第95話 休息日はゆっくり

 朝食後にバートンと精霊さんたちと一緒に、マシロちゃんともう一頭の馬を引き連れて、牛小屋の転移門から植物園のサイクリングコースへ向かう。

 マシロちゃんは軍馬で大きいから、小柄な僕はこのままでは乗れないので、マジックポーチから踏み台を出して背中によじ登るんだけど、精霊さんたちが僕を引っ張り上げてくれたよ。

 やれやれ、馬に乗るのも一仕事だよね。

「踏み台はボクが預かっておくね!」

 ユエちゃんが張り切って闇の世界へ収納していた。

 できることが増えてユエちゃんも嬉しそうだ。

「ありがとうね!」

 笑顔でお礼を告げた。


 そんなユエちゃんはマシロちゃんの頭に座って、僕の後ろにはポコちゃんが座っている。

 バートンが操るもう一頭の馬には、クーさんとグリちゃんが乗っていた。

 フーちゃんとピッカちゃんとセイちゃんは、あとで交代して乗ろうね?

 二頭の馬は連れ立って、サイクリングコースを颯爽と駆けてゆく。

 今日は遠回りの山道コースを行こう!


 ゆっくりとした足取りで風に吹かれながら進み、山の頂上で休憩する。

 水場で休ませながらブラッシングしてあげれば、マシロちゃんも嬉しそうにしていた。

 浄化魔法をかけたせいか、真っ白な毛がさらに輝きを増して、高貴な雰囲気のお馬さんになっちゃった!

「坊ちゃま、ほどほどに。マシロはただでさえ綺麗な馬ですから」

「うん。マシロちゃん砂浴びでもする?」

 ブルルと首を振られた。

 バートンが珍しく声を上げて笑っていたよ!


 優雅に乗馬を楽しんでから、大回りしてロッジまで戻ってきた。

「外はまだ熱いですから、夕方までこちらで放牧させましょう。トムに伝えてきますので、しばらくお待ちください」

「わかったよ」

 バートンが転移門から牛小屋へ戻っていけば、間もなくトムとノエルが別の馬を連れてやってきた。

「こっちで走らせます! このあとマシロたちは自由にさせますんで!」

 ノエルが青毛の牡馬に軽やかにまたがって、颯爽と駆けていったよ。

 僕はユエちゃんに踏み台を用意してもらって、なんとか無事に降り立った。

 ふう、やれやれ。

 そんな僕をトムは生温かい目で見つめていたよ。

 マシロちゃんともう一頭の馬は水を飲んで、おいしそうに周辺の草を食んでいた。



 マシロちゃんとお別れして、お食事処へ移動する。

 サイクリング場のロッジから、転移門がつながっているんだよね。

 便利になったものだ。

 時間はお昼ちょっと前だったけど、お食事処ではジジ様とカルロさんとアル様が、昼ビールを飲みながら昼食を食べていた。

 温泉の湯上がり服を着ているところを見ると、午前中からお風呂に入ったらしい。

「おう、ハク! ビールがうまいぞ!」

 ジジ様がご機嫌な様子で手を振っているので、僕は近くの席に座った。

 近づき過ぎるとお酒臭いから、ほどほどの距離を維持しておく。

「ゆっくり休まれましたか?」

「おう! 良く寝たわい!」

 豪快に笑うジジ様の肌がツヤツヤと輝いていた。

 

 今日のお勧めメニューは冷やし中華だったので、オーダーしてからドリンクバーに向かった。

 精霊さんたちもついてきて、キャッキャと好きな物を選んでいた。

 僕は喉が渇いていたので冷たい水を持ってきて、席に着くと同時に水を飲み干した。

 あ~スッキリするね! 

 間もなく冷やし中華が運ばれてきたので、それを食べて満腹になったよ。

 デザートはラドベリーシャーベットだ。

 冷たくておいしいねぇ!

 満足、満足。


 食後のお茶をまったり飲んでいると、メエメエさんがやってきて、僕の向かいの席に座った。

 ミディちゃんにざるそばを注文すると、マイ急須からマイ湯飲みに玉露を注いで飲んでいる。

「いや~、驚きましたね。第九階層に潜っているあいだに、一週間も時間が経過していたなんて! こんなことは初めてだったので、ラビラビさんも心配して、目を赤くしていたんですよ!」

「それはいつもだよ」

「そうですね!」

 ズゾゾ~とざるそばを食べるメエメエさん。


 近くで聞いていたアル様が大笑いしていた。


「やぁやぁ! あの最後の深淵の底へ下るとき、何か時間の流れがおかしかった気がしないかい? 意識がもうろうとするような感じだったねぇ」

「あのとき僕は眠っていたような気がします」

 それには僕も心当たりがあったよ。

 ずっと同じ光景が続いて、意識が遠退いた瞬間があったんだ。

 それはジジ様やカルロさんも同じで、程度の差はあれ睡魔に襲われていたみたい。

「ダンジョンで眠るなど危険な行為だが、あのときはナガレさんたちもいたから、気が緩んでいたな」

「ええ、あのときに時間の流れがおかしくなったのかもしれませんね」

 ジジ様とカルロさんもうなずき合っていた。


「あとで全員から聞き取りが必要だねぇ。まぁ、明日にでもアッシュシオールの湖畔に行って解体でもしながら、聞いてみるかい?」

 アル様はジョッキを傾けながら、こっちにウィンクしてきた。

 んん?

 解体する物なんてあったっけ?

 僕が首をかしげていると、メエメエさんが箸を止めた。

「冷凍カニと電気ショックエビの解体ですか?」

 ああ、あれは凍らせただけで、まだ死んでいないんだっけ?


「普通ならあの状態で死んでいてもおかしくありませんが、ダンジョンの魔物ですからねぇ………、ズゾゾゾゾ~~」

 そばをすする音が豪快だね!

 ちょっと、こっちまでテーブルにスープが飛んじゃっているじゃない!?

 するとすぐさまお食事処の従業員さんが飛んできて、サッとひと拭きして戻っていったよ。

 気が利くね。


 って、またメエメエさんがスープをまき散らしていた!

「ちょっと! 今拭いてくれたばかりなのに、なんで気を使って食べないのよ!?」

「なんの! 麺類を食べるときはすするものです!! それこそが流儀!?」

 そう叫んで、豪快にすすって見せるのだった。

 僕の手の甲にピチョッと一滴が飛んできた!?

 キーーッ!!!


 そんな僕らのやり取りはどうでもよく、アル様は午後から、「ヒューゴ君とルイス君に聞き取りしてみよう」と言って、陽気にフラフラと出かけていった。

 千鳥足じゃない?

 大丈夫なの??


 ハイエルフさんたちには、ルシア様から連絡を取ってもらうそうだ。

 メエメエさんはカレンお婆ちゃんと約束した、例の品物を作って届けると話していたので、そのときにでも確認してもらったらいい。

「かわいい羊のモフモフおくるみなんてどうでしょう! ペコラちゃんの毛糸で編んだ手袋と帽子もいいですよね! おまけで兎模様も作ってあげましょうか? そうなると小鳥とレッサーパンダ柄も必要でしょうか??」

 んん?

 となればもう一匹の正体が気にかかるよね?

「ソウコちゃんはなんの動物なの?」


 メエメエさんはカッと目を見開いて、いきなり立ち上がった。

「あぁ! いけない!! 用事を思い出しましたぁ~~ッ!?」

 唐突に黒羊は飛んでいってしまった。

 ざるそばは綺麗に無くなっていたよ。

 そんなに隠さなきゃいけないものなのかな?

 今度保管倉庫内を隅から隅まで探索してみようかな?



 僕は午後からナガレさんの湖に行って、ドリーちゃんとダルタちゃんと遊んだ。

「そろそろ妖精界に戻るよ」

「お土産もいっぱいニャ!」

 ふたりは帰り支度を終わらせていたらしい。

「お前さんたちに挨拶してからと思って、戻ってくるのを待っていたのさ」

「そうか、気を使わせちゃったね」

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