第78話 第八階層 クルーザー改造!

 それを黙って聞いていたアル様が、「私も何か手伝おう」と自ら名乗り出ていたけれど、ラビラビさんが首を振った。

「いいえ、後程修正が必要になると思いますので、そのときは改善点を教えてください。ここはダンジョン内部ですから、明日に備えて今夜はしっかりお休みください! いざとなったらアルシェリード様が頼りですから!」

 ラビラビさんの真摯な言葉に、アル様は渋々うなずいていた。

 正論だから逆らいようがないよね。

「うむ、仕方がないねぇ……。あとでしっかり教えておくれよ! 絶対だよ!!」

 メッチャ念押ししていた。



 夜のあいだにも魔物の襲撃があったみたい。

 朝起きてデッキに上ったら、魔石と一緒に大量の針が落ちていた!

 ミディ部隊がデッキブラシの魔道具で吸引していたよ。

「あれは何? 掃除機なの?」

「接触面から、魔石や素材を吸引して回収する魔道具です。それにしても、夜中に切り身が落ちていなくてよかったですね。朝までに腐敗が進んで食べられなかった場合、ゴミを持ち帰って処分することになりますからね!」

 メエメエさんがブツブツと文句を言っていた。

 確かにゴミと思ってこの海に捨ててしまえば、次の魔物の材料になってしまうんだもんね。

 夜中に海に落ちた魔石なんかも、全部リサイクルされて、次の魔物の素材になっちゃう。

 もったいない気がしてくるね?


 気を取り直してコックピットに向かえば、そこにラビラビさんが残っていた。

 すでにアル様もやってきて、ワクワクした表情で僕を見ている。

「ちょうど今終わったところです。早速ですが座ってみてください」

 促されるまま座席に座れば、自動で高さ調節してくれるみたい。

 小柄な僕でも増設されたペダルに足が届くよ!


 一見するとアクセルとブレーキペダルが邪魔な感じがするけど、意思の力だけで動かすよりは魔力消費が少なくなっているようだ。

「イメージ走行では思念の乱れが発生し、どうしても魔力ロスが多くなってしまいますからね。アクセルとブレーキペダルを設置することで、命令が単純化し、ハク様以外の方でも簡単に操縦できるようになります」

 

 ハンドルの回りにはモニターが設置されていた。

「速度メーターと魚群探知機を装備しました。ハク様のマッピングスキル画面をここに映し出せるようにしたんです」

 おお! ソナー搭載!

「さらに【カメラ】ボタンを押すと、このモニターに周辺の画像が十六分割で表示されます。タップすれば全画面表示されますので、ご活用ください。また助手席側のガラス全面にも投影することができます。サポーターが操作し指示を出すことで、より円滑に走行できるでしょう」

 助手席のコックピットには船内モニターがあって、どこに誰がいるか、船体ダメージ箇所などが表示されるそうだ。

「指示を出す船内マイクも設置しました。全体に指示を届けることができます。また各フロアにも通信機を設置しましたのでご活用ください」

 ラビラビさんはペコリとお辞儀をした。


 あとは植物園に帰って眠るそうだよ。

 心なしかいつもより赤い目が充血しているように見えたので、ラビラビさんに魔力を注いであげた。

 精霊さんたちも飛んできて、ハグを要求されたのはご愛嬌。

 最後尾にちゃっかりメエメエさんが並んでいるのはなんでかな?

 ちゃんと仕事をしてよ?


 別れ際にラビラビさんが麻袋を差し出した。

「ハク様が第七階層から持ち帰った、『空気草』から作った呼吸の魔道具が入っています。万が一水に投げ出されたときは、これを口にくわえてください。そうすれば水中でも十二時間呼吸が可能になります。水の中では地上にいるように、身動きが取れなくなりますので、うっかり落ちないでくださいね」

 念を押して帰っていった。


「あれはフラグじゃないかな……」

「私もそう思います……」

 僕とメエメエさんは朝からどんより気分になったよ。




 朝食を食べて装備を整えると、いざ出発だ。

 第八階層はいまだに脅威となる魔物はいないけれど、ここまでくるのに結構な距離を進んできている。

「この階層はひたすら横に長いのかもしれませんね。その証拠に、海面付近を飛ぶ魔物しか存在していません。これから先はわかりませんが……」

 そういえばここは海なのに、ご丁寧に自ら飛び出してきてくれるんだよね。

 メエメエさんが言うように、空は高いようで実際は低く、海は深いようで浅いのかもしれない。

「ダンジョンでは地上の常識が通用しないのさ」

 アル様もうなずいていたんだ。


 助手席をアル様に奪われたメエメエさんが、運転席のヘッドレストに乗り上げている。

 僕の頭に肘をつくのはやめて?

 バートンに見られたら、行儀が悪いって叱られるよ??


 アル様はさっきから助手席のモニターで遊んでいる。

「おお、誰がどこにいるか一目でわかるぞ! ミディちゃんの姿まで! グリちゃんたちとクロちゃんシロちゃんはデッキで日光浴かな?」

 新しいおもちゃを手に入れたようで、楽しそうにしている。

 僕はブレーキペダルの利きを確認し、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

 滑るように動き出す船体は、まったく違和感がない。

 魔力消費がグンと抑えられているのがわかった。

 とはいえ、ハンドルに触れているあいだは自動で魔力を吸われ続けるので、疲れたら休むように言われたよ。

「ほらここに、運転者切り替えボタンがありますよ。ハク様以外の方が操縦するときは、これを押せばいいんですね!」

 メエメエさんも楽しそうだ。


 クルーザーは快適に大海原を走っていく。

 外は風が感じられて気持ちよさそう。

 というのもフウちゃんとグリちゃんがコックピットのガラスの縁に座って、笑顔でこっちに手を振っているんだもん。

 ふたりの髪とポンチョが風に大きく揺れている。

 ちょっと視界が狭くなったけど、かわいいから許します!

 結界があるからどんとこい、魚群!


 なんてことを考えていたら、運転席ソナーに反応があったよ!

 アル様のほうにも表示されたみたいで、スチャッとマイクを持って、「総員配置につけ! 三分後に魚群が到達する!」と指示を出していた。

 ピッカピカの笑顔で初使用を楽しんでいるみたい。

 メエメエさんが「ぐぬぬ」と呻いていたけれど。


 現れたのはウミヘビの群れだった。

 クルーザーの結界にぶつかると、粉々に砕けて消えていく。

「思うんだけど、真っ直ぐにぶつかってくるのはなんでだろう? もっと攻撃の仕方があるんじゃないかな?」

 僕が首をかしげると、メエメエさんがヘッドレストに腰かけたままつぶやいた。

「そもそもこの海域を渡れる者が、いるはずがないと思っていたのではないでしょうか?」

「そうだねぇ。仮に船があったとしても、半魚人の海域を越えられない可能性が高いねぇ。第七階層の宝箱から出た船を、生かせる術者がいるかも怪しいしねぇ……」

「魔力があって船の大きさを変えることができたとしても、あの木製ボートではあっという間に半魚人にひっくり返され、海中に引きずり込まれてしまうでしょうね」

 アル様とメエメエさんがうなずき合っていた。

 なるほどと、僕も納得したよ。

 想像するとゾッとしちゃうね。


 ウミヘビ相手ではおもしろくないと言って、ほかのみんなが船内に戻ってきたよ。

「もう蛇はいい」と言いながら、ルイスとライさんが、コックピットの後ろから興味津々でのぞき込んでいる。

「なんかカッコイイッスね~」

「ああ、見ているだけでワクワクしてくるな!」

 ルイスとライさんが和気あいあいと話している横で、エルさんが瞳を輝かせて助手席のアル様に話しかけていた。

「こんな魔道具を見たことがありません! アルさん、次は私と変わってください!」

「やぁやぁ! それじゃあ、次は私に操縦させておくれよ!!」

 メッチャ輝く笑顔で言われた。

 とりあえず、目の前のウミヘビをやっつけてからにして?

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