第64話 第七階層 蛇の王現る!
そこへジジ様が魔法剣を横に薙げば、扇状にバシリスクが消えていった。
魔石とバシリスク肉が落ちて、メエメエさんが「うへぇ……」と嫌そうにしている。
仲間の三分の一くらいが一気に消滅したのを見ても、残りの個体が逃げ出さないのは、ここがダンジョンだからなのかもしれない。
これが野生の魔物なら、不利を悟って逃げるんじゃないかな?
無抵抗のバシリスクを討伐することには、少しだけ罪悪感を覚えたよ……。
なんて、前言撤回!
バシリスク地帯を抜けた直後に、バジリスクが出たよ!
駄洒落なのッ!?
バシリスクがただの毒持ちトカゲなら、バジリスクは体長十メーテもあるようなコブラの魔物だ。
頭に白い王冠模様を持ち、首の回りに無数の目があるように見える。
「あれはただの模様だね。背面には巨大な目があるんだぞ~!」
アル様が脅かすように言った!?
「やぁやぁ、騒いではいけないよ。バジリスクの鳴き声を聞けば、数分身動きが取れなくなるんだ。さらにあの口から吐き出す息は、あらゆるものを腐らせる。あの牙に噛まれれば、神経毒で即死だ。蛇の王と呼ばれる魔物だぞ!」
いつになくアル様も緊張しているようだった。
それもそのはず、数十体のバジリスクに取り囲まれているんだもん!
これってまさに絶体絶命じゃない!?
「ハク様! 周囲にバリアーを張ってください!! ……ムギュッ!?」
騒ぐなと言われたばかりなのに、メエメエさんが大きな声で叫んだので、ルイスが背後から口を押えていた!
「いやいや、メエメエさん! ちょっとは空気を読むッス!」
ルイスがメエメエさんの耳元で、小声でヒソヒソと注意していた。
活躍の場があってよかったね、ルイス!
とりあえず、言われたとおりにバリアーを張ってみた。
だけどこのバリアーは空気と音を通すんだよね。
つまりバジリスクの毒息は防いでも、鳴き声はどうにもできない。
「ラビラビさんのアイテムに、耳栓はあったっけ?」
ゴーグルとマスクと鼻ポンがあったんだから、耳栓も用意しているんじゃないかな?
口をガッチリ抑え込まれたメエメエさんを見れば、窮屈そうに小さく首を振っていたよ。
ええ!
耳栓を作り忘れるなんてッ!?
戻ったらラビラビさんに耳栓を作ってもらわなくっちゃ!
だってほら、この先もそういう魔物がいる可能性があるもの。
マンドレイクとかもそうだよね……。
「あれ、ラコラの鳴き声と対決させたら、どっちが勝つんだろう……?」
空気を読まずにうっかり口に出したら、ほかの面々に鋭く睨まれてしまったよッ!!
ごめんなさい!
もう余計なことは言いません!!
そこでアル様が取り出したのは、消音の魔道具と眠り草の粉末だった。
「こいつを風で上空へ飛ばそう。念のためハクは、バリアーの中を浄化し続けておくれ。バジリスクが騒ぎ出す前に、一気に方をつけよう」
普通にしゃべっても外に声が漏れない魔道具があったんだね。
常にメエメエさんの口に、装着していたほうがいいんじゃないかな?
アル様とエルさんと、フウちゃんが風魔法で眠り草粉を周囲にまき散らしてゆく。
上空に舞い上がった眠り草粉は、バジリスクの大きな口と鼻に吸い込まれていった。
即効性はないものの、周りを取り囲むバジリスクたちの頭が揺れ出した。
僕は言われたとおりにバリアーの中を浄化し続ける。
人間空気洗浄フィルターになった気分だね。
眠り草粉が薄い緑のベールのように、空気中に広がっていくところで、ジジ様たちが『モクモク君三号をDX』をバリアーの外の地面に転がしていく。
相手を興奮させないように、ジワリジワリと紫の煙が湧き上がってゆけば、バジリクスたちは嫌がって身体を後退させた。
「眠り草の効果は長くはもたん! 全員一撃で首を飛ばせ!! 行くぞッ!!」
アル様の駆け声と同時に、マスクを装着した大人たちが、バリアーの外へ一斉に飛び出していく!
足元から吹き上がる紫の煙に隠れて、属性を帯びた魔法剣の斬撃が飛ぶ!
バリアーのバジリスクの首が飛んできて、バンバン当たって消滅していくんですけど!?
「ひぇぇぇ~~ッ!!」
僕は大杖を掲げ持ったまま、肩をすくめて身体を小さくした。
「バリアーがあるから大丈夫ニャ」
肩に乗ったシロちゃんが、タシタシと前足で僕の頭を叩いている。
わかっているけど、本能的に頭を守りたくなるじゃない?
「シロちゃんがいるんだから心配するニャ!」
臆病風に吹かれる僕を、シロちゃんが叱責していた。
あれ?
そういえば、メエメエさんは?
ルイスも飛び出していったから、メエメエさんは解放されたはず……。
背後を見てもいないね。
キョロキョロ周囲を見渡せば、後方にいるバジリスクめがけて魔法剣を振るうルイスの背中に、メエメエさんが必死に張りついているのが見えた。
偶然か必然か、結果的に自分から戦闘に巻き込まれているんじゃない?
「巻き込まれ体質ニャ……」
シロちゃんが呆れていたよ。
『モクモク君三号DX』が燃え尽きて、紫の煙が薄れゆくころ、周囲にいたバジリスクの姿が消えてホッと息をついた。
魔除玉はダンジョンでもかなり有用なアイテムだね。
魔物を遠ざけ、ときには目くらましの煙幕にもなるんだから。
バリアーは維持したまま、軽く周辺に浄化魔法を飛ばせば、煙がすっかり消えてなくなり、視界が開けてゆく。
ミディちゃんたちが魔石回収に飛び出していこうとしたとき。
「動くなッ!!!」
鋭い声が聞こえて、精霊さんたちとミディ部隊が動きを止めた。
顔を上げて声のしたほうに目を凝らせば、黒い山のような影が見えてきた。
その丸いフォルムはさっきまでここら辺にいたバジリスクと同じだけれど、その大きさは桁違いだった。
「バジリスクの王ニャッ!?」
シロちゃんがフシャーッと威嚇音を上げて毛を逆立てている。
その大きさに戦慄し、僕はその場から動けなくなってしまったんだ。
悠然と姿を現したバジリスクの王は、鎌首を持ち上げた体高が五十メーテに達していた。
蛇の全長は百メーテを軽く超えているだろう。
コブラのように張り出した顔の横幅が二十メーテ近くあって、そこに本物の無数の目があるんだよ……ッ!?
チロリとのぞかせた長い舌の先が、二匹の大蛇になっていて気持ち悪い!
あまりの巨体を前に
ここのダンジョン、階層主がヤバ過ぎ……。
しおしおとする僕に気づいたグリちゃんが、飛んできて口の中に『元気の実』を押し込んだ。
「たべてー。げんき、でるよー」
心配そうにほっぺをペチペチ叩いている。
僕の肩ではシロちゃんが、「しっかりするニャ!」と、猫パンチを繰り出していた。
遠慮がないよね……。
黙って『元気の実』を
僕が目を離していた隙に、バジリスク王が動き出し、地上を駆るジジ様たちに襲いかかってゆく!
一鳴きで全員を無力化できるはずなのに、バジリスク王はそれをせず、わざわざ大きな身体を
重力操作ブーツのおかげで、水面でも地上にいるように跳躍できているから、なんとか回避できているみたい。
このブーツがなかったら、どうにもならなかったと思う。
ああ、さらにバジリスク王の周辺から、ぞろぞろと十メーテ級のバジリスクが生まれてくるんだ!
一匹相手にするだけでも大変なのに、こんな数に囲まれちゃったら、打つ手がないじゃない!?
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