第77話 第八階層 無念の生カツオ
反動なのか大きな波が発生して、あわや転覆しかけたとき、ポコちゃんが重力操作で船体を押し戻してくれたよ!
ぐっじょぶ、ポコちゃん!!
黒い魚群は何度も隊列を替えながら、クルーザーに突っ込んでくるんだけど、結界にぶつかるときに大爆発を巻き起こすんだ!
「まるで爆弾のようですね!」
メエメエさんは轟音に耳を塞いでいた。
デッキに降ってくる魔石と鰹節は凶器ですらある。
「あぁぁ! 生ガツオはどこですかッ!?」
メエメエさんが頬に両手を当て、絶叫していたよ。
気持ちはわかるけど、落ち着いて?
「あんな豆粒みたいな魔石にいりませんから、生ガツオをお願いします~~ッ!!!」
その願いは、
今度は体長三メーテもあるグッピーの群れが襲ってきた!
「いやいや、ここは海だよねッ!?」
「ダンジョンですから、細かいことを指摘してもどうにもなりませんよ?」
綺麗な尾ビレのヒラヒラがドロップし、「これはドレスの材料に使えそうか?」と、父様が真剣につぶやいていた。
魚のヒレのドレスを着せられるソレイユ様が可哀そうに思えた。
でも綺麗だから高く売れそう!
三メーテ級のサバの大群に遭遇すると、メエメエさんが
「カツオのリベンジです!」
クルーザーの結界に激突すると同時に、三枚におろされたサバが哀れに思えた。
それにしても、サバの綺麗な身を見ると、メエメエさんじゃないけれど、カツオが悔しいねぇ……。
メエメエさんの無念が、ジワジワと広がってあとを引く。
ああ、せめて次はブリがいい。
駄目ならワラサでもいい!
お刺身とお寿司のネタ、カモーーン!!
僕の願いが通じたのか、五メーテ級のブリの群れがやってきて、そのあとにはタイとヒラメが舞い踊った!!
ああ、第八階層は、まさに海産物の宝庫!
幸せの楽園だよ!?
それだけに、カツオが悔やまれたんだ……。
夕方になるころ、僕の魔力残量が怪しくなってきたので、今日はここで停泊することになった。
メエメエさんが『夜でも見張り君』というフクロウ型の魔道具を出して、二階に設置していた。
「結界があるので大丈夫だと思いますが、大型魔物が来たときのために見張らせます。巨大クジラにパックンされては困りますから」
そうね。
そういう物語があったような気がする。
階下に降りれば、奥には個室の扉が並んでいて、すでに部屋割りが済んでいるようだ。
「ハク様はスイートルームです! ほかの皆さんはセミダブルですが、ぜいたくを言ってはいけません!」
メエメエさんが父様たちに叫んでいた。
「…………。誰も文句を言っていないが、ハクの部屋は精霊さんたちで大所帯だからね。広い部屋でお休み。……部屋に湯場があるから、ゆっくり入ってくるといい」
そう言って頭をなでてくれたよ。
僕と精霊さんたちは、キャッキャと部屋へ向かった。
扉を開ければ、中はラグジュアリー感満載のベッドルームで、僕と精霊さん七人が並んで眠っても大丈夫なベッドが鎮座している。
壁際のキャットタワーでは、ニャンコズがへそ天で寝ていた。
「そういえば、この階層でも出番がなかったもんね?」
「暇ニャ」
「暇過ぎてずっと眠っていたニャ」
どうやらずっとここで寝ていたようだ。
「あ~、お腹が減ったニャよ……」
二匹は虚ろな目で天井を見上げながら、へそ天でお腹をボリボリしていた。
おっさんみたいだね!
ニイニイちゃんとモモちゃんも専用の袋に入って寝ていたようだ。
部屋の隅にはメエメエさん用のカゴベッドまで用意されている。
違う部屋でもよかったんじゃないかな?
ほかにはクローゼットとトイレとお風呂がついていたよ。
お風呂には温泉が引かれていたんだよね。
ラビラビさんに感謝だ。
ホカホカでお風呂を飛び出し、その足でリビングに戻れば、全員が装備を解いて普段着に着替えていた。
テーブルにはたくさんの海鮮料理が並んでいるね!
ニャンコズとニイニイちゃん&モモちゃんが、お利巧さんのお座りでご飯を待っていた。
キッチンに目をやれば、メエメエさんとミディ部隊がせっせと料理をしているよ。
ヒューゴとルイスとカルロさんが手伝って、料理を運び、カトラリーとお皿を準備している。
度数の高いお酒類がたくさん並んでいるのには呆れたけれど、今日は退屈だったろうから、多めに見ようかな。
「さぁ、今日は獲れ立て新鮮なお魚尽くしですよ! お刺身に煮物に焼き魚、お吸い物も忘れちゃいけない。タイの炊き込みご飯も最高の仕上がりです! 皆さん、席について一緒に、いただきます!!」
「いただきます!」
メエメエさんの音頭に合わせて、全員が給食の挨拶をしていた。
まぁ、知らないと思うけどね。
「さぁ、ハク様も召し上がれ!」
メエメエさんが取り分けたお皿には、ツマがてんこ盛りだった。
「野菜を食べないと栄養が偏ります! こっちは海藻サラダです。デザートはさっぱりシャーベットをご用意しています!」
グイグイと海藻サラダを押しつけてくる!
「まずは新鮮お刺身を食べさせてっ!」
僕とメエメエさんの攻防戦を、みんなが笑いながら見ていたよ!
もう、誰かこの駄羊をカゴに放り込んできて!!
ワイワイと食事を食べ終えると、精霊さんたちと一緒に二階デッキに上がって、夜空を見上げた。
疑似的な夜空にはポッカリ丸い月が浮かび、満点の星空が広がっているね。
ポカポカの身体に風が心地よかった。
精霊さんたちは真ん丸に膨らんだお腹を上にして、大の字になって手足を伸ばしている。
「おなかいっぱ~い」
「ぼくは、まだたべれる~!」
「うん! あとでアイスたべよ~!」
などと、まだまだ食べる気満々みたい。
うふふ。
少し涼んでから階下のリビングに戻れば、そこにラビラビさんが顔を出していた。
どうやらこの船内にも異空間へつながる扉があるらしい。
ラビラビさんの隣に座って話を聞くと、やはりそんなことを言っていた。
「一晩でできる作業は限られましたから、最優先で居住スペースと異空間への脱出口を確保したんですよ。今日一日過ごしてみて、何か問題はありませんでしたか?」
それならばと、ラビラビさん&メエメエさんと一緒にコックピットに向かって、改善点を伝える。
アル様もくっついてきて、口は出さないけれど、しっかり耳をそばだてていた。
まずは助手席を設置してほしいこと。
全方向カメラが欲しいこと。
ブレーキとアクセルペダルがあったらいいなとか、いろいろ適当に伝えてみた。
「ふむふむ。了解しました。朝までには改造を終わらせますので、ハク様はゆっくりお休みください」
そう言って、どこからともなく小型の結界石を取り出して、コックピットの四隅に設置していた。
防音対策かな?
メエメエさんも注文をつけている。
「ラビラビさん、動力部分に青色サンゴを組み込んでください。万が一ハク様が気を失った場合でも、代行者が操縦できるようにしたほうがいいです。ハク様が魔力を流しながら操縦するおこぼれを、自動で充填させるんです。クルーザーが走行するだけで魔力がたまれば、青色サンゴへの魔力充填が効率化されます」
メエメエさんの訴えに、ラビラビさんが腕を組んで思案している。
「充填した魔力を消費するだけでなく、常に微充填し続けるということですね。……ふむ、試作してみましょう!」
「お願いしマッス!!」
メエメエさんとラビラビさんで話がまとまったようだ。
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