第84話 アル様の特訓?

 そんな僕の様子を見ていたジジ様が、大きな声で笑っていた。

「ヒューゴもおふくろさんには形無しだな! ハクも元気になったか? どれ、顔色もいいな!!」

 鍛錬をしていたらしいジジ様が、僕に近づいてニカッと笑った。

「心配かけてごめんなさい。すっかり元気になりました!」

 ジジ様の背後に控えるカルロさんにも、「ご心配をおかけしました」と、軽く頭を下げておいた。


「なぁに、いいさ! 誰ひとり欠けずにここにいるだけで十分だ! お前は素晴らしい勇気を見せた! 腕力ばかりが力ではない!! 心の強さを忘れるでないぞ!」

 ジジ様に「はい!」と返事をすれば、ガシガシと頭をなでられた。

 わわっ!

 頭が揺さぶられて髪がクシャクシャになっちゃう!


 そこでカルロさんがスッとクシを取り出すと、僕の髪を丁寧に梳いてくれたんだ。

「ええ、ハク様はいつまでもそのままでいてください。見事な白銀の御髪でございます! 梳かし甲斐がありますね」

 ニコニコご満悦だったよ。

「カルロはこう見えて、かわいいものが好きだからな!」

「旦那様はかわいくありませんからね!」

 あっはっは~と、お互いに大声で笑い合っていたよ。


 その声に誘われるように走ってきたのはアル様で、手にバケツを持っているね?

 真剣な顔で僕の前にやってくると、バケツを放り投げ、いきなり抱きついてきたんだ!

 わぁ!

「私もいろんな体験をしてきたが、さすがに今回は肝が冷えたぞ! 何よりも、お前さんだけは生かして帰すと心に誓っていたものを、またしてもハクに助けられてしまったのだ!! ああ、なんと不甲斐ない!!!」

 肩口に顔を埋めて、大きな声で叫んだ。

 抱きしめる腕の力は強く、僕は黙ってそこから見えるグレーの空を見上げていた。


「――――だが、ハクが無事で良かった! お前さんと冒険できて、本当に良かったッ!!」

 んん?

 頭を上げたアル様の顔には、ピッカピカに輝く笑みが浮かんでいたよ!?

「船で闇の世界を飛び越え、船を失いながらも我々は五体満足で生きている! こんなスリリングな冒険は経験したことがないッ!!!」

 そう言って大声で笑いながら僕の両脇を持ち上げて、高い高いするんだよッ!?

 えぇ!?

 僕もう十六歳なんですけどッ!!


 テントから父様とルイスも出てきて、笑いながらこっちを見ている。

 周りのみんなも声を上げて笑っている。

 精霊さんたちとミディ部隊もやってきて、僕の回りで手をつないで輪になって踊り出した!

 僕らには悲壮感なんて似合わない。

 いつだって笑顔で過ごしていたいよね!



 ようやく地面に下ろしてもらえば、笑い過ぎて脚に力が入らなくなっていた。

 草原に座って足を伸ばせば、メエメエさんが飛んでくる。

「皆さんも笑顔になったところで、景気づけに宝箱でも開けましょう!」

 言うが早いか、影の中から宝箱を取り出して、地面にドンと置いた。

 みんながゾロゾロ集まってくると、メエメエさんが勝手にフタを開けていた。

 本当にお宝大好きだよね!


 第八階層の宝箱に入っていたのは、いろんな宝石類だった。

 真珠(白・黒・ピンク)にサンゴに大きなべっ甲、琥珀や翡翠も混ざっているみたい。

 アクアマリンやラピスラズリに、大きなダイヤの原石もあった。

「お金は入っていませんね……」

 メエメエさんがしょんぼりしていた。

「この宝石ひとつで白金貨以上の価値があるから、そうがっかりしなさんな」

 肩を落とすメエメエさんを、アル様が慰めていたよ。


「そうはいっても、現金と違って換金するのが大変ですよ!」

「まぁ、そうだねぇ」

 反論するメエメエさんの言葉に、アル様も素直に同意していた。

「そのうちラビラビさんが作る空飛ぶ船に乗って、遠くの大陸にでも売りに行ってみるかい!」

 ニカッと笑って叫んでいるけど、空飛ぶ船ができる前提なのがおかしい。

 この時代にそんなものが、実際の空を飛んでいいものなの??

 周りのみんなも「空飛ぶ船の旅か!」「いいな!」などと盛り上がっていた。

 えぇ?


 宝箱にはほかに、水属性の足ヒレ、三叉の大きなもりが入っていたんだ。

 銛は海神が持つような感じで、ヒューゴが持つと草集めフォークに見えなくもない。

 まぁ、絵面的にはあんな感じ。

 メエメエさんは足ヒレを持って、何やら考え込んでいる。

「これは第九階層で必要になるのだと思います! ラビラビさんに増産を頼んできますから、出来上がるまでのあいだ、皆さんはここで鍛錬を続けてください!」

 そう言って、メエメエさんはウサウサテントに飛び込んでいったよ。

 残された宝箱はミディちゃんに頼んで、植物園に転送してもらった。


 ちなみに、ジジ様たちが第八階層で釣りあげたアイテムは、全部ミディちゃんに預けていたので、船と一緒に焼失するのを免れたそうだ。

 あれだけ頑張って集めた魚の切り身も、全部無事だって。

 だけど船尾の収納庫に入っていた道具類は全部、奈落の底に沈んでしまった。

「今回ばかりは仕方がないさ」

「ああ、たいした道具でもないから気にするな!」

 アル様とジジ様はケロリとしていた。


「最悪、このテントだけあれば、なんとでもなるさ!」

 はぐれたときのために、全員に支給されているウサウサ・ニャンニャン・ワンワンテントのことだね。

「ニャンニャンテントの尻尾がな~」

「ワンワンテントの尻尾もなぁ……」

 機嫌が悪いとすぐに畳めないらしく、ヒューゴとライさんとカルロさんが渋面を作っていた。

 そんな声が聞こえたのか、設置されたままのテントから、「ニャ~ン」「ワン!」不満そうな声が聞こえてきたよ。

 慌ててニャンニャンとワンワンのご機嫌取りをしていた。

 大の大人が翻弄されているね!


「ウサウサテントはおとなしいよね?」

 父様に聞いてみたら、顎をなでながら首をかしげていた。

「まぁ、ウサウサの尻尾が丸いからな。イヤイヤと動いても、すぐ捕まえられるぞ」

「そうッスね。たまに反抗しても、丸い尻尾ッスからね」

 ルイスも相槌を打っていたよ。

 えぇ?

 たまに反抗するんだ……。


「さて! 時間は有効に使おうか! 三日以上寝込んでいたハクは、体力の回復に専念しよう! どれ、たまには私が指導してやろう!」

 パンと手を打ち鳴らし、アル様が元気に立ち上がった!

 ゲゲッ!?

 顔色を変えた僕を見下ろして、ニヤニヤ悪い笑みを浮かべている。

「まずはそのガチガチの身体を解そうか?」

 恐怖のストレッチ地獄が待っていた!?


 ギャァァーーッ!!

 アル様にストレッチされた翌日、全身筋肉痛になった。

「まだ若いのに、翌日に残るなんて……。実は坊ちゃんは、中身がおじいちゃんなんじゃないッスか?」

 ルイスは呆れたようにつぶやいて、僕にポーションを手渡してきた。

 むむむ!

 ルイスの言葉など右から左へスルーだッ!

 微炭酸ポーションを一気飲みしたらゲップが出たけど、疲労がすっかり回復したよ!

 は~、やれやれ。


 その直後にアル様がウサウサテントに駆け込んできて、小脇に僕を抱えて外へ向かう。

「よ~し! 今日は走り込みをしようか~!」

 僕の意思などまったく関係ないようだ。

「坊ちゃん、頑張るッス~」

 ルイスは気の抜けた声で、元気に手を振って送り出してくれたよ!

 え~~ッ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る