第91話 第九階層 巨大な仲間たち
マッピング画面をしまうと、メエメエさんが飛び出して、みんなの中央に浮かんだ。
「参考になると思うのですが、ミディ部隊と海精霊が協力して、実際の深海に潜ったことがあるんです。そのときも似たような海溝が広がっていて、そこで遭遇した魔物のデータがこちらです!」
メエメエさんが取り出した画像には、クラーケン、海龍モドキ(リュウグウノツカイっぽい)、巨大魔イカ(ダイオウイカっぽい)、シーサーペントなどが現れた。
「どれも巨大な魔物です。それ以上の大物が潜んでいる可能性もありますので、心してかかってください!」
「おう!!!」
全員が声をそろえて叫んだよ。
ナガレさんはカニとエビの海域を離れ、海底に沿うように悠々と泳いでゆく。
いよいよ海底の絶壁に到達すると、壁に平行に潜水していく。
ポコちゃんが壁面に潜む魔物に注視してくれるので、今のところ敵との遭遇はない。
深海をゆっくり下りながら、僕らは息を殺して周囲を警戒した。
緊張感でドキドキしてくるね。
僕の灯火の灯りに引き寄せられるように、遠くから接近してくるのは、真っ白なサメに似た魚で、体長が十メーテくらいある。
「敵影が五体! あれは目で見ているわけではないと思います! この灯りとナガレさんの魔力に引きつけられていることは確かでしょう!」
メエメエさんが僕の前に座って叫ぶと、ジジ様が立ち上がって僕らの横を抜け、ナガレさんの鬣の上を走っていく!
登頂に達したとき、その手に魔法剣を持って、五回つき出せば、赤い光線弾が敵影に向かって飛んだ!!
魔法剣はあんな使い方もできるのか!?
真っ白なサメの魔物の身体は、ナガレさんとすれ違う刹那に、白い塵となって消え、魔石とサメ皮が残った。
それを鬣から飛び出したミディちゃんが回収して、素早く戻る。
よし!
ここまでは順調だね!
ジジ様はそのままナガレさんの頭頂部で仁王立ちして、次なる敵を待ち受ける構えだ。
現在僕の灯火の範囲は、ナガレさんの周囲五百メーテまで広げている。
大型の魔物の接近をなるべく早く感知したい。
かといってこれ以上広げると、今度は魔力消費が大きくなるので、ギリギリのところで留めている。
「おやつに魔力の実でもどうぞ。おそらくこの消費量ですから、小腹が空いてくると思います。そのときは遠慮なく食べるようにしてください」
メエメエさんが魔力の実が入った小袋を差し出したので、素直に受け取っておくよ。
魔力満タンの青色サンゴも、マジックポーチにたくさん入れてある。
きっと大丈夫だ。
僕の緊張が伝わったのか、すぐ後ろに座ったアル様が背中を軽く叩いてくれた。
「やぁやぁ、緊張しても疲れるだけだよ。ナガレさんとオコジョさんとウオマルさんがついているんだ。私たちもハクの背後を死守するから、今は灯火を一定に保つことに注力しなさい」
いつもと変わらない穏やかな声を聞いて、少し力が抜けた。
気づかないうちに、腕や足に余計な力がこもっていたみたいで、変な疲労感があった。
下から僕を見上げたメエメエさん。
「タブレット型ポーションでも食べます? 元気の実配合ですから、明るく前向きになれますよ」
僕の口に何粒か放り込んで、自分もガリボリかじっていたよ。
絶壁に沿って進んだナガレさん。
「したから、なにか、くるーっ!」
「大きいの!!」
ポコちゃんとクーさんが敵を感知した。
「ほっほっほ~。うむ、でかいぞう~~!」
ナガレさんが楽しそうに笑えば、先頭にいるジジ様が魔法剣を前方に向けて、無作為に照射した!
敵の姿も見えていないのに、せっかちだね!
ジジ様が放った魔法の光は、間違いなく何かを貫いた!
同時に崖の一部が崩れて土埃で視界が濁る。
灯火の中に飛び込んできたのは、巨大なタコの足だったッ!!
「クラーケンです! ナガレさん、絡みつかれないように回避してください!?」
メエメエさんが叫べば、ナガレさんの角の先端にくっついていたウオマルさんが反応した!
「我に任せよ! クラーケンなら何度も戦ってきたッ!!」
ポーンと角の先から離れると、その身体が見る見る変化していくんだ!
ダンゴウオの最終形態は、ナガレさんよりちょっと短い首長竜だったんだ!!
水龍のナガレさんと海竜のウオマルさんでは、身幅が全然違うから、ウオマルさんのほうがより大きく強そうに見える。
ひょろ長いナガレさんの前に首長海竜のウオマルさんが泳ぎ出て、その大きな口を開けてクラーケンの足に噛みつくと、肉厚のタコ足があっさりとかみ千切られた。
タコ足の長さが三十メーテくらいあって、それが濁った水の中で蠢きながら漂う。
「ああ! アルシェリード様、あの足をゲットしてくださいッ!!!」
メエメエさんの意地汚い絶叫に大笑いして、アル様とクーさんが協力しクラーケンの足を凍らせると、グリちゃんがツルを出してこっちに引き寄せてくれたよ。
ナガレさんの結界に近づいたところで、ミディちゃんがマジックバッグに回収していた。
そのあいだにも、前方の灯火と暗闇の境界で、ウオマルさんがクラーケンと戦っているよ!
オコジョさんがジジ様の横に立って、パンチを繰り出し応援している。
「そこだ、ヤレ! ブヨブヨ頭をかみ千切れ~~ッ!!!」
巻き上げられた土砂のせいで、周囲の視界が悪くなる中、クラーケンがタコスミを吐き出したぁぁーーッ!?
なんだかヤバい感じがしたので、ドリアードの杖を掲げて、前方に向かって浄化魔法を放てば、タコスミはキラキラ輝いて消えたよ!
「ナイス判断です! たまには気が利きますね!」
メエメエさんが蹄を突き出してウインクした!
たまにはって、何さ?
まったく褒められた気がしないね!
そのあとは暗闇で格闘する気配だけしか感じられなくて、どうしたものかと考え、灯火の範囲を前方に伸ばしてみたら、ウオマル首長水龍と二匹目のクラーケンがくんずほぐれつ、渓谷に転がり落ちていくのが見えた!
エェッ!?
「ウオマルさん! カムバーック!!」
思わず叫んでしまった僕を、メエメエさんが生温かい目で見ていた。
海の怪獣バトルに手に汗握ってアワアワしていると、ジジ様が別の方向に向かって魔法剣を放った!
続けてナガレさんの背中から、各々が一斉に得意の魔法を照射している!?
何が起こったのかとそっちを見れば、三体の巨大なシーサーペントが近づいていたッ!!
「速度を上げるぞう~」
のんびりとした口調のナガレさんが告げると、絶壁から離れて渓谷の中に身を翻す。
ウオマルさんとクラーケンから離れて、シーサーペントを引きつける気なのかな?
けれど、渓谷の先にもまた、新たな魔物が待ち構えていた!
それを確認したオコジョさんが叫ぶ。
「シーサーペントは任せろ! ナガレはあのデカブツを叩けッ!!!」
「うむ!」
オコジョさんはナガレさんの頭から飛び出すと、見る見る身体を大きくさせて、体長百メーテ超えの巨大ラッコに変化したよ!!
ラッコのモフモフ背中が頼もしい!
「やい、海蛇ども! お前らの相手はワシだ! 行くぜ、夏の灼熱弾ッ!!」
ラッコポケットから取り出した、真っ赤な石をぶん投げたよ!?
そんな危険な物を、身体に隠しておかないでぇぇーーッ!!
うろたえる僕の横で、メエメエさんが冷静に分析していた。
「ラッコの特性をうまく利用していますね!」
そういう問題かな??
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