第4話 初めての依頼と本音
翌朝、悠斗とミカは初めての依頼に挑むことになった。依頼内容は、近くの森で急増しているスライムの討伐だ。二人は冒険者ギルドの前で合流し、早朝の静かな街を抜けて森へと向かった。
「スライム討伐なんて、初めての冒険にはぴったりだわ」とミカは軽い口調で言った。「動きも遅いし、攻撃力も低いから、いい練習相手になるはずよ。」
悠斗は頷きながらも、少し緊張していた。「そうですね。でも、どんな相手でも油断は禁物だって、先輩冒険者から聞いたことがあります。」
「その通り。油断は大敵よ」とミカは微笑んだが、その目にはどこか自信に満ちた光が宿っていた。
森に入ってしばらくすると、二人はスライムの群れを見つけた。青や緑のゼリー状の体を持つスライムが地面を這い回っている。
「まずは私が一匹相手をするから、君は見て覚えて」とミカは自信満々に剣を構え、スライムに向かって駆け出した。だが、剣がスライムに届く直前、ミカの手が滑り、剣は空を切った。
「ちょっと手が滑っちゃったわね。次こそは…」とミカは軽く誤魔化したが、悠斗はその様子に疑問を感じた。
「そういうこともありますよ」と悠斗は優しくフォローしたが、次の攻撃も空振り。ミカの動きがどこかぎこちなくなってきた。
「ミカさん、大丈夫ですか?」悠斗が心配して声をかけると、突然、ミカが叫びだした。
「うぅ…酔いが回ってきたぁぁぁ!」
「えっ!? 依頼の前にお酒を飲んだんですか!?」悠斗は驚いてミカを支えたが、彼女はまともに立つことすら難しい状態だった。
「うるさい!私にめぇいれいしゅるなぁぁぁ~!」ミカは完全に酔っ払い、悠斗の言葉に耳を貸そうとしなかった。
「もう…どうしたらいいんですか、これじゃ依頼失敗しちゃいますよ…」
困り果てた悠斗は、なんとかミカからスライムの倒し方を聞き出し、一人でスライムと戦うことにした。スライムを倒すには核を壊せばいいということを教えられ、最初は手こずったものの、次第に慣れていき、依頼された数のスライムを討伐することに成功した。
「やった!うまくいった!」悠斗は自分の初めての勝利に歓喜した。
「お見事!初めてにしては上出来よ」とミカは満足げに微笑んだ。酔いが覚めたのか、いつもの彼女に戻っていた。
「これで任務完了ね。お疲れ様、悠斗」とミカは軽く伸びをしながら言った。
「ありがとうございます、ミカさん…」悠斗は礼を述べた。
「これからも一歩ずつ進んでいきましょう。今日は君の成長が見られて、私も嬉しかったわ」とミカは優しく微笑んだ。
悠斗は心の中で「本当に見ていたのか?」と疑問に思いつつも、ギルドへ報告に戻ることにした。
冒険者ギルドに戻り、二人は依頼達成の報告を行った。受付嬢は笑顔で対応し、「スライム討伐の依頼、お疲れ様でした。こちらが報酬です」と言って、二人に小さな袋を手渡した。袋の中には銀貨が数枚入っていた。
初めての報酬を手にした悠斗は、少し感動を覚えた。「これが僕の初めての報酬…本当に冒険者になったんだなと感じます。」
ミカは満足げに「報酬ゲットー!」と叫んだ。
「おい、ちょっと待て。お前働いてないだろ…」と心の中でツッコミを入れつつも、悠斗はそれを口に出さずにいた。
その時、受付嬢が続けて悠斗に問いかけた。「悠斗さん、この報酬で冒険者としての正式な登録を行いますか?登録料の銀貨1枚で手続きができますよ。」
悠斗は銀貨を手に取り、少し緊張しながらも「はい、お願いします」と答え、登録料を支払った。
受付嬢は笑顔で銀貨を受け取り、「ありがとうございます。これで悠斗さんは正式な冒険者となりました。こちらが冒険者証です」と言って、小さな金属製のプレートを渡した。そのプレートには悠斗の名前が刻まれており、新しいスタートを象徴していた。
悠斗は冒険者証をしっかりと握りしめ、「これで僕も正式な冒険者ですね。これからも頑張ります!」と決意を新たにした。
ミカは彼の肩を軽く叩き、「その意気よ。これからも一緒に頑張っていきましょう」と励ました。
ギルドを出た後、悠斗はずっと気になっていた疑問をミカに尋ねた。
「ミカさん、装備を買っていただいて本当に助かりました。でも、ひとつだけ気になることがあって…どうして冒険者登録の費用は出してくれなかったんですか?」
ミカはしばらく悠斗を見つめ、やがて微笑を浮かべた。「あら、そんなこと気にしてたのね。でも理由は簡単よ」と彼女は言った。
その瞬間、ミカの表情が一変した。優しい笑顔が消え、冷ややかな目つきになり、声も低くなった。「それはパーティー組んだら一緒にいるだろうし、お酒を何杯飲んでも、代わりに依頼をこなしてくれる相棒がいるってわけ。最高でしょ?私ってば天才!」
悠斗はその解答に驚き、「これが異世界の洗礼…?」と呟いた。
ミカは再び穏やかな笑顔に戻り、「じゃあ、あらためてよろしくね、悠斗」と優しく言った。
悠斗は苦笑し、「ミカさん、もうお酒はほどほどにしてくださいね」と言いつつ、心の中では早く穏やかな生活を送りたいと願うのだった。
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