第92話 第九階層 ナガレさんの口から!

 オコジョさんが投げた灼熱の石は海水を沸騰させながら飛んで、シーサーペントの一体に直撃した!

 おぞましい絶叫とともに、一瞬で火だるまとなり、漆黒の海底に落ちていく!

 もう一体に飛びかかるオコジョさんは、凶悪犯のような表情でシーサーペントの首の付け根に噛みついたんだ!?

 必死に抵抗するシーサーペントが、長い身体をオコジョさんに絡みつかせてもがく!

 オコジョさんがその抵抗をものともせず、胴体を手で引き千切ったんだよッ!!

 ブチッと!?

「巨大ラッコつえぇぇ~~ッ!!!!!」

 メエメエさんが僕の代わりに絶叫した!


 もう一体のシーサーペントは、ジジ様やアル様たちが一斉に魔法剣を放って、穴凹だらけにしていた。

 うっかりラッコ海獣戦に注目していて、ジジ様たちの活躍を見逃してしまった!

「安心してください! 全員の雄姿を、いつでもどこでもミディ部隊が録画していますから!」

 メエメエさんの示す先を見れば、鬣のあいだから顔とカメラを出すミディちゃんが複数見えたよ。

 ミディ部隊は、影の立役者だね!


 海底に沈んでゆく大きな魔石を、オコジョさんが拾い集めてラッコポケットにしまうと、すぐに身を翻してナガレさんを追ってくる。


 海底の谷間を進むナガレさんの前方に現れたのは、九つの首を持つヒュドラだ!

「ヒュドラは海蛇の化け物です! 海上では口から猛毒ブレスを吐きますが、深海では問題ないでしょう! 注意すべきはその再生能力デッス!! 九つの首がそれぞれ別の意志を持ち、別々に攻撃を仕掛けてきます!!!」

 ヒュドラの首は一体でも五十メーテもあるんだよ!

 それが九体で、さらに胴体と尾まで合わせるとその二倍はあるし、両手両足が生えている。

 ナガレさんの全長を遥かに超える、巨大な魔物の姿に恐れおののく。

 圧倒的な質量でいえば、第四階層の巨大カメだけど、大きさと凶悪さで言えば、このヒュドラが最大だ!!

 呆然とする僕らの耳に、いつものナガレさんの声が聞こえたよ。


「我にしっかり掴まっておれよ~~い」

 まったく緊張感のない声音のあとで、ナガレさんは口を大きく開いた。

 その瞬間、ナガレさんの口に恐ろしい熱量の力がこもり、輝き出す。

 青く輝くその光は、蒼炎精霊のセイちゃんに匹敵するエネルギーで、周囲の海水が熱せられて揺らめいている!

 鬣の中から飛び出したセイちゃんが、ナガレさんの鼻先まで飛んで、魔力を充填しているよ。

 ナガレさんが目を細めた。


 瞬間。


 ナガレさんの口から迸る青白い閃光が爆ぜ、ヒュドラめがけてレーザー砲のように飛んでいったぁぁ~~ッ!!!

 あれはドラゴンブレスッ!!

 その衝撃波が周囲に伝わって、うっかり鬣から手が離れてしまったよ!?

 浮かび上がる身体を、アル様ががっしりと掴んで、グリちゃんのツタが押さえてくれた!

 その僕の前を、メエメエさんが「あ~れ~~」と悲鳴を上げながら、錐もみ状態で後方へ吹き飛ばされていくんだけど、あとから追いついたウオマルさんの口に飛び込んでいったんだ!

 仲間にパックンされるなんてッ!?

 あれはあれで、セーフなのかな?


 見ればウオマルさんが、メエメエさんをペッと吐き出していた。

 それを僕と一緒に見ていたアル様が、大声を上げて笑った。

「やぁやぁ、メエメエさんはダンジョンで、いろいろなものに食べられるねぇ!」

 まったくだね!



 すんでのところで身体をよじって回避しようとするヒュドラ。

 それでもナガレさんのドラゴンブレスが巨体の半分を穿ち、五本の首を吹き飛ばしたッ!!

 だけど再生の早いヒュドラを倒すには至らなかった!?

「次の攻撃を放て! 再生の時間を与えるなぁーーッッ!!!」

 ジジ様の号令でみんながナガレさんの背から離れ、ヒュドラに向かって攻撃を放つ!

 打って打って打ちまくる!!

 セイちゃんとピッカちゃんも飛び出せば、灯火に照らされた暗黒世界が、灼熱の色に染まった!


 ピッカちゃんは両手を合わせてピストルを作ると、バンバン光線弾を打って、残りの三つの首を蜂の巣にしている!

 ヒュドラの首はボロボロと崩れながらも、根元から肉が盛り上がって、再生を始めてしまうんだ!?

 必ず一本の首が、ほかより早く再生してくるんだよね。

 同時に九つの首を落す必要があるのか、あるいは胴体に急所があるのか……?


 セイちゃんの蒼炎は海底の水温によって、ヒュドラに到達するころには色を変えてしまっている。

 あれでは本来の力を発揮できない。

 みんなが魔法弾を打ち出しても、ピッカちゃんの光線で首を落としても、次々と首が再生してくるから、これでは消耗戦になって、こちらが不利になるだけだ。

 ナガレさんもすぐには二発目を発射できないみたい。

 オコジョさんとウオマルさんが飛び出して、ヒュドラの身体に飛び蹴りをしたり、腕と足を噛み千切ったりしている!

 どうしたら、あれを倒せるの??


 そのとき飛んで戻ってきたメエメエさんが叫んだ。

「首を切り落として、すぐに焼くんです! ファイヤァァ~~ッ!!!」

 目が血走っていて怖いわッ!!

 だけど、今は、なんでもやってみたい!


「ニイニイちゃん、僕の雷の杖に宿って!」

 アル様の懐に隠れていたニイニイちゃんが飛び出せば、アル様が合点がいったようにうなずいた。

「オコジョさんとウオマルさんは退避! ほかの奴らもナガレさんの結界内に戻れーーッ!」

 アル様の号令でこっちを見た面々が、杖を持って立ち上がった僕に気づいて、すぐに非難を開始する。

 ピッカちゃんとセイちゃんはその場で待機していた。


 僕は精霊さんたちにお願いをする。

「グリちゃんとポコちゃんは、僕の身体をナガレさんの角に固定して!」

「うん!」

「わかったー!」

 ふたりは僕の身体を運んで、グリちゃんがツタで角に縛り付けてくれた。

 ポコちゃんは足ヒレの上に飛び乗って、重力操作で浮かび上がるのを防いでくれる。

「次はクーさんとフウちゃんだよ! 水の中に一直線の渦を作って、その中に空気の道を通して!」

「は~い!」

「まかせて~~!」

 超高速で水が渦を巻き、それが真っ直ぐにヒュドラに伸びていく中を、フウちゃんが風の道を通す。

「ユエちゃんは僕とニイニイちゃんに強化魔法をかけて!」

「わかったよ!」


「セイちゃんとピッカちゃんは、全力で九つの首を飛ばして! 息を合わせて攻撃するんだッ!!!」

「ラジャーッ!」

「あいあい!!」

 僕らは以心伝心、みんなで力を合わせて、目の前の敵を倒す!

 勝機を見出せ!


 杖に同化したニイニイちゃんと、僕の浄化魔法が混ざり合い、杖の先端に雷が爆ぜる。

 刹那の閃光とともに、クーさんとフウちゃんが作り出した道を雷が奔り抜ける。

 その雷の威力に、通過した場所から渦が弾け飛んで消えていくので、クーさんとフーちゃんが目を真ん丸にしていた。

 この雷撃は、近くにいるピッカちゃんとセイちゃんには感電しない!

 みんなを信じるんだ!!


 雷が到達する絶妙なタイミングで、ヒュドラの九つの首が同時に飛んだ。

 ピッカちゃんとセイちゃんがやってくれた!

 そこへ特大級の雷撃が直撃する!!!

 その波動が深海の水を大きく揺らし、雷撃が直撃したヒュドラの首の付け根が真っ黒に焦げて、全身が焼けただれていた。

 それでも!

 ヒュドラは絶命していないッ!?


「あとはわしに任せろ!!」

 ナガレさんの結界からジジ様が飛び出していく。

 すぐに反応したクーさんとフウちゃんが、ジジ様に水中を泳ぐ推進力を与えた。

 ジジ様は緋色の剣に持ち替えて、ヒュドラに向かって剣を持ったまま、突っ込んでいったんだよ!!

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