第66話 第七階層 安全地帯
バジリスク王の討伐が終わったからといって、これで終わりではない。
新作ポーションを飲んで体力を回復させたら、階層の出口を目指してもうひと踏ん張りしなくちゃね。
みんなはボロボロになった武器と防具を、予備で用意していた物に取り換えている。
ジジ様は金属の鎧から軽量な革の装備に変えて、腰に緋色の剣を差せば、ポンと軽く一叩きしていた。
「ここぞというときは、やはりこの剣に限るな! ――この剣と引き合わせてくれたのもまたハクであった。感謝するぞ!」
ニカッと子どものように笑って、僕の頭を豪快になでるんだもん!
わぁっ!
ボサボサになった髪を慌てて手グシで梳かせば、ジジ様は目を細めて楽しそうに笑っていたよ。
それから全員を見回し号令をかける。
「さて、用意はいいか? 行くぞ!」
「おう!」
全員がそろって返事をすれば、先頭に立って歩き出した。
頼もしいジジ様の背中を追いながら、ふと顔を上げてみれば、そこには穏やかな空が広がっていた。
さっきまでの出来事がまるで嘘のようだね。
徐々に赤く色を変える空の下を、僕らはゆっくりと進んでゆく――――。
バジリスク王の魔石を回収に向かえば、その場に宝箱が出現していないことに、メエメエさんが激しく憤慨していた。
「あんなに苦労したのに宝箱がないなんて、これは抗議しなければぁぁ~~ッ!!」
両手で頭を押さえながら、空に向かって絶叫していた。
呆れながら見ていたら、数秒後にメエメエさんがピタリと動きを止めたんだ。
鼻をクンクンさせながら周囲を見回し、「お宝の匂いがします!」と叫んで、数十メーテ離れた場所に飛んでいったよ!
「やぁやぁ。ついにお宝嗅覚を手に入れたのかい!」
アル様がおもしろがってそのあとを追っていけば、メエメエさんの歓喜の声が聞こえてきた。
「宝箱発見~って! 水没しているじゃありませんかぁぁぁ~~ッ!?」
感情の起伏が激しいね!
第七階層の宝箱は、どうやら水中に沈んでいるらしい。
「水面から角がわずかに出ているだけだねぇ! よくぞ見つけたよ!!」
アル様がメエメエさんに追いついて、メッチャ褒めている。
「私は優秀な執事ですから!!」
すぐに調子に乗って、空中で踏ん反り返っていたよ。
だけどすぐに、手足をバタバタ振り乱して憤慨していた。
『それにしても誰ですか、こんなところに落としたのはッ!? うっかり見落とすところでしたよ!!」
メエメエさんは水に手を突っ込んで、自力で宝箱を回収していた。
その様子をおもしろそうに眺めながら、アル様が笑っている。
「ハクの火種魔法で融けなくてよかったじゃないか?」
「まったくですよ!」
何やら不満そうなメエメエさんを小脇に抱えて、軽い足取りで戻ってくるアル様と合流すれば、間もなくこの階層の終わりが見えてきた。
ようやくここから出られると安堵したのも束の間、第八階層へ続く階段の前に、転移ポータルがなかったんだよッ!
ガックリと項垂れる僕の肩を、父様が叩いて慰めてくれた。
「こういうこともあるさ」
「うん……」
代わりに安全地帯があったので、今日はここで休むことになった。
仕方がないとわかっていても、気持ちが収まらないよね。
「第三階層以降は、全階層に転移ポータルがあったのに……」
いつまでも不満タラタラで僕が口を尖らせていると、メエメエさんもうなずいていた。
「意地の悪いダンジョンですから、この先は休ませないつもりなのかもしれませんよ」
えぇ?
それは困るよ。
ラビラビさんお手製のテントがあるから、植物園に戻ることができるけど、それがなかったら精神的に追いつめられてしまうんじゃないかな。
引き返すにしても、今来た道を戻らなければいけないってことだもの。
この先本当に転移ポータルがないとしたら、憂鬱になってしまうよね。
安全地帯に足を踏み入れ、中を見渡せば、作りはだいたいどこも同じだった。
とはいっても、利用した回数は少ないけどね。
少し違うところがあるとすれば、この階層の安全地帯には泉があって、こんこんと清水が湧き出ていた。
クーさんが手を入れて確認すれば、「のめるよー」とのことだ。
一般的な冒険者にとってはありがたいものだろう。
僕らはテントに備え付けの水道水を飲めばいいんだけど、好奇心いっぱいのアル様は早速カップに水を汲んで飲んでいたよ。
「やぁ! スッキリとした喉越しでうまいぞ! もう少し冷えていればいいと思うが、体力回復の効果があるようだねぇ!」
元気に叫ぶ声に釣られて、エルさんも真似して飲んでいた。
探究者さんは行動が似ているよね。
「うん、確かに。効果はわずかですが、ここまでにポーションを失っていた場合は、これは救済になりますね」
「辛うじてここに辿り着くことができて、体力回復の水にありつけたとしても、地上に戻る転移ポータルがないのは痛いねぇ……」
「ええ。我々だから耐えられますが、このダンジョンは本当に厄介ですね」
アル様とエルさんがしみじみとうなずき合っていたよ。
そのあいだにもテントの設営が進んでいた。
ウサウサテントもワンワンテントもニャンニャンテントも、地面にポイすれば勝手に開くけどね!
早速完成したウサウサテントに飛び込めば、自分の部屋に着替えを取りに走る。
父様に断りを入れて、一足先にお風呂に入らせてもらうことにした。
精霊さんたちも僕のあとに遅れずついてきている。
「父様! お先にお湯に入ります!」
「ああ、ゆっくり入っておいで」
「は~い!」
笑顔の父様に見送られ、僕と精霊さんたちはお風呂に飛び込んだ。
テント内のお風呂は以前よりも広くなっていて、ネコ足バスタブにはすでにお湯が張られていた。
手を入れて温度を確認すれば、ちょっと熱かったけれど、先にシャワーを浴びてから入ればいいや。
みんなで髪と身体を洗ったら、熱めのお風呂に浸かって温まる。
沁みるねぇ~。
「しみるねーー!」
狭いバスタブにギュウギュウ詰めになっちゃったけど、それでもみんなは楽しそうにキャッキャと笑っていた。
お風呂から上がってシンプルな部屋着に着替える。
精霊さんたちもハーフパンツを穿いて、ゆったり目のチュニックを「うんしょ、うんしょ」と着ていた。
チュニックの後ろ見ごろが丸まっちゃったグリちゃんが、上手に着られなくてワタワタしていると、それに気づいたポコちゃんが引っ張ってあげている。
「ありがとー」
「どう、いたまして!」
小さい子の言い間違いはかわいいよね。
ほのぼの笑顔でお礼を言い合っている姿に、ほっこりしたよ。
みんなでそろってリビングに向かえば、こちらも部屋着に着替えたルイスが夕食の準備をしていた。
「今日はルイスがこっちなの? カレンお婆ちゃんのところにはヒューゴが行ったの?」
「そうッスよ~。俺にはあの婆様の面倒は見れないッス。――親子水入らずッスね!」
いい笑顔で親指を立てていた。
ヒューゴがちょっぴり心配だね。
リビングの隅に置かれたソファに座って、フウちゃんに髪を乾かしてもらう。
おお!
温風が心地よく、最後は冷風で仕上げてくれたよ。
「おそわったの~」
むふーっと得意そうにして、ほかの子たちも同じようにフワフワにしてあげていた。
最後に自分の髪を乾かしているフウちゃんを膝に座らせて、クシでとかしてあげれば、嬉しそうにニコニコしているんだもん。
思わずハグしちゃったよ!
そのあとはお約束どおり、ほかの子たちも抱き着いてきて、精霊団子の出来上がり!
次の更新予定
植物魔法でゆる~くダンジョン行ってみる? さいき @mitsuru-319
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