第68話 宿題を出された!

 テントと植物園をつなぐ、『銀枝の樹』の実でできた異空間に入る。

 以前見たときは十メーテ四方の小部屋だったけれど、今は壁際に様々な武器が用意されていた。

 壁に備え付けられた弓や槍や剣の数が凄い!

 宝箱から出たお宝武器の改造品も、たくさんストックされているみたい。

 棚には防具や小型の武器が並び、床には大盾が並んでいた。

 さらに食料品・医薬品・ポーション類も多数保管されているようで、武器庫兼避難場所になっているんだね。


「剣が折れるなどの損傷があったときは、ここで武器の交換をしていただきます。もっとも、皆さん名のある武器を所持しておいでですから、コレクションのようになっている気もしますが……」

 ラビラビさんとアル様が、おもしろがって作った魔道具も多々あるそうだ。

「まぁ、困ったときはこの部屋を活用してください」

 どうでもよさそうにつぶやいて、メエメエさんは先へと進んでいく。


 対面にある扉を潜れば、そこはお食事処につながっていた。

 僕の帰還が知らされていたのか、すでにバートンが待機して、僕らの到着を待っていてくれたみたい。

「ご無事で何よりでございます。今夜はこちらで過ごされるとのことでしたので、どうぞごゆっくりお休みください」

 目を細め、安堵のほほ笑みを浮かべるバートンに促されて、僕と精霊さんたちはお屋敷に戻ることにした。

 ここでメエメエさんとはいったんお別れ。


「私はラビラビさんと打ち合わせがありますので、ここで失礼します」

 メエメエさんがペコリとお辞儀をした。

「急がなくてもいいから、耳栓をオーダーしておいてくれる?」

「了解しました!!」

 メエメエさんも真面目に敬礼していたよ。

「それは執事の礼ではございませんが……」

 バートンが飛んでいくメエメエさんの背中に、ポツリとつぶやいていた。

「まぁ、そのくらいは大目に見てあげて」

「大抵のことに目をつぶっております」

 バートンの言葉はもっともだね!

 僕は大きな声で笑ったよ。



 その夜はみんなでベッドのお布団でグッスリ眠った。

 自分のお布団の匂いって心地いいよね~。


 朝起きたらポコちゃんとピッカちゃんが、床に転がっていた!

 ああ、グリちゃんがベッドの端から宙吊りになっているよ!?

 どうしたらそんなことになるのよ?

 僕は飛び起きてグリちゃんを引っ張り上げた。

「なんかね~、けられた~」

 グリちゃんはボサボサ頭をかきながら、ニヘラ~と笑っていた。

 んん?

 もしかして犯人は僕なの??


 爽やかな早朝に、みんなと一緒に井戸場に顔を洗いに行けば、裏庭の畑に夏野菜が実っているのが見えた。

 ミディ農作業部隊の子たちが、せっせと食べごろの野菜をカゴに収穫して、料理場へ運んでいく。

 馬小屋ではトムとノエルとエリックが、馬たちの朝ご飯の準備をしていた。

 僕らがダンジョンに行っているあいだにも、ここではいつもの穏やかな時間が流れているんだね。

 

 しばらく朝の涼しい風に吹かれてボーッとしていたら、精霊さんたちのお腹がクーとなったので、慌てて食堂へと走ってゆく。

「もう、お腹がペコペコだよ!」

「ぼくも~」

「わたしも~」

 精霊さんたちのお腹がクークー鳴っているね!


 食堂にはすでにリオル兄が座っていた。

 僕らを見てちょっとだけ驚いた顔をしている。

「おや? 昨日ダンジョンに向かったばかりだろう? もう帰ってきたのかい?」

 僕は挨拶しながら自分の席に腰を下ろした。

「おはようございます! 今日はいったんお休みになったの。明日の朝には戻るよ」

「ああ、おはよう。何かあったのかい?」

 父様が戻っていないことに気づいて、リオル兄が若干声をひそめていた。

「うん。昨日装備が痛んじゃって、今日はその補充整備をするんだって。動ける人たちは第八階層を下見に行くって話していたよ」

 

 ちょうど朝食が運ばれてきたので、マーサの配膳が終わるのを待って、食べながらリオル兄に昨日のことを報告した。

 後ろの円卓では精霊さんたちがモリモリ食べている。

 バートンが夜のうちに、僕らの帰宅をジェフに知らせていたのだろう。

 そうじゃなかったら、今ごろ慌てていたと思うよ。

 うふふ。

 みんなはキャイキャイ楽しそうに朝ご飯を食べていた。


 リオル兄にあらましを伝えたら、みんなと一緒に植物園に移動して遊ぼう!

 成人したとはいえ僕には仕事がないので、まったり過ごしても問題ないのさ!


 テッテケ歩いてナガレさんの湖に行くと、ラビラビさんがダッシュで走ってきたよ。

「ハク様、おはようございます! 私はこれからウサウサテントに続く小部屋に行って、皆さんの装備を確認してきます!!」

 今日は朝から元気だね。

 研究員さんって、朝日に弱いイメージがあるんだけど……。

 ラビラビさんは精霊さんたちとも、笑顔で朝の挨拶を交わしていたよ。

「おはよう、ラビラビさん。ヒューゴの大盾が融けていたから、修繕してあげてね」

 犯人は僕だけど、余計なことは報告しないよ。

「かしこまりました!」

 またしても元気な返事が返ってきた。


 ラビラビさんは肩に担いだ麻袋の中をゴソゴソ探って、ひとつのアイテムを取り出した。

 それは銅の宝箱から出た、おもちゃの船だった。

 ボートの模型みたいな、シンプルな船だよね。

「これって宝箱から出た船でしょう? おもちゃみたいだけど、これがどうかしたの?」

 おもちゃの船を受け取ると、ラビラビさんが説明を始めた。

「宝箱から出た品なので、おもちゃではありませんよ! 魔力を充填して水に浮かべると、実際に人間が乗ることのできる船になるんです! 船の大きさは込める魔力量に左右されるようです!」

 ほうほう。

 僕は両手に持ったおもちゃの船を、上から横から下からと、じっくり眺めてみた。

 後ろに控えるバートンも興味深げにのぞき込んでいる。


 見るからに木製の普通のボート。

 公園の池なんかにあるヤツね。

 だけどオールがついていないよ?

「動力はどうするの?」

「おそらく操縦者の魔力でしょう。というわけで、ハク様はこの船の操縦を今日一日でマスターしてください!!」

 えぇーーッ!?

 いきなり無茶ぶり~!!

「今日は休みなんだけど!」

「ほかの皆さんが頑張っているときに、自分だけ怠けようなどと、片腹痛いですねッ!!」

 ラビラビさんに鼻で笑われたよ!

 今日は休みなのに、……休日なのに、…………休養日なのにッ!?


 不満そうな僕の顔を見るや、ラビラビさんは目線の高さに浮かび上がって、ビシッとモフ手を突きつけた。

「いいですか! 魔法はイメージが大事です! この船がこのままボートで終わるのか、あるいは漁船になるのか、あるいはクルーザーになるのか、あるいは豪華客船になるのかッ!! それはハク様次第なのですッ!?」

 いやいや、僕に多くを求められてもね。

 そもそも船の内部なんて、前世の記憶の中にもないと思う。

 ほぼガーデニング知識だしね。

 お風呂に浮かべるアヒルさんなら、すぐに思い浮かぶけど……。


「そこです! 明確なイメージさえあれば、内部なんてどうとでもなります!! とりあえず、十名は乗れる規模の船を安定して作り出してください! ――――みんなに笑われない船をお願いしますよッ!!」

 突きつけたモフ手で、僕の鼻をベシリと弾いたよ!

 地味に痛い!

 言いたいことだけ言うと、ラビラビさんは「あ~、忙しい!」と叫んで、脱兎のごとく走っていってしまった。

 えぇ~~っ?

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