第85話 メエメエさんと新たな魔道具
午前中は短距離ダッシュを何本か走らされ、午後からは安全地帯をゆっくり周回する。
武器の手入れや鍛錬をしていたメンバーには、「頑張れよ~」と声援をもらったけれど、みんなはスローペースな僕を、非常に残念そうに見ていた。
「聖魔法使いとしては超級で、見た目もかわいいですが……ねぇ? 足腰が弱過ぎです」
エルさんは僕のいいところを上げたあとに、ピシャリと駄目出ししていたよ。
む~っ!
トテトテ走っていても、息が上がらなくなってきただけ進歩だと思わない?
身体能力の高い人たちにとっては、鈍足の気持ちなんてわからないだろうけど!
だけど僕の精霊さんたちは、心からの声援を送ってくれるんだ!
「はくーっ!」
「がんばって~!」
「いくよーっ!」
「ついてきて~!」
「こうだよ~」
「ちょっと! なんで手と足が一緒に出るのよ! 馬なの!? だけど馬はメッチャ早いんだよ! そんなポテポテ走っていたら日が暮れちゃうよ! ほら、もっと手を振って! 顎が上がってるよッ!!!」
「あいあい!」
約一名鬼がいた。
「やぁやぁ、ユエちゃんに全部言われちゃったよ、あっはっは~~」
アル様がお腹を抱えて笑い転げ、草原でピクピクしていた。
むむむ!
その日の晩、生温かい視線のルイスが、そっとポーションを差し出してくれたんだ。
ううう……。
コルク栓をポキュンと抜いて、ビンを口に運ぶ。
そのとき、メエメエさんが突然戻ってきた!
「遅くなりました! ラビラビさんに装備を作ってもらったんですが、思いのほか時間がかかりましたぁ~~ッ!」
麻袋をサンタさんのように肩に担いだメエメエさんが、奥の扉から勢いよく飛び出してきて、ポーションを飲む僕の背中に激突したッ!?
ドーン!
口からポーションを吐き出して倒れた僕に、ルイスが慌てて駆け寄ってくる。
僕の背中に乗ったまま、メエメエさんがいぶかし気に小さくつぶやいた。
「なんです、ハク様? 飲み物を吹くなんて行儀が悪いですよ」
ぐぬぬ!
おのれ、駄羊めッ!!
文句を言ってやりたいところだけど、ポーションが間違って気管に入ってしまい、今はそれどころではない!
「ゲホゲホ、ゴホッ!?」
「坊ちゃん、大丈夫ッスか? メエメエさん、これは事故ッスよ!?」
「いきなり叱られました!!」
驚愕するメエメエさんの両脇を持ち上げ、横に寄せると、むせる僕を助け起こしたルイスは、困ったように笑いながら背中をさすってくれたんだ。
「神級ポーション飲んで死んだ人はいないッス! しっかりするッス、坊ちゃん!! 神級がもったいないッス!!!」
ポーションを喉に詰まらせて死んだら、末代まで笑い者になるよ!?
さらにむせるから、変なことを言うのはやめて!
数分経って、ようやく落ち着いてきた。
ボーッと突っ立っているメエメエさんに、渾身のチョップを食らわせる!!
モフッと頭部が凹んだだけで、たいした威力はなかったけれど、メエメエさんも何かを察したようで、反撃はなかったよ。
「よくわかりませんが、愛あるチョップを甘んじてお受けいたします」
どこに愛を感じるのよッ!?
これは怒りの鉄槌だよッ!!
ムキーーッ!
その後、全員にウサウサテントに集まってもらい、メエメエさんが持ち帰ったアイテムの説明をしてもらった。
「まずは、ハク様が眠っているあいだに、第九階層は水中だと確認できております。そこで役に立つと思われるのが、第七階層と第八階層の宝箱から出たアイテムです!」
ああ、僕が意識を失っている三日のあいだに、すでに調査済みだったんだね。
みんなは時間を有効に使っていたみたい。
「私は第九階層に挑むヒントが、第八階層の宝箱に隠されていることを知っていたんです! ですから第八階層の宝箱の開封を促したのです! そうそれは、すべて私の素晴らしい先見のメエ! だったのデッス!!」
メエ違いだと思う。
自己陶酔型の前置きはいいから、早く始めてくれる?
「チッ」
メエメエさんが舌打ちしやがったよ!
大人たちは乾いた笑いを浮かべていたけど、いつものことなので、特に突っ込みを入れる人はいなかった。
気持ちを切り替え、メエメエさんが取り出したのは、第七階層のお宝である空気ブローチ&カチューシャと、第八階層の宝箱から出た水属性の足ヒレだった。
それとは別に、ダイビングのレギュレーターっぽい見た目の魔道具と、水中ゴーグルを並べている。
「まずは説明が簡単な物からいきましょうか……。こちらの足ヒレは水中で推進力を生み出す魔道具です。重力操作ブーツを履いたままでも着用できる優れ物で、サイズも自由に変えられます! なんといっても、運動音痴のハク様でさえも、魚のように泳げるようになるんですッ!?」
「おぉ! それはいいな!」
ほかのみんなが驚きの声を上げているのは、最後の一文にじゃないよね?
相変わらず一言多い黒羊だ!
さっきの意趣返しなの!?
次に説明するのは宝箱から出たカチューシャと、非常時用の呼吸の魔道具と、水中ゴーグルだった。
魔法のカチューシャを装着すれば、そこからフルフェイスのヘルメットのような膜が出て、頭部をスッポリ覆ってくれるんだって。
「このカチューシャを装着すると、地上にいるときと同じように呼吸ができます。これは非常に便利な魔道具で、ラビラビさんも驚いていたんですよ!」
ほうほう。
「わしはそのカチューシャとやらは好かんぞ!」
ジジ様が難色を示すのを予見していたのか、メエメエさんは麻袋から甲冑のヘルムを取り出していた。
「そう言うと思って、ヘルムを用意しています。もちろんラビラビさんの気遣いですね。私はちっとも思いつきませんでした!」
メエメエさんが胸を張って主張する横で、ジジ様と父様とヒューゴが、ラビラビさんに感謝の祈りを捧げていた。
カルロさんは普通にカチューシャを装着していたけど。
ハイエルフのライさんとエルさんもこだわりはないようで、ルイスとカレンお婆ちゃんもカチューシャを選んでいたよ。
「水中での呼吸の心配がなくなりましたね。ですが、準備をより万全とするために、こちらの呼吸の魔道具を配っておきます」
メエメエさんが呼吸の魔道具と一緒に、水中ゴーグルを配給すれば、みんなが興味深げに手に取って眺めていた。
「カチューシャやヘルムが破損した場合は、慌てずにこちらの呼吸の魔道具を口にくわえてください。その場合は鼻まで覆うゴーグルを装着するのをお忘れなく。こちらの魔道具で十二時間呼吸が可能となります」
アル様とエルさんが手を挙げて質問する。
「このふたつはどうやって使うんだね?」
「この水中ゴーグルだと鼻から息が出せませんよね?」
するとメエメエさんが自分用の水中ゴーグルを装着し、呼吸の魔道具を口に当ててみせた。
「鼻呼吸ではなく、口から吸って口から吐くんです。いきなり使いこなすのは難しいと思いますので、事前に訓練が必要かと思います」
モゴモゴと鼻声で話しているけど、見た目がおかしくて笑いそうになった。
敏感センサーのメエメエさんが、それに気づいて僕を睨みつけてくる!
「運動神経が死滅しているハク様は、このあと特訓ですからッ!!」
えぇ~~ッ!
なんで僕だけなのよ!
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