第70話 大きな船にチャレンジ!

 精霊さんたちは別の席で、バートンと一緒に楽しそうに食べている。

 第七階層での出来事を一生懸命伝えようとしているみたい。

 バートンがほほ笑ましそうに相槌を打ちながら、みんなのお世話をしてくれている。

「あのねー、バーンって!」

「ひのたま、いっぱい~~!」

「わ~って、ふったんだよ~!」

「かっこよかった~!」

「すごかったの~!」

「ハクの火種が流星雨になって降り注いだの! 大きなバジリスクが穴凹だらけになったんだよ! なのにすぐには死ななくて、最期までしぶとく襲いかかってくるから、ピッカちゃんとセイちゃんが光と炎で焼いてね、フウちゃんとクーさんが残骸を防いだのッ!! 本当に凄かったよね! ポコちゃんは倒れそうになるハクを支えたんだよ! あ、ボクとグリちゃんは応援団だよ!!」

「ハクのひだね、ボクもおぼえる~~ッ!!!」

 最後のひとりが物騒なことを叫んでいた――――。


 その話を聞きつけたオコジョさんとカワウソさんが、そっちの席にさらに詳しく聞きに行っている。

 オコジョさんは単におもしろがって、カワウソさんは瞳を輝かせていた。

「さすがハクちゃん、凄い!」

 キラッキラの視線を僕に向けるのはやめてほしい。

 カワウソさんの中で、どんどん僕が美化されているようで怖いよ!

 若干居た堪れない気持ちになりながら、昼食を終えた。



 午後からはみんなが船に乗りたいというので、クルーザーをイメージしてみた。

 白地に黒いラインが入った船体にはデッキがあって~、中は十人乗りくらい乗れて~、なんていうのを適当に想像してみたら、まぁまぁ、おしゃれなクルーザーが完成したよ!

 風の抵抗も考慮して、流線型にしたんだけど、なかなかいい感じ!

 僕が腰に手を当て、満足そうに鼻の穴を膨らませているうちに、のほほん族が遠慮なく飛び乗っていたよ!

 せめて船長に乗船許可を求めようよ!


「ハク様、みんな楽しくて仕方がないのです。さぁ、我々も乗り込みましょう!」

 バートンもワクワクしているようだ。

 釈然としないものを感じつつ、いざ乗船!


 ハッ!


 船体が高過ぎて、湖岸から手が届かないッ!?

 僕とバートンはフウちゃんに身体を浮かべてもらい、精霊さんたちに引っ張り上げてもらったよ。

 無様にベチャリと転んだ僕の横に、同じ要領で乗船したバートンは、颯爽と着地を決めていた。

 うつ伏せで転がる僕に気づいて、慌てて駆け寄ってくれたんだ。

「坊ちゃま、お怪我はございませんか?」

「ううう、平気……」

 なんとか起き上がれば、鼻血がポタリと床に落ちて、バートンと精霊さんたちを慌てさせた。

「なんとも締まらないねぇ」

「まったくだのう……」

 ドリーちゃんとナガレさんがため息をついていたよ!


 メエメエさんにお願いして、あとで港を作ってもらわなくっちゃ!

 船体が水底に着いているけれど、これは魔導船なので問題ないだろう。

 破損したらラビラビさんに押しつけてしまえばいいさ!

 ポコちゃんに湖底の砂や砂利を動かしてもらい、クーさんに流れを作ってもらえば、クルーザーはスーッと前方へ押し出されていく。


 まずは湖面に停泊して、内装を確認してみよう。

 一階の操縦席の後ろには、左右に五つの座席が横並びになっていて、中央には楕円形の長テーブルが設置されている。

 全体的にゆったりした構造で、身体が大きなジジ様やヒューゴも楽に移動できそうだね。

 革張りの座席も広く、ひじ掛けとサイドテーブルが上げ下げできるようになっている。

 精霊さんたちなら、余裕で四人は座れるよ。

 今もギュウギュウ詰めで七人座ろうと頑張っているけど、バートンが笑顔で三人を隣の席に移していた。

 無理は禁物だよ。

 クッション性もいいらしく、オコジョさんとカワウソさんとダルタちゃんが、座面で飛び跳ねているんだけど、危ないからやめてね?

 ナガレさんは「ほっほっほ~」と笑い、ドリーちゃんは呆れた様子で眺めていた。


 そこから下へ続く階段を下りてみれば、キッチンとトイレと、大きなテーブルとソファが完備された、リビングスペースになっていた。

 奥にも部屋があるようで、行ってみたら大きな船室がひとつあった。

 僕と精霊さんたちが並んで眠れそうな、大きなベッドが用意されているね。

 サイドテーブルにクローゼット、ここにはお風呂とトイレがついているよ!

 階下とはいえ、室内に外からの光が差し込んで、とっても明るく清潔だ。

 ラグジュアリー感満載だね!

 精霊さんたちがベッドに飛び乗って、ポンポンと楽しそうに飛び跳ねていたよ。


 なにこれ、ちょっと豪華過ぎない?

 僕はここまで細部にこだわってイメージしていないけど……。

 僕の背後からのぞき込んだバートンも、瞳を輝かせていた。

「なんと、素晴らしいですね! この船で生活ができそうです!」

 寝具やクッションの手触りをしっかり確認していた。

 備え付け家具の引き出しとクローゼットを開けて、中身をチェックしているけれど、当然空っぽだよね?

「危険なものはございません!」

 にっこり笑って教えてくれた。

 危険物なんて想像していないから、そうだと思ったよ。


 いったん最初の船室に戻り、そこからデッキに出てみれば、上に向かう階段を発見した。

 二階部分は広いデッキになっている。

 夜空を眺めながら、雑魚寝ができそうな大きさだよ。

 デッキフェンスから見下ろした舳先へさきには、人がゆったり通れるほどのデッキがぐるりと一周巡らされているね。

 ゆるキャラ族とダルタちゃんが、グルグル駆け回っているのが見えた。

 いつでもどこでも楽しそうだね!


 高揚したオコジョさんが叫んだ。

「さぁ! 今すぐ行くぞ、ハク!」

 好奇心旺盛なその声に背中を押されて、一階の操縦席に座ってみた。

 ラグジュアリーな座席がポツンとあるだけだから、なんだか物足りない気分になるね。

 ここにハンドルをつければ、見た目がカッコよく見えるかもしれない!

 そう考えただけで、その場にポンとハンドルが現れたよ!?

 周りに群がる全員が、「おお~~っ!?」と、感嘆の声を上げていた。

 僕もビックリしたよ!

 ちょっと都合が良過ぎ!


 とりあえず、ハンドルをギュッと握ってみる。

 グリップを握って魔力を注ぎ、フロントガラスの向こうを見上げれば、だんだん船長気分になってきた!

「行くよ、発進!」

 思わず、意味もなく足を踏ん張っていた。


 クルーザーがゆっくり湖面を走り出せば、またしても全員から歓声が上がる。

 徐々に加速してゆけば、操縦席に張りついていたみんなが、喜び勇んで甲板や二階のデッキに飛び出していく!

 外から楽しそうな精霊さんたちの歓声が聞こえるね!

 広いナガレさんの湖上を、風を切って疾走すれば、だんだん気持ちが良くなってきた。

 カーブに差し掛かると、緩やかに減速し、抜けるとすぐに加速する。

 おおお!

 綺麗に曲がれたよ!!

 唯一この場に残ったバートンが、背後の座席から拍手してくれたんだ。

「お見事でございます!」

 どうやら本当に、僕には操縦適性があるんじゃないかな?

 なんだかワクワクしてきたよ!


 高揚感に包まれて、三時過ぎまで夢中でクルーズを楽しんだ!

 魔力もまだまだ余力満タン!

 おやつのあとも頑張ろうかな?

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