を聞き終わった妻は、警察へ通報した。

未確認生命体を発見した。老婆の言うことを簡潔に要約するとこうなる。当然、警察は見間違いか何かと思ったが、老婆は必死に頼み込むので仕方なく人員を派遣した。



駆けつけた警官に事の次第を話し、老爺はその場所へ案内する。

警官は全く信じていなかったが、洞窟の入り口から中を見ると、ひどく驚いた。



確かにそこには、老爺の言うような生き物が立っていた。



それは人型である。口、鼻、耳、目と、凡そ人間とは見た目は異なるが、確かに人と同じような姿かたちであった。



驚きと恐怖からトチ狂ってしまったのか、警官は声をかける。



「あ、あなたは誰ですか?」



震えながらも何とか声を出す。



途端、



「ぎゃぎゃぎゃ!」



という声が聞こえた。幻聴ではない、その生き物が出した声である。



老人二人は腰を抜かす。

だが、警官は感情が頂点に来て溢れたのだろう、右腰にある拳銃を取って発砲した。



警官の持っている銃には実弾が装填されていた。

真っ直ぐに飛んで行った銃弾は、驚くことにその生き物に命中した。



ぎゃ!と声をあげて、生き物は倒れる。だが、警官は恐怖のあまり尚も撃つ。

手が震えて狙いも何もあっちゃ無かったが、最初の一発は腹に、三発目は額に命中。

距離はそこまで離れてはいないが、体を震わせながらここまで命中させるとは天晴れである。



警官は五発全弾撃ち尽くし、気が付くと、その生き物は命中した箇所から緑色の液体を流していた。









警官は応援を呼び、中を探索するにつれて事の重大さが露わとなる。



先ほどの緑色の生き物や、それとは違う生き物が洞窟内で闊歩していた。

声をかけるも、襲い掛かられて負傷する警官も出た。



事態を重く見た警察上層部は政府と自衛隊へ連絡。



警察よりも重装備の自衛隊は、中を苦も無く探索していく。



そして……







世界は、特異点を迎える。



この『若宿山事件』を皮切りに、世界でも迷宮が発見されだした。



日本の他の地域だけでなく、アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、エジプト、南アフリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、ポーランド、ギリシア、ロシア、トルコ、インド、サウジアラビア、タイ、インドネシア、オーストラリア、支那、朝鮮、などなど。まさしく世界中である。



探索を続けていく中で、迷宮から得られるものは有用な資源だらけであることが判明した。

世界各国は、迷宮から得られる資源を求めて探索に更に力を入れる。







そして、世界は特異点を迎える。

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