第67話 明日は一日お休み!

 みんなでキャッキャと戯れながら、ふとテント内を見回せば、黒い影がいないことに気づいた。

 床に置かれたクッションの上には、クロちゃんシロちゃんと、ニイニイちゃん&モモちゃんが寝そべっているよ。

 この子たちには浄化魔法をかけておけば、匂いも汚れもスッキリ解決だ。

 お風呂は好きじゃないしね。

「あれ、メエメエさんはどこよ?」

 気になったので聞いてみれば、すぐに返事が返ってきた。

「旦那様と一緒に、外で打ち合わせに参加してるッスよ」

 へぇ……。

 それでルイスが料理番をしているのか……。


 ルイスはマジックバッグの中から魔石コンロを取り出し、寸胴鍋を置いて温める。

 そのあいだに唐揚げとローストレッグ、ボアカツ、ローストビーフを適当に並べていく。

 肉ばっかりじゃん!

「そういえば、野菜も食えって言われたッスね」

 思い出したようにつぶやいて、大きなサラダボールと、フルーツ特盛セットを取り出していた。

 主食のパンとご飯はお好みだそうだ。

 最後に飲み物を何種類か取り出し、木のお皿とカトラリーを並べれば準備完了。

「こんなもんスね!」

 ひとりで満足そうにうなずいていたよ。


 さらに別の魔石コンロを出して、ささみ肉っぽいものを焼き始めれば、匂いに釣られた精霊さんたちが押しかけている。

「これなに? おなかすいたー」

「ごはん、たべていい~?」

「ぺこぺこ~」

「おにく~!」

「これトカゲ~?」

「さっき取れたバシリスクのお肉だよ! なんだか鳥肉っぽい!!」

「あいあい!」

 ワイワイとルイスに話しかけている。


「俺も腹ペコッスよ! みんなに一口ずつあげるから、精霊さんたちはあっちでミディちゃんと食べるッス! この量じゃ全然足りないっしょ?」

「うん、たりない~~!」

 ルイスが指差す先では、ミディちゃん六人がせっせとご飯の準備をしていた。

 床に並んだてんこ盛りの大皿の数たるや!

 精霊さんたちはルイスから一切れずつ切分けたお肉をもらうと、「これおいしー!」と叫んでいた。

 さらにルイスから焼く前のバシリスク肉を山ほどもらって、大喜びで飛んでいき、ミディちゃんのお手伝いを始めたよ。

「あれ? ほかの六人は?」

「婆様のテントに応援に行ってもらったッス。婆様もミディちゃんと一緒だと、穏やかになるんスよね~」

 ルイスは生温かい視線をテントの外に向けていた。

 どうやらヒューゴがミディちゃんを拝み倒したらしい。

 

 ルイスは精霊獣用のお肉(加熱済)皿をドンと床に置いていた。

「クロちゃんたちはこっちッスよ。足りなければ言ってください」

 ニイニイちゃんとモモちゃん用に、フルーツと木の実とスイーツセットを出していた。

「仲良く食べるんッスよ?」

「わかったニャ!」

「おかわりニャ!」

「ニイニイ!」

「キュイキュイ!」

 食べる前からおかわりを要求するって、どういうことかな?



 僕も夕食の席に着く。

「今日の功労者の坊ちゃんも腹ペコっしょ! 先に食べてていいそうッス!」

 ルイスも一緒に座って、早速焼けたバシリスク肉を取り分けてくれた。

 そのタイミングで父様とメエメエさんが戻ってきたので、ふたりに浄化魔法を飛ばしておいたよ。

「おお、ありがとう! スッキリしたよ」と、父様が笑顔で手を挙げ、メエメエさんは「食事の前ですからね」と澄ましていた。

「お風呂はあとにして、一緒に食べようね」

「ああ、私も腹ペコだよ」

「私もです! 見てください、お腹と背中がくっつきそうですよ!」

 ポンポコボディで何を言っているのよ?

 いつもと変わらないフォルムのメエメエさんを見て、父様は苦笑していた。

 

 父様とメエメエさんが席に着けば、早速みんなで、いただきます!

 ひとりに一枚ずつバシリスクお肉が配膳された。

「塩コショウで簡単に焼いたッス。お好みでレモンをかけてもいいッスね」

 まずはそのまま、ナイフで切り分けて食べてみれば、淡白ながらもジューシーな味わいだった。

「うん、鳥肉っぽいけど、しっとり肉汁があって旨味を感じるよね」

「うまいな」

「うまいッスね! 俺の焼き加減は最高ッス!」

「自画自賛なんて、ぷぷぷ」

 メエメエさんはルイスを鼻で笑っているけど、いつもは自分で自分を褒めまくっているじゃない?


「お、メエメエさんはもっと焼くのが上手ッスね? 俺にコツを伝授してください!」

 ルイスがニコニコおだてると、黒羊はまんざらでもなさそうに、魔導コンロの前に移動した。

「良い心がけです! 私の見事な技をとくとご覧あれ!」

「よ! 一流羊!」

 メエメエさんが得意げにお肉を焼く横で、ルイスはお肉と野菜をパンに挟んで、おいしそうに食べていた。

「焼けました!」

「あざッス!!」

 いい笑顔でおかわりをもらっていたよ。

 どうやらルイスのほうが一枚上手うわてだったらしい。

 僕と父様はこっそり笑い合った。



 食後はおやつを食べながら、今後の予定を確認しよう。

「お義父様たちと相談したんだが、まずは装備の補充が必要だ。バジリスク戦でだいぶ痛んだからな」

「ハク様の火種は、遂に広域殲滅せんめつ魔法に進化しましたからね!」

 メエメエさんが得意げに胸を張っているのはなんでかな?

「あれ凄かったスね! いつの間にあんな魔法を覚えたんスか?」

 ルイスが興味津々で探るように聞いてくるけど、妖精界に行ったときのことは知らせていないんだよね。

 どうしよう?

 上目遣いで父様を見れば、苦笑しながらうなずいていた。

「その件については、いずれほかの従士たちと一緒に説明するよ。今はこっちに集中してくれ」

「了解ッス!」

 二度手間になることを理解して、素直に同意してくれた。


 父様はコホンと咳払いをして続ける。

「ハクは明日一日休息だ。いったん植物園に戻ってもいいぞ」

「はい!」

 お休みの言葉に、間髪入れずに返事をしたよ。

「こっちはラビラビさんに来てもらって、装備の調整をおこなう予定だ。動ける者は第八階層を探りに行くことになった。カレンさんには休息してもらう予定だが、本人の気持ち次第だね……」

「ああ見えても婆様も年ッスからね。俺より強いッスけど……」

 ルイスが神妙にうなずいていたよ。


 ヒューゴは大盾が損傷したので、ラビラビさんに修理してもらうついでに、カレンお婆ちゃんのお世話係に残るそうだ。

 本人はガックリと項垂れていたみたい。

 ほかの面々はそれぞれ自由意思で、第八階層探査に参加するそうだ。

「まぁなんだ、ハクは今夜から向こうに戻って、羽を伸ばしてくるといい。明後日の朝には戻っておいで」

 父様にハグされて、テントの奥にある小さな扉へと背中を押された。

「よーし! みんな、いったん植物園に帰るよ! 今夜は部屋のお布団でゆっくり眠ろうね~!」

「は~い!」

 僕が手を挙げると、みんなも手を挙げて良い子のお返事をしてくれた。


 六人のミディちゃんは別のメンバーと交代するようだ。

「君たちもゆっくり休んで英気を養ってね! 毎回危険なダンジョンにつき合わせてごめんね? だけど頑張ってくれて感謝しているんだよ!」

 ひとりずつハグをして別れれば、ミディちゃんたちは輝く笑顔で植物園のお家に飛んでいったよ。

 そのあとをニャンコズも軽快に駆けていく。

 第七階層の湿地帯では、特にやることがなかったもんね。

「カレンお婆さんと一緒にいるミディ六人も、朝までには交代させます」

「わかったよ。あとでみんなを労ってあげてね」

「かしこまりました」

 メエメエさんに先導されて、僕らもテント奥にある扉を潜り抜けた。

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