第76話 第八階層 続々大漁祭り?

 早い昼食を済ませて、待つこと一時間。

 一角マグロのリポップが始まると同時に、半魚人も復活していた。

 どうやら挟み撃ち作戦みたいだね!

 とはいえ半魚人はどうでもいいので、一匹でも多くの一角マグロを確保したい!

 僕らの願いはひとつ!!

 一致団結して一角マグロに挑んだ!

 半魚人も一角マグロの海域には入ってこれないようで、海面に顔だけ出してこっちをジーッと見つめていた。


 クルーザーに結界を張ったまま、一角マグロの群れの中を何度も旋回したよ!

 結界の外を飛ぶ一角マグロには、ジジ様&カルロさん、ライさんと父様が魔法を放って仕留めている。

 視界を埋め尽くすほどの大群なので、アル様とエルさんは弓矢を放ち、一矢で三頭も打ち抜いていたよ!!

 ルイスとヒューゴも弓は得意ではないけれど、どこに射ても当たる状態なので、おもしろがって参戦していた。

「下手な鉄砲数打ちゃ当たる~~♪ 入れ食い、グイグイ、グ~~イッ!!」

 メエメエさんがコックピット横の椅子の上で、お尻を振りながら謎の鼻歌を歌っていた。


 ミディ部隊のほかに、ユエちゃんも回収作業に参加している。

 カレンお婆ちゃんも回収のお手伝いをしてくれているようで、グリちゃんが作ったツルの網を海に投げ放ち、一気に引きずり上げる姿に戦慄した。

 その小さな身体に、無限のパワーが潜んでいる!

「ブラボー! カレン姐さん!!!」

 メエメエさんが熱いエールを送っていたけど、呼び名がお婆さんから姐さんに変っていて驚いたよッ!?

 

 成果は大漁! 

 みんなの顔に、喜びの笑顔があふれていたんだ!!


 とはいえ、いつまでもここにとどまってはいられない。

「やぁ、おしいねぇ! 転移ポータルがあれば、定期的に漁に来れるものを!!」

 アル様が至極残念そうに首を振っていた。

「でもこの先にも、違う魚が出るんじゃないかな?」

 僕が言えば、アル様は渋々納得していたよ。

 どうやら中落ち丼がたいそうお気に召したみたい。



 一角マグロの海域を抜けて、クルーザーはさらなる海へ突入する。

 これから現れる魔物に期待が高まるよね!

 初っ端から一角マグロはご褒美だったけど、アジやサンマが出ても不満はない!

 低速でのんびり航行すれば、間もなく次なる魔物と遭遇することになった。


「来るぞーっ!」

 二回デッキで昼ビールを飲んでいる、ジジ様の声が聞こえた。

 ジジ様とカルロさんは収納庫から釣り竿を取り出して、さっきから海釣りを楽しんでいたんだよね。

 魔物と遭遇しない海域でも、ときどき変な物が釣れるみたいで、メエメエさんもそっちへ行ってしまったんだ。

 舳先カメラの画面を開いて注視すれば、黒い魚群が拡大表示される。

 それはダツとトビウオの群れ!

 水面を大群になって飛んでくるんだよ!!

「よーし! 野郎ども、魚釣りだ!! 大漁だぁぁぁッ!!!」

 ジジ様の雄叫びに、父様たちが苦笑していた。

「では行くか。私も漁師になれるかな?」

 父様と従士たちが楽しそうに船室から出ていったよ。


 精霊さんたちは後ろのソファに座ってお菓子を食べているみたい。

「おさかな、かってにとんでくる~」

「やること、ないよね~」

 なんて口々におしゃべりしながら、もりもりお菓子を食べてジュースを飲んでいるんだ。

 どうやら魚の直線的な攻撃がつまらないようだ。

 クルーザーの結界にぶつかって、素材が勝手に突っ込んでくるからね。


 収納庫の奥にもりを発見した一同は、今度はそれを投げて漁をするみたい。

 銛の取っ手に紐がついているので、海に投げても回収できるんだ。

 刺さるとドロップ品と魔石が磁石のようにくっついてくる、特別仕様みたい。

 ラビラビさんが仕込んだのかな?


 間もなく水面を低空飛行してくる、三メーテ級のダツ&トビウオの群れと激突した!

 どっちも細身の魚だけど、三メーテもあれば身幅もそれなりにある。

 あれなら銛でも矢でも槍でも刺さるだろう!

 それは視界を真っ黒に染めるように大挙して押し寄せ、クルーザーの結界にバンバンぶつかって消滅していく。

 ところが魔石やドロップ品が、突っ込んでくるスピードのままデッキに落ちてくるので、

 全員が慌てて船内に飛び込んできた!

 あれじゃあ、漁どころじゃなさそうだね……。

 そういえば、ダツは危険生物だったっけ?


 ミディちゃんたちは雨傘を盾のように開いて持ち、すべての衝撃を防いでいるよ!

 あの雨傘凄い!!

 ヒューゴがコックピットに駆け寄って、ガラス越しに見上げて驚嘆していた。

「あれは開閉式の魔法盾ですね! 私も欲しいです!!」

「ラビラビさんと相談して?」

「了解ですッ!!」

 我が家の従士たちは、やっぱりどこか変だよね?

 ますます謎の装備が増えそうな予感がした。

 

 とりあえず、視界が真っ黒でも適当にクルーザーを走らせる。

 円を描いてグルグル回ってみたり、ボートレースのように急カーブを曲がってみたりした。

「楽しそうだな、ハク!」

 ジジ様も楽しそうに大笑いしていたよ。

 戦闘狂の皆さんは、三半規管も鍛えられているのか、平気な顔をしているね。


 クルーザーの揺れに合わせて、精霊さんたちがお菓子ごと吹っ飛んで、「わ~!」「きゃ~!」と楽しんでいた。

 大人たちは船室の椅子に備え付けられた、シートベルトを装着しているので平気そうだ。

 空中を行ったり来たりする精霊さんたちを軽くキャッチして、壁にぶつかるのを防いでくれているみたい。

 それがまた、精霊さんたちにとっては楽しい遊びになっているんだね。


 そうこうしているうちに、視界を埋め尽くす黒い魚群が消えてゆく。

 トビウオの討伐が完了したようだ。

「第八階層はやることが少ないな」

「また釣りでもするか」

 そんな会話を交わしながら、ぞろぞろと外のデッキに出ていったよ。

 思うんだけど、このクルーザーでこの階層は突破できるんじゃないかな?

「楽することしか考えないんですか?」

「僕の安全を考えるなら、最適解じゃない?」

「まぁ否定しませんが……」

 メエメエさんはため息をついていた。



 間もなく、次なる海魚の群れと遭遇したよ。

 五メーテもあるエイの群れが、海中ではなく悠々と空を泳いできた。

「呼吸とかどうしているんだろう!?」

 フウちゃんとアル様とエルさんが、風の刃で撃墜している。

 みんなが魔法を空に向かって放ち、クルーザー上空では爆発が多数発生していた。

 マンタっぽい魔物の落とし物は、魔石と乾燥エイヒレだったよ。

「おつまみの素~~!」

 メエメエさんが狂喜乱舞していた。

 酒の肴になると聞けば、俄然がぜんジジ様たちは張り切って、片っ端から仕留めにかかったんだ!

「周回しましょう! ハク様!!」

 メエメエさんがドアップで迫ってきたけど、却下して先に進む。

「えぇ~~ッ!!」

「あの大きな乾燥エイヒレがたくさん獲れたんだから、我慢しなさい!」

 ピシャリと言ってやったよ!



 黒い魚群の真ん中に、赤い魚が一匹見える。

 なんだかそんな童話があったような……?

 それよりも、なんで空を飛んでくるのかな?

 接近するとその正体がわかったんだけど、それは空飛ぶカツオの群れだった!

 目の部分だけ赤いキンキだったッ!!

 どうなっているのよ??


 ドーンッ!


 小賢しくもクルーザーの真横に突っ込んで、その衝撃で船体が大きく傾いた!

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