第79話 第八階層 嵐を鎮めるために!
このあと、魚群と遭遇する合間に、興味のある人全員に操縦を教えることになった。
なぜか僕が動力部の青色サンゴに、魔力注入し続けることになったのは解せない!
「まだ青色サンゴに魔力充填していないんですから、仕方がないじゃないですか。満タンにしてしまえば、その必要がなくなりますよ」
メエメエさんは船室でフライドポテト&クラフトコーラで休憩している。
精霊さんたちとカレンお婆ちゃんも混ざって、船室では楽しいおやつタイムとなっていた。
「カレン姐さんにはこちらをどうぞ! 各種お菓子を取り揃えております!」
メエメエさんがメニューカタログを差し出して、お茶を用意している。
「おや、ありがとさん。あたしゃ、この羊羹ってやつをいただくよ」
「は! ただ今ご用意いたします! 大納言小豆の豊かな味わいを、ごゆるりとご堪能ください!!」
もはや下僕だね!
そのあいだにも、魚群が押し寄せてくるよ。
巨大シーラのあとに、巨大カンパチが来たときは狂喜乱舞した!
未確認飛行物体が現れたと思ったら、巨大なホタテが回転しながら飛んできたよ!?
ドロップ品はもちろん巨大貝柱&ときどきハズレの殻だった!
精霊さんたちが巨大貝柱にダイブしてかじりついている!?
それはちょっとどうかと思うけど、一切れ恵んでください!!!
それから徐々に魔物の種類が変化して、凄く目つきの悪いイルカっぽいのが現れて、メッチャ凶悪な巨大ザメが来襲した。
さらに赤と黒のシャチが出現したので、セイちゃんとピッカちゃんに迎撃してもらった。
だってほら、赤黒系は毒だもん!
シャチの辺りから海の色が黒っぽく変わってきたので、また僕が操縦席に腰を下ろす。
「そろそろ八階層の主のお出ましでしょうか」
メエメエさんが助手席に座って、真面目な顔でつぶやいた。
口の端から貝柱がはみ出しているけど……。
次第に海が荒れ始め、早回しの映像を見るように黒い雲がどんどん広がっていく。
今にも雨が降りそうになったころ、空気が異様に重くなったように感じられた。
ジジ様やアル様たちが、無言で装備を携えて、外のデッキに向かって歩き出す。
船内には僕とメエメエさんと、ルイスが残るのみとなった。
「いざとなったら、俺が坊ちゃんを抱えて避難扉に飛び込むッス!」
どうやら僕の護衛を命じられたようだ。
フロントガラスに雨がポツリポツリと落ち始めるころ、この階層の主たる魔物が姿を現した。
僕はきっと巨大クジラだろうと当りをつけていたんだ。
だけど違った!
僕の予想は打ち砕かれたよッ!!
荒れ狂う嵐の海に現れたのは、波間を駆けるケルピーの群れと、ミイラみたいな顔の人魚軍団だったんだ!!!
ケルピーはともかく、人魚に抱いていた幻想が粉々に打ち砕かれたッ!!
綺麗なお姉さんを返してッ!?
「童話じゃなくて、魔物ですからね~。半魚人で始まり、人魚で終わるなんて、シャレが利いたダンジョンですよね」
メエメエさんは妙なところに感心していた!
近づいてくるケルピー(馬型水魔)と人魚。
大波に乗って横一線で迫ってくるケルピーの、その大きさに驚愕した。
その足下から人魚がレイスのように飛び上がってくるんだよ!
そのミイラ顔の人魚の大きさは、三メーテを優に超えていて、ケルピーはさらに大きな
クルーザーの結界のおかげか、僕の操縦士としての腕がいいからなのか、船体は波にさらわれることなく、波間で水平を保っていた。
それでも上下の動きは止められない!
舳先に立つジジ様が暴風が吹き荒れる中で、大剣を天に向けて掲げ持った!
稲妻が上空で光ると同時に、緋色の剣を振るえば、迫るケルピー軍が炎に包まれる!
それを合図に、一斉攻撃が始まったッ!!!
「おお! 凄いッス!! こんなところでくすぶっていていいのか、俺ッ!?」
背後で自問自答するルイス。
僕の護衛を『こんなところ』って言われちゃってもねぇ……。
まぁ、否定もできないけどさ。
荒れ狂う波間を漂う木の葉のような僕らの船に、次々と襲いかかるケルピーと人魚たち。
圧倒的な猛攻にひるむことなく、船上から魔法と斬撃が飛んでいく。
精霊さんたちも魔法で対抗し、クーさんはモモちゃんと一緒に波を凍らせていた!
ああ、魔法と同時に飛んでいる粉は塩だろうか?
あれも回収できないかな??
「無意識に塩分を分離して凍らせるなんて! クーさんも腕を上げましたね!!」
メエメエさんと僕とでは、感心するところが違ったらしい。
ケルピーと人魚は、いつかの川ワニ同様、この海の波から生まれてきているようだ。
嵐とともにやってきたんじゃなく、この嵐によってかき混ぜられる、海水こそが魔物だってことだよね。
長引けば長引くほど、こっちが不利になるのは明白で、そもそも
この戦いを終わらせるには、目の前の敵を打倒することではないんじゃないかな?
あの大波を引き起こす、嵐を静めること。
つまりは、あの雨雲を払い、風を退け、太陽を取り戻すこと!!
僕は立ち上がって助手席のマイクに手を伸ばす。
メエメエさんとルイスが、僕の突然の行動に驚いていたけれど、そんなことに構ってはいられない!
「ピッカちゃんとフウちゃん! あの雲の上に飛んで、最大出力の光と風で雨雲を吹き飛ばしてッ!!」
遠目にも、ふたりがうなずくのがわかった。
手をつないで空に昇っていくふたりを後押しするように、ほかの子たちが守ってくれている。
みんなが頑張っているんだもん!
僕だけここで見ているなんてできない!?
「ルイス! 僕も上に行くよ!! 操縦はメエメエさんに任せるね!!」
呼ばれたルイスは驚嘆して目を真ん丸にしていたけれど、すぐに口元を引き結ぶと、僕を先導して走り出した。
「俺が盾になるッス! 坊ちゃんは全力でやっちゃってくださいッ!!」
「うん!」
背後ではメエメエさんが、「ひょぇぇぇ~ッ!?」と絶叫していた。
二階のデッキは暴風が吹き荒れていた。
船体はうまくバランスを取っているけれど、風雨に足元をさらわれてしまいそうになる。
ルイスに支えられながら、手すりにしがみついて前へと進む。
「俺が支えます!」
ルイスが覆いかぶさるように、風雨を防いでくれても、ぐらついて身体が揺れてしまうんだ。
そこへグリちゃんが必死に飛んできて、ツルで僕とルイスの身体をデッキの手すりに結び付けてくれた。
ポコちゃんが足にしがみついて、重力操作で重くしてくれる。
周囲では魔法が飛び交っているけれど、波から生まれるケルピーがクルーザーの結界にぶつかって砕け散っては、また新たに生まれ直している!
それでも結界が持ち堪えてくれるから、みんなは無傷で戦うことができているんだ。
僕はマジックポーチから大杖を取り出して、両手で空へと掲げ持つ。
ここは火種?
ううん。
浄化魔法を真上に向かって噴き上げよう。
あの雲の上に到達した、ピッカちゃんとフウちゃんに僕の魔力を受け渡すつもりで。
「クーさんとセイちゃんは補佐して! ユエちゃんは闇魔法でみんなを守ってーーッ!!!」
同時に全力の浄化魔法を天に向けて放つ!!
僕の魔法の圧力に耐えるように、「グッ!」とルイスが呻いた。
それでも絶対に僕から手を離さない。
白光の柱が、船上から雨雲に向かって真っ直ぐに伸びてゆく。
その白光の回りを旋回するように蒼炎が駆け昇り、一気に雨雲を突き破った瞬間に、ぶ厚い雲間に小さな穴が空いた!
僕の魔法が消えると同時に、一気に太陽のごとき光熱が
中心で光と風と蒼炎のエネルギーが膨れ上がり、この階層の上空で大爆発を引き起こした!
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