第83話 元気になったよ

「ハク様が眠っているあいだに、ラビラビさんに来てもらって、クルーザーの部品を全部渡しておきました。あのおもちゃの船のコピーは作ってあるそうで、さらなる改良品を準備すると、張り切っていたんです。――――船に翼が生えて空を飛んだことを伝えると、目の色を変えて飛び跳ねていたんですよ!」

 そのときの様子が目に浮かぶようで、思わず笑ってしまったよ。

 どうやらそのうち、進化した船が届きそうだね。

 うふふ。


 そのあとは、「もうひと眠りしてください」と強制的に寝かされて、夕方までグッスリ眠った。

 次に目が覚めたときにはすっかり回復して、自分のお腹の音で目が覚めたんだよ。

 よいしょと布団から立ち上がれば、一緒にお昼寝していたらしい精霊さんたちも動き出す。

 大きな欠伸をして手を伸ばしているよ。

「お腹が空いちゃった。みんなもご飯に行こう」

「は~い!」

 パッと顔を輝かせると、一斉に浮かび上がって、テントのリビングに向かった。


 そこでルイスと父様とメエメエさんが夕食の準備をしていて、僕の顔を見ると安堵したように笑ったんだ。

「ああ、顔色が良くなったな! ご飯は食べられそうかい?」

 目尻に皺を刻んだ父様に、「もう大丈夫です」と返事をした。

 立ち上がって僕を抱きしめ、そのまま夕食の席へといざなってくれる。

 僕が座ると、ルイスもニカッと笑っていた。

「何度か見に行ったんッスけど、メエメエさんがついているからお任せしたッス。俺の子もまだ小さいッスけど、坊ちゃんと同じで口を開けて寝るんですよね!」

 ルイスがお玉を片手に、ニヤニヤしている。

 それって僕が幼児みたいってこと?

 むーっ。

 僕が口を尖らせると、ルイスは破顔した。


「ハク様は俺の子と同じで、かわいいってことッスよ! 赤ちゃんのころから坊ちゃんを見てきた俺たちにしたら、自分の子どもみたいに思ってるんです。ヒューゴのおっさんも、ハク様が目を覚ましたと聞いて、ホッとしていたッス!」

 そんなことを言われると照れちゃうよね。

「ヒューゴだけじゃない、みんながお前を心配してくれたんだ。明日には元気な顔を見せてやってくれ」

 横に座った父様が、僕の頭を優しくなでてくれたよ。

「はい」


 ふと見れば、精霊さんたちも並んで順番を待っているので、父様は笑ってギュッギュとハグしてあげていた。

「私もずいぶんと子だくさんになったものだ」

 父様が破顔すれば、ルイスも声を上げて笑い、みんなをまとめてハグしていたよ。

「違いないッスね!」

 テントの中に明るい笑い声が響き渡った。


「さぁ、ご飯にしましょう! 今日は消化のいいうどんにしましたよ! 地鶏から出汁を取った絶品の品です! ドーンと川エビの天ぷらを載せてどうぞ!!」

 僕の前に置かれたどんぶりから、はみ出る巨大な川エビの天ぷら。

「切って取り皿に載せてくれる? これじゃあ、うどんが食べられないよ……」

「えぇ~? 大きいからいいんじゃないですか!」

 メエメエさんが不満そうに口を尖らせれば、ルイスが別のどんぶりと交換してくれた。


「こっちのほうが食べやすいッス」

 適度な大きさの川エビと野菜の天ぷらが載っていたよ。

「ありがとう、ルイス!」

「俺がこっちを食いまス!」

 豪快に川エビの塊にかじりついていた。

「甘くてプリプリでうまいッスね!」

 満面の笑顔を浮かべるルイスと、不貞腐れるメエメエさんと、声を上げて笑う僕と。

 父様はその様子を温かな眼差しで見守っていてくれた。


 今日はミディちゃんがこのテントにいないので、精霊さんたちもうどんのどんぶりをもらって、僕らの輪に加わって食べている。

 自分の顔よりも大きなどんぶりから、ツルツルすすって食べているんだけど、汁があちこちに飛んじゃっているね。

 口からはみ出たうどんを手で押し込んだり、川エビの天ぷらを手に持って食べているんだ。

 綺麗な食べ方ではないけれど、「おいしー」「フーフー」「おかわり~」とニコニコ楽しそうにしている姿を見れば、こちらも自然と顔がほころぶというものだ。

 ルイスと父様が甲斐甲斐しくお世話しながら、楽しい夕食を終えたよ。


 最後に冷たいデザートを食べたら、「お風呂に入っておいで」と言われて、精霊さんたちと一緒に入りに行く。

 浄化魔法で綺麗にできても、お風呂に入ってさっぱりするほうが気持ちがいいからね。

 髪と身体を洗って湯船に浸かれば、身も心もリラックスできるというものだ。

 精霊さんたちは相変わらずアワアワ遊びを楽しんで、適当に身体を流すとドボンとお風呂に飛び込んでくる。

 もう、お風呂のお湯があふれちゃうじゃない。

 僕は笑って、シャワーで泡を流してあげたよ。

 みんなはキャッキャと大喜びだった。


 お風呂から上がったら、コップ一杯の水を飲んで、髪を乾かして眠った。

 あれだけ寝たはずなのに、夢も見ないで眠れたんだ。



 翌日は朝食を済ませてから、ウサウサテントの外に出た。

 ここは安全地帯と言っていたけど、草丈の短い草原になっていた。

 天井は相変わらず薄暗い灰色だったけど。

 すでに動き出していた大人たちが、僕を見つけると駆け寄ってきて、頭をなでてゆく。

「目が覚めたかい? 君には驚かされるよ!」

 ハイエルフのライさんが明るい笑顔を向ければ、スイさんは穏やかなほほ笑みを浮かべていた。

「君がいなければ我々も生きてはいなかっただろう……、ありがとうね」

 ポンポンと優しく背中を叩きながら、ついでにチクリ。

「そうそう、魔力切れは危険だから、スッカラカンにならないように、常に余力を残す訓練をするんだよ」

 おお、指導が入ったよ!

「はい。頑張ります!」

 元気に返事をすると、ふたりは苦笑を浮かべていた。


 遠くから駆け寄ってきたのはヒューゴで、大きな身体をかがめて、心配そうに僕をのぞき込んでくるんだ。

「坊ちゃん! ああ、元気になってよかったです! 気持ち悪いとかないですか?」

 心配してくれているのはわかるけど、自分が熊男の自覚を持ってほしい。

 圧迫感が凄いね!

「もう平気だよ~」

 一歩後退って答えると、カレンお婆ちゃんが近寄って、ヒューゴの背中を蹴っていた。

「デカい身体で小さい坊ちゃんに迫るんじゃないよ! 離れな!」

 カレンお婆ちゃんは容赦がなかった。


 ヒューゴを蹴飛ばすと僕の顔を見て、満足そうにうなずいている。

「ああ、顔色がいいね。ハク坊ちゃんは小さくてかわいらしいが、心に一本芯が通っている。濁りのない綺麗な瞳をしているさ。いい子だね! そのまま真っ直ぐに生きておいき!」

 頭をワシャワシャとなでられちゃった!

 僕とそんなに身長が変らないのに、カレンお婆ちゃんは力強いんだよ!


「物理的に俺も勝てません」

 ヒューゴが草原に転がりながら、寂しそうにつぶやいたので、横にしゃがんでお礼を言っておいた。

「心配かけてごめんね。それから、ありがとうね」

 コテンと小首をかしげてかわいく笑ってあげたよ。

「ああ! かわいいねぇ!」

 カレンお婆ちゃんが飛んできて、頭を抱きしめられちゃった!

 なんか、ミディちゃんたちをなでる手つきと同じ気がする??

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