第94話 日常を楽しもう

 ナガレさん&オコジョさん&ウオマルさんトリオは、一目散で植物園に走っていった。

「温泉で汗を流すぜ!」

「そうだのう」

「我は海に戻るぞ!」

 こっちも疲れた様子が微塵もないね。

「次も必要なときは声をかけろよ!」

 一声叫んで、ゆるキャラ族は走っていってしまった。


 あ! オコジョさん!

 まだラッコモードのままだよ~~ッ!!

 カワウソさんがお父さんと間違うんじゃない?

 大丈夫かな??

 うふふ。


 さぁ、僕らも戻ろうか。

 その場でお開きとなって、三々五々に散っていく。

 今回は骨が折れたよね~。

 少し長くお休みをもらわなくっちゃ!



 その日は疲れていたせいか、お屋敷の湯場に入ってご飯を食べたら、バタンキューで眠ってしまったんだ。

 精霊さんたちもみんな、クタクタで泥のように眠った。

 次の日の夕方まで誰も目を覚まさなかったので、マーサとバートンを心配させたみたい。

「お疲れなのは承知しておりますが、誰も身動きひとつしないので、本当に心配したんですよ」

 マーサが眉を下げて僕らの顔を見回していた。

「何度も癒やし魔法をかけたんです」

 僕のおでこに手を当てて、熱がないことを確認すると、ギュッと抱きしめて癒やし魔法を注いでくれた。

 ポカポカと心と身体が温まるね~。

「ありがとう、マーサ。大好き!」

 僕もギュッと抱きしめ返せば、マーサは「まぁまぁ」と朗らかに笑ってくれた。

 僕のあとには精霊さんたちもハグ&癒やし魔法を注いでもらい、ついでにお着替えも手伝ってもらって、爆発した寝癖も綺麗に整えられていた。

 ちびっ子たちはキャッキャと楽しそうにしているね。


「さぁ、できました! みんなでご飯を食べましょうね! ジェフさんが腕によりをかけてご馳走を用意してくれていますよ!」

 マーサの明るい声に、グリちゃんたちの表情が輝き、一目散で扉を飛び出していった。

 僕とマーサは笑ってそのあとを追っていく。

 先頭を飛ぶピッカちゃんが、階段の下り口でバートンにぶつかって、注意されているのが聞こえたよ。

「皆さん、廊下と階段はお静かに!」

「は~い!」

 通じているのかいないのか、キャッキャと笑う声が家中に響いて、ああ、返ってきたんだなぁと実感する。

 この穏やかで朗らかな空気感が大好きだよ!


 食堂に入れば、精霊さんたちの円卓にはすでに、たくさんの料理が用意されて、熱々の湯気を立てている。

 七人はワーッと飛んでいってしまった。

 待ち受けるリリーとタックンは、腕まくりして臨戦態勢を整えている。

 そこへマーサも加わって、円卓上の戦争が始まったよ!

 僕は自分の席から、その喧騒を眺めていた。


 バートンが焼き立てパンが入ったカゴを運んできた。

「すぐに旦那様とリオル様がまいります」

 言っているあいだにリオル兄がやってきて、すぐに父様も食堂に入ってきた。

 席に着くと同時に、料理が供され、三人で会話をしながら食べる。

 お屋敷の食堂で、家族そろってのんびり食べるのは落ち着くよね。

 今日はこってり魔牛の煮込みハンバーグと、夏野菜のシャキシャキサラダに、フルーツの特盛セット。

 冷たいお茶と一緒に、フレッシュオレンジジュースも用意されている。

 絞り立ては格別だね!

 デザートにバニラアイスを食べれば、心もお腹も満たされたよ。


 食事をしながら父様から聞かされたのは、第九階層に入っているあいだに、一週間経っていたってこと!

 えぇ?

「向こうでは食事を一回しか取っていないよね? それって時間の流れが違っていたってこと??」

 目を丸くして聞けば、父様が静かにうなずいたんだ。

「ああ、これまでにはなかったことで、少しばかり懸念している」

 第八階層までは地上と同じ時間の流れだった。

 だけど第九階層から地上と時間の流れに差異が現れたとなると、今後の攻略に気をつけなければならないかも……。


「ああ、一週間くらいなら問題ないが、これが一箇月などと延びてくるようなら考えものだ」

 ワイングラスを傾けて、ため息をついていた。

 リオル兄もうなずいている。

「そうですね。秋には兄上とソレイユ様の結婚式が控えていますし、父上の政務もたまってしまいます。私が代行できる業務は限られますから」

 父様はまだラドクリフ領の領主だから、不在が長引くのは避けたいよね。

 レン兄の結婚式に父様が戻らないなんてことは、あってはならない。

 レン兄の一世一代の晴れ舞台だもの!


「今後の攻略メンバーの話し合いもしなければならないな。第八階層と第九階層を越えるのは至難の業だ」

 今後ヒューゴとルイスだけしか参加できないとなると、絶対にケビンとイザークがおもしろくないよね。

 その辺は父様が説得すればいいんだけど、ずっとルイスを連れていくのも気が引けちゃう。

 そうなれば、ラビラビさんに新たに造船してもらった、またあの一か八かの荒業をするの?

 またあの深海に潜るの??

 考えるだけで憂鬱になってきちゃう……。

 モシャモシャとサラダをまずそうに食べる僕に、父様が苦笑していた。

 リオル兄には「もっとおいしそうに食べなよ」と注意された。

 実際はメッチャおいしんだよ!


「まぁ、なんだ。私もたまった仕事を片付けなくてはいけないから、今はゆっくり羽を伸ばすといい」

 父様の表情が若干やつれているように見えたので、あとで特別なお酒チケットをプレゼントしてあげようかな?

 僕って優しいいい子だね!

 むふーっ!

 リオル兄が鼻で笑ったけど!



 翌日は朝からスッキリ目覚めて、早朝のバラ園に行き夏バラを摘んでくる。

 夏の花は日中の暑さですぐに痛んじゃうから、早めに切って涼しい室内に飾っちゃおう。

 切りバラはバートンにバケツごと手渡し、その足で裏庭に向かってミディ農作業部隊と一緒に朝採れ野菜の収穫だよ!

 たまにはお手伝いしなくっちゃね!

 グリちゃんたちも完熟トマトを摘まんで食べている。

 僕も一粒口に放り込んで、どんどん収穫していくよ。

 ジェフに夏野菜の冷製パスタでも作ってもらおうかな?


 収穫した野菜を井戸場において、裏門を抜けて牛と羊の放牧場へ向かえば、僕に気づいたのか、ペコラちゃん一家が近づいてきた。

 この子たちもすっかり大家族になっちゃって、ペコラちゃんが生むのは白毛と茶毛が半々になっている。

 茶毛の子は村の牧場へ譲り、白毛の子だけが残されるんだ。

 ペコラちゃんの子孫もどんどん増えて、放牧場には白いモフモフがたくさんいるよ。

 たまに混ざっている茶色の子はつがいのオスだけで、結構目立っちゃうかも?

 大人になって子どもをたくさん産んでも、ペコラちゃんはかわいいんだよね。

 かわいく鳴いて擦り寄ってくるの。

 よ~し!

 今日は特別魔力増しましのヒール草をあげちゃう!

 朝からモリモリたんと召し上がれ!


 お次は反対の放牧場に近づいてマシロちゃんを呼べば、嬉しそうに駆けてくるんだよ!

 マシロちゃんにはリンゴをあげようね。

 放牧場に馬を放していたトムが近づいてきて、僕に話しかけてくる。

「坊ちゃん、お暇ならたまにはマシロに乗ってやってくだせぇ。こいつも可哀そうですぜ」

 その言葉が胸に刺さった。

 僕がいないときはノエルやリオル兄が走らせてくれているけど、本当の主は僕なんだもんね。

 ダンジョンに潜ると顔を出さないから、マシロちゃんもおもしろくないよね。

 鼻先をなでれば気持ち良さそうに擦り寄ってくるんだ。

「わかったよ。日中は暑いから、植物園の散策路でも走ろうかな? 朝ご飯が終わったらまた来るよ!」

「そうしてくだせぇ」

 マシロちゃんに別れを告げて、お屋敷へと駆け戻った。

 何かと僕も忙しいね!

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