第96話 メエメエさん落胆す

 僕とドリーちゃんが会話をしている横で、オコジョさんとカワウソさんが取っ組み合いの喧嘩をしているんだよね。

 原因はラッコ姿で現れたオコジョさんだった。

 カワウソさんはやっぱりお父さんラッコと間違えてしまったみたい。

 うっかり「お父さ~ん!」と、うるうるお目目で飛びついちゃったのを、オコジョさんが大笑いしたのが発端だよ。

 そこでポンとラッコ姿からオコジョさんに戻ったのを見て、カワウソさんがワナワナと震え出し、オコジョさんに飛びかかっていったんだよね!


「紛らわしいカッコをしてーーッ! お父さんもハクちゃんの植物園に来てくれたと思ったのにぃぃ~~ッ!!」

 カワウソさんがオコジョさんの腕に噛みついた!

「あいつがここの温暖な海に来るわけがないぞ!!」

 オコジョさんがカワウソさんを振り解こうと、手をブンブン振っている。

 その動きに合わせてカワウソさんが左右に振られていた!?

「おじいちゃんなんか、嫌い! 勝手にダンジョンに行ってさ~~ッ!?」

「何おぅ~! ダンジョン海でのワシの雄姿を、お前に見せてやりたかったわい!」

「おじいちゃんの雄姿なんかどうでもいいよ! ボクが行きたかったんだ~~ッ!!!」


 さっきからそんな感じで低俗な争を繰り広げ、ドリーちゃんとダルタちゃんを呆れさせていた。

「まぁ、オコジョが悪いんだけどねぇ……」

「カワウソさんがかわいそうニャ……」

「そうだね……」

 ナガレさんは相変わらず、穏やかに「ホッホッホ~」と笑いながら湖面に浮かんでいるだけだった。

 ここは年の功で、仲裁しようとは思わないのね?



 精霊さんたちも元気に湖で遊んでいた。

 ピッカちゃんは水中では上手に動き回っていたのに、普通に泳ぐのは下手なまんまだった。

 またしてもフウちゃんとユエちゃんに、手を引っ張ってもらっている。

 僕と一緒でバタ足が苦手なの?

 まぁ、精霊さんたちは足が短いから大変だろうけど……。

 相変わらず湖面を漂うグリちゃんポコちゃんの側には、セイちゃんも混ざって浮かんでいた。こっちはマイペース組だね。

 泳ごうなんて考えてもいないんだ。

 湖の奥のほうに目をやれば、クーさんが華麗なクロールで泳いでいって、ついには見えなくなっていた。

 

 僕は水際に足をつけてチャプチャプしながら、おいしいメロンを食べるのだ。

 今日はバートンが横に座って、穏やかな時間を過ごしている。

 何もしない午後っていいよね!

 う~んと手足を伸ばして、木陰の行ってパタンと倒れた。

 バートンがそっと薄手の布を掛けてくれたので、知らないうちに眠っていたみたい。

 

 目が覚めたら、精霊さんたち七人と、喧嘩していたカワウソさんとオコジョさんと、ドリーちゃんとダルタちゃんまで僕の側で丸まっていた。

「ぐっすりお休みでしたよ」

 バートンが目を細めて笑っていた。

 その日はそんな感じでゆっくり過ごして終わったよ。


 そうそう、夕食の席で父様にも聴いてみたんだけど、やっぱりあのときは頭がぼんやりして、居眠りしていたみたいなんだよね。

 時間軸の乱れは、ダンジョンの悪戯だったのかなぁ?

 今後も起きると困っちゃうよね。




 翌日は朝からアッシュシオールの湖畔に向かい、冷凍カニと電気ショックエビの解体作業が始まった。

 ハイエルフさんたちもやってきて、アル様&ジジ様が魔法剣で豪快にぶった切っている。

 今日は精霊さんたちもテンション高めで、カニ脚を切ってもらい、両手に抱えて持ってくると、湖畔のバーベキュー網の上にドンと置いていたよ。

 大きすぎて網に一個しか載せられないね。

「なまで、たべる~」

「じょうかして~」

 グリちゃんポコちゃんが僕に持ってきたので、ご要望どおり浄化魔法をかけてあげれば、バートンが殻を割ってせっせと身を解してあげていた。

 ほかの子たちも集まって、「おいし~!」「おいしいね~」と、語らいながら食べている。

 僕の胴回りよりも大きなカニ足の身は、あっという間に消えてなくなった。

 凄まじい食欲だね!


 二本目をミディちゃんが持ってきてくれたので、今度は帰郷するドリーちゃんとダルタちゃんにも食べてもらう。

 もちろん僕もね。

 切り分けた身を、グリちゃんがバートンの口にも押し込んでいたよ。

 バートンは困ったように笑いながら、おいしそうに食べていた。

「あ、焼きガニもいいみたいだよ!」

 香ばしい臭いが漂ってきて、みんなでワイワイ言いながら食べた。


「お~い! エビもいいぞ~!」

 その声に反応して、精霊さんたちは猛スピードで飛んでいったよ。

 カニだけで僕はお腹いっぱいなのに……。

 たくさん持って戻ってくる精霊さんたちに、僕らはお腹を抱えて笑った。



 解体したカニとエビを、ドリーちゃんとダルタちゃんにもお土産で渡した。

「今回はお宝をいっぱいもらったニャ! 来年はもっと凄い品物を仕入れてくるニャよ!」

「ああ、また来年来るよ」

「楽しみに待っているね!」

 アッシュシオールの樹の下で別れを告げれば、『銀枝の樹』の枝が輝いて、ふたりは妖精界へと戻っていった。

 真夏の風が吹き抜ける空は青く、眼下の湖の畔では、今も賑やかに解体作業が進められている。

 湖にはナガレさんとオコジョさんとカワウソさんの姿も見える。

 ここは自然しかない場所だけど、いつでも楽しい笑い声にあふれていて素敵だね。

 アッシュシオールの幹にたっぷりと浄化魔法を注いで、バートンとふたり緩い丘を下って戻る。



 お昼ごろにお屋敷から父様がやってきて、食後に宝箱の確認をすることになった。

 メエメエさんはフヨフヨ飛んで、ラビラビさんは軽快に走ってやってきたよ。

 ハイエルフのライさんとエルさんに、里長のスフィルさんが集合してから、アル様が保管していた真珠色の豪華な宝箱を取り出した。

「なんと四角い真珠でできた箱ですか!?」

「これ自体が真珠と同じ成分なのかねぇ?」

「ええ、普通の宝石のように加工できるといいですね!」

 ラビラビさん、アル様、エルさんの研究者が、開ける前から話し込むものだから、お宝大好きメエメエさんがイライラしている。

 今すぐにでも開けたいのに、箱に関する談議が始まるとねぇ~。


「ちょっとあなたたち! 箱はあとでじっくり検分してください! まずは中身でしょう!! な・か・みッ!?」

 白目を剥いて、ビシッと裏手で三人を叩いていた。

 メエメエさん、顔がホラーだよ!?

 周りのみんなは苦笑して、黙って成り行きを見守っている。

 とはいえ、父様もそんなに時間があるわけではないので、メエメエさんを援護していた。

「ああ、申し訳ないですが、私はこのあと仕事に戻るので、中身の確認だけ先にお願いします。何分予定より一週間押してしまっているので……」

「そうですよ! お父上様の迷惑になっていますよ! 空気を読んでくださいッ!?」

 そういうメエメエさんは、いつも空気を読まないけどね?


 これにはアル様とエルさんもうなずいて、メエメエさんに場所を譲ってくれた。

「わがままですねぇ」

 ラビラビさんはメエメエさんを冷たい目で見ていたけど、当の本人はこれっぽっちも気にしていない。

 アル様とエルさんをかき分けて宝箱の前へ進み、「宝箱オープン!」と叫んで開けていた。

 そこには鉱石類と、青い壺が入っていたよ。

 下のほうも全部色の違う鉱石だね。

「ショボッ!!!」

 メエメエさんの第一声がそれだった。

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