第86話 助っ人参上!
「パニックになって、うっかり溺れる姿しか想像できません!!」
キッパリ言いやがった!
最悪の想像をするなんて、縁起でもない!!
頬を膨らませる僕の肩を、父様が優しく包んでささやいた。
「一緒に練習しような? 父様も練習しないと使いこなせるか心配だぞ」
優しい笑顔の影に、別の真意が隠されている気がした。
メエメエさんは鼻を鳴らして続ける。
「最後はこちらですね。皆さん首元にこのブローチをお付けください。全身を空気の薄い膜で覆いますので、衣服の水濡れとまとわりを防止します。水圧をものともしない、強力な空気のシールドです!!」
本当に小さなブローチで、水圧にも負けないなんて凄いアイテムだね!
みんなが驚きに目を丸くしていたよ。
「この小ささは便利な反面、正直頼りなく感じてしまうのも無理はありません。ですので、戦闘時に失う可能性を考慮して、念のため何箇所かに予備を装着しておいてください。これもラビラビさんの発案です!」
ザラザラーと、床にたくさんのブローチをぶちまけていた。
メエメエさんは仕事が大雑把過ぎるね!
とりあえず、数があるのでそれぞれが複数個確保していた。
精霊さんたちとミディ部隊も飛んできて、カチューシャとブローチを装着していたよ。
ニャンコズは「行きたくないニャ~」と渋っていたけれど、すでにダンジョンに敵認定されている以上、一緒に踏破しないことには以降の攻略に参加できなくなってしまうので、無理にでも同行してもらうよ。
「戦闘には参加しないニャ!」
「ついていくだけニャ!」
第七階層以降、影の薄いニャンコズは、すっかりやる気を失っていた。
「安心してください! そんな怠け者のあなたたちに、鉄壁のカプセルシェルターをご用意いたしました!!」
メエメエさんが取り出したのは丸いカプセルケースで、中にお布団が用意されていた。
「いいな~あれ。僕もあれで運ばれたいかも……」
心の声がだだ漏れしたら、みんなに大笑いされちゃった!
ニイニイちゃんとモモちゃんは、小さいので僕のポケットの中で大丈夫だそうだ。
ニイニイちゃんの雷を、水の中で使う機会があるのか疑問だけど、二匹は仲良しなので一緒に連れていくことにしたよ。
道具が行き渡ったところで、メエメエさんが改まって全員を見回した。
「私はこの先のことを考えて、重要な助っ人を召喚いたしました! 皆さん、あちらをご覧くださいッ!!」
メエメエさんが全身を翻し、示した先には、ポシェットを斜め掛けしたカッパのナガレさんと、そのお皿の上に乗ったダンゴウオのウオマルさんと、夏毛のオコジョさんが佇んでいたよ!
「!!!」
――――というか、さっきから見えていたけどね。
ナガレさんはのほほんとした笑顔で、カッパ手を挙げた。
「水の中なら、我の出番だのう。ウオマルも誘ってきたぞう」
「むむ! 海の中なら我は誰にも負けんぞ!」
カッパ皿の上で、十センテのダンゴウオが叫んでいる。
「カワウソが泣いてすがるのを、蹴散らしてきてやったぜ! 感謝しな! おもしろいことにワシも参加させろッ!!」
オコジョさんが足を一歩踏み出し、両手を左右に広げて見栄を切っていた。
あれ、でもちょっと待って?
「カワウソさんは僕の眷属じゃなくてお友だちだし、現役の夏の精霊王だから、絶対にダンジョン攻略に参加できないよね。……だけどオコジョさんもお客さんみたいなもので、契約は結んでいないよね? だとしたら、ダンジョンに弾かれるんじゃない??」
オコジョさんは見栄を決めたまんまのポーズで固まっていた。
メエメエさんを見れば腕を組んだまま、訳知り顔でうなずいている。
「そうなんです! オコジョさんはハク様の契約精霊ではありません! 植物園で大きな顔をしている
それを聞いたナガレさんとウオマルさんは、安堵の息をついていた。
固まったまま冷や汗を流すオコジョさんに、メエメエさんは告げた。
「思えば、オコジョさんはすでに夏の精霊王ではありません。つまり立場的には大精霊位に属するわけです。大精霊といっても、私以上の存在であることは間違いありません」
オコジョさんはコクコクと頭を高速で動かしていた。
「そこで私は提案します! 今ここで、オコジョさんはハク様と契約を結ぶのです!! 永遠とはいいませんが、ハク様がご存命のあいだだけでも、我らがハク様の
「任せろ! ワシはハク坊の下僕になるッ!?」
オコジョさんが気迫を込めて叫んだ!
えぇ?
下僕でいいの??
それを眺める大人たちは、無言で拍手を送っていたよ。
あっちとこっちの温度差が激しいね!
そんなわけで、急遽オコジョさんと精霊契約を結ぶことになったんだけど、特にやることはないよね?
「そうですね。ハク様が望んでオコジョさんがうなずけば契約は完了です。よく考えれば、オコジョさんという名前もハク様が与えたものですから、契約はスムーズにおこなえるでしょう!」
そう言われれば、そうだった。
鼻息の荒いオコジョさんと握手して、「仲良くしようね」と伝えれば、「おうよ! よろしく頼むぞ!」の返事で、僕らの身体がピッカーッと光って契約が完了した。
メッチャ簡単だったね?
手をつなぐ僕とオコジョさんの手に、ナガレさんがポンと手を乗せる。
「うむ、我らはハク坊を主と崇め、終生の忠誠を誓うぞう」
「そうだぞ!」
ウオマルさんもお皿の上で叫んでいた。
「うん! ずっと仲良しでいてね!」
空いているほうの手をナガレさんの手の上に重ね、笑顔で伝えれば、ナガレさんもオコジョさんもホッコリしていた。
「ああ! なんと麗しい精霊愛でしょう!!」
メエメエさんがハンカチを取り出して、演技がかった嘘泣きをしていたよ。
その日はそれで散会となって、それぞれがテントのお風呂で空気の魔道具を試したみたい。
アル様なんか飛び跳ねて戻っていったもんね。
僕も父様と桶に水を汲んで練習してみたけど、これがなかなか難しい。
上手に息が吸えなくなって、すぐにギブアップしてしまったんだ!
口呼吸だけって、訓練しないと難しいんだね。
そこでメエメエさんがアドバイスをしてくれたんだ。
「まずは息を全部吐き出す訓練ですね。空気がなくなれば自然と息を吸えるはずですよ?」
それを参考に父様がやってみたら、すぐにコツを掴んだみたい。
あとから参加したルイスも、ちょっと練習したら普通にできていた……。
僕はやっぱり上手にできなくて落ち込んでいると、父様とルイスが慰めてくれたんだ。
「急にできなくても仕方がないぞ」
「坊ちゃんは人より時間がかかるんッスよ。今回は潔くあきらめましょう!」
慰めになっていないと思う。
メエメエさんも生温かい視線を向けながら、そっと予備のカチューシャをふたつ手渡してくれた。
「おしゃれな唐草模様のヘルムもありますが?」
「普通のカチューシャでいいです!」
「えぇ~? 唐草模様は縁起の良い模様なんですよ!? マントとセットでいかがですか?」
メエメエさんは自らの首に唐草模様の風呂敷を巻いて、なぞの熱弁を振るっていた。
普通のシンプルなものにして!
見なかったことにして、精霊さんたちと一緒にお布団に潜り込んだよ!
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